意思を持って自立するバイクなど、まさにSFをリアルに!「SFプロトタイピング展」から「とんがっているヤマハ」が見えた

■4月30日まで羽田空港近くの天空橋で開催中!

SFプロトタイピング展
アーチスト池内啓人氏が作成したヘッドセットの試作群

クルマ好きはもちろん、ハードコアSFや大友克洋さんのAKIRAがお好きな方ならぜったいハマる企画展に、ヤマハ発動機が協賛しています。4月9日(土)から30日(土)まで、東京・大田区の羽田イノベーションシティで開かれている「SFプロトタイピング展」がそれ。

SFプロトタイピング展
「SFプロトタイピング展」会場の様子

この企画展は2輪&4輪の試作や、博物館&美術館の空間構成を手掛ける「PROTOTYPE Inc.」が企画したもの。「モータースポーツをデジタル化して新しい世界を作り出す」というテーマのもと、最新テクノロジーとアートが融合したプロトタイプ(試作品)が展示されています。

●「おいで」をするとバイクが寄ってくる!

SFプロトタイピング展
パーソナルモビリティの概念実証実験モデル「MOTOROiD(モトロイド)」
SFプロトタイピング展
エンジン部分がやじろべえのように動いて復元力を生み出します

ヤマハ発動機が出展したのは、「意志を持つオートバイ」とでもいうべきプロトタイプ「MOTOROiD(モトロイド)」と、ライディングシミュレーター「MOTOLATOR(モトレーター)」の2つ。

SFプロトタイピング展
前輪が自律的に動くのでフロントフォークとハンドルは独立しています

まずモトロイドですが、「人とマシンが共鳴するパーソナルモビリティ」の概念実証実験のために作られたモデル。「自立するバイク」として2017年の東京モーターショーにも出展されたので、ご存じの方もいるかもしれません。本来ならエンジンを抱える部分にバッテリーがあり、これが前輪のキャスター角と協調してやじろべえのようにバランスを取るため、停まっていても倒れないんです。

SFプロトタイピング展
手でジェスチャーするとオーナーを認識して寄っていきます

おまけにこのモトロイドは顔認証のためのカメラやAIを搭載していて、オーナーを見つけると自らサイドスタンドを払って自立し、「おいで」と手でジェスチャーすればそばへそろそろとやってきます(反対に手で払って車庫に戻すことも可能)。すっかりなついてくれた大型の愛犬という感じでしょうか。

この他、モトロイドはハプティクス(皮膚感覚による情報伝達)に代表される多彩なインターフェースも備えていて、既存のオートバイにはできないライダーとのコミュニケーションも可能なのだそうです。交差点の死角にいる車両を検知したり、悪天候時のラインディングでタイヤのグリップ低下を教えてくれたりしたら、オートバイライフも確実に変わりますよね。

●「可愛くなく」したのに「可愛く」感じる

SFプロトタイピング展
ライディングシミュレーター「MOTOLATOR(モトレーター)」

ヤマハ発動機のもうひとつの出展物であるモトレーターは、なんとバイク開発の現場でも実際に使われているラインディングシミュレーターです。

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ハンドルやシート位置を変えてあらゆるタイプのバイクが再現できます

重要な開発ツールであるため、詳細は教えてもらえませんでしたが、ステップやシート、ステアリングの位置関係を自由に変えることで、スクーターからレーサーまで、あらゆるバイクのライディング姿勢が作れるとのこと。今回は、こうしたライディングシミュレーターがゲームなどと融合した近未来を想定し、ガレージ兼リビングでライディングを楽しむ風景を展示しています。VRゴーグルさえ装着すれば、自宅にいながら「よっしゃ、マン島でも攻めてくるか!」なんて日が近づいているのかもしれませんね。

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オープン前日の4月8日夕方に行われたトークセッション

企画展のオープン前日に行われたトークセッションでは、出展物開発に関わったヤマハのデザイナーも登壇。モトロイドのデモンストレーションを行ったり、開発の苦労や喜びを披露してくれたりしました。

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ヤマハ発動機UIUXデザイナーの渡辺政樹さん(左)と、チーフデザイナー/デザインディレクターの前園哲平さん

モトロイドを手掛けたチーフデザイナー兼デザインディレクターの前園哲平さんは、「(モトロイドは)ペットのようなデザインとすることも可能だったが、いわゆる『不気味の谷(人や動物に似せようとすることで逆に違和感を感じること)』を嫌い、あえて可愛くないものにした。それでも実際に動かしてみると、多くの方が大型犬のようなイメージを抱くことに、思考の面白さを感じる」と述べました。

SFプロトタイピング展
2002年に登場した伝説のロボット操縦ゲーム「鉄騎」コックピットの最新版も展示されてます

UIUX(ユーザー体験)デザイナーである渡辺政樹さんは、「自分は子供の頃、『ミニ4駆に乗りたい』と真剣に思っていた。今、ARやハプティックといったテクノロジーを通じて、そんな子供の頃の夢が実現しそうになっている。そこがとても面白い」と語っていました。

2017年にイノベーションセンターを立ち上げ、デザイナーとエンジニアどうしの「越境」を活発化させているヤマハ発動機。今回の「SFプロトタイピング展」は、そんな「とんがったヤマハ」を垣間見る貴重な場といえるかもしれません。

【SFプロトタイピング展・概要】
会期:2022年4月9日(土)〜30日(土) 10:00~18:00
場所:羽田イノベーションシティ ZONE-K / HANGER-B(K-104)
入場無料:日時指定予約制
予約は以下サイトより
https://sfprototyping.peatix.com/

(文と写真:角田伸幸

この記事の著者

角田伸幸 近影

角田伸幸

1963年、群馬県のプロレタリアートの家庭に生まれる(笑)。富士重工の新米工員だった父親がスバル360の開発に立ち会っためぐり合わせか、その息子も昭和期によくいた「走っている車の名前が全部言える子供」として育つ。
上京して社会人になるも車以上に情熱を注げる対象が見つけられず、自動車メディアを転々。「ベストカー」「XaCAR」で副編集長を務めたのち、ポリフォニー・デジタルにてPlayStation用ソフトウェア「グランツーリスモ」シリーズのテキストライティングに携わる。すでに老境に至るも新しモノ好きで、CASEやパワートレインの行方に興味津々。日本ディープラーニング協会ジェネラリスト検定取得。大好物は豚ホルモン(ガツとカシラ)。
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