ラグジュアリーライフスタイルブランドを目指すLEXUSのシンボル【LEXUS LY650試乗インプレッション by 山﨑憲治】

■まるでレクサスLSかレクサスLC?

東京湾に現れたLEXUS LY650

●フロリダにて「LEXUS LY650」がワールドプレミア

プロローグは2017年1月に始まる。LEXUS Sport Yacht Conceptの北米マイアミでのデビューがそれ。その後5月にはジャパンプレミアされた。このコンセプトモデルは42フィートのオープンイクスプレス艇、販売はされず本編の始まりは2年半を待つことになる。

2019年9月、フロリダの青い空と海を舞台に、フォートローダーデールの北、ボラカトンのハイエンドなリゾートホテルのプライベートポンツーンから始まる。そこに舫われた65フィートの瀟洒(しょうしゃ)なサロンクルーザー。招待された各国のメディアやゲストたちは、他に類を見ないその艶やかなフォルムに魅せられた。ラグジュアリーライフスタイルブランドを目指すLEXUSのシンボルとなるLEXUS LY650のワールドプレミアだ。

2019年10月30日、販売開始。ジャパンプレミアは翌年2020年3月の予定だった。残念ながらコロナ禍の影響でそのスケジュールは未定のままである。北米に2艇、国内に2艇のみデリバリーされたが受注は中断されたままだ。

●横浜ベイサイドマリーナに現れたLY650

LEXUS LY650
LEXUS LY650

横浜ベイサイドマリーナのメガヨットバースに舫われた。カッパー/グレーメタリックのハル、フライブリッジのカーボンブラック、空の青、アズーロエマローネ、秘蔵された磁器のように晩秋の陽光を浴びて煌めいている。

その煌めきはこのフネのカタチに依拠している。バウからスターンまで流れる曲線、フラッシュサーフェスなフロントウインドウからの流麗なクーペフォルムが主張する美学。伸びやかな直線となだらかな曲線、美の綾を織り成す局面、紡ぎあげ削り込み構成し、美神を呼び込んだフォルムに目を奪われる。

まるでレクサスLS500のフォルム、いやLC500のサイドフォルムのようなクーペを思わすキャビンルーフ形状、複雑に曲線が纏い整然と収束するアフトサイド、ハルサイドの舷窓をキャラクターにするブラックライン。アートフルなフライブリッジのスタイリング。レクサスロゴをフューチャーしたサイドのエアインテーク。バウトップの効果的なクロームのガーニッシュ…。

デザインコンシャスというにはあまりにたやすい。LEXUSのデザインフィロソフィを具現化したデザイナーの想いが伝播する。レクサスブランド30年の歴史の意味するもの、レクサスをカーブランドからライフスタイルブランドへ昇華させる、CRAFTEDのフィロソフィ。新たなライフスタイルブランドLEXUSのICONへのチャレンジだ。

アバンギャルドなレクサスデザインの船体を実現化したのは、米ウイスコンシン州のMarquis Yachts社(マークウィス ヨット)。インテリアは世界のマリンシーンをリードするイタリアのスーパーヨットデザイナーNuvolari Lenardとのコラボレーションという決断。

●エンジンにはボルボ・ペンタを選択

更にSport Yacht Concept はLC500同様の5LV8-450×2のスターンドライブだったが、LY650はドライブユニットにVolvo Penta IPSシステムを選択した英断。Volvo Penta D13-IPS1350は直6 OHC24バルブ-12.8Lディーゼルターボ。デュアルステージターボ+ツインインタークーラー。クランクシャフト出力1000hp/2400rpm。トヨタグループ以外からのエンジン選択、そしてこのフォルム、話題は豊富だ。

LEXUS LY650
LEXUS LY650

接岸しているポンツーンに立つ。ハルサイドの可変しながら収束するふくよかな曲面、クロームのガーニッシュ。まるで工芸品を思わせる。

スイミングプラットフォームから乗り込む。シートイガレージ両脇から4ステップでアフトデッキに至る。後端にテーブルを挟むデザイン化されたコの字ソファが置かれる。左舷にはBBQグリルとウエットバー、製氷機、冷蔵庫のキャビネット。左舷と右舷のキャビンCピラー下部にはジョイスティックが離接岸のサポートヘルムとして隠されている。

アフトデッキはもちろんのこと、オープンエリアはチークが貼り巡らされる。右舷のフライブリッジラダーの下部が電動で開き、クルールームへのエントランスとなる。

LEXUS LY650
LEXUS LY650

スライドドアを開けメインサロンへ。明るく艶やかな空間が広がる。レイアウトは前方にヘルムとサロン、後方にギャレーの最新トレンド。左舷はカウンターを跳ね上げるとコンロやシンクが現れ、レンジやワイングラスキャビネットも用意されるオープンキッチン。右舷には大型冷蔵庫がファニチャーとして溶けこんでいる。ブラウントーンのウッディな設え、そのパネル素材はユーカリの木だ。

その先にサロンとヘルムステーションが広がる。左舷にはテーブルと真っ白なL字ソファ、対面する右舷にはI字ソファ。アッシュなフロアもウッドモード仕上げ。フロアにはLEXUSのLをモチーフのオーナメント、テーブルの支柱にもLが潜んでいる。ゆったりとしたサロン、オレンジのアンビエントライト、なんともリキュスな世界が広がる。

LEXUS LY650
LEXUS LY650

右舷前方にメインヘルム、2脚の革製シートの前にはカーボン製コンソールにGARMINの17インチマルチディスプレイが3面並び、革巻きホワイトのステアリングホイール右にIPSコントローラ―とジョイスティックが位置する。もちろんヘルムからの視界は極めて良好だ。

ヘルム背後には49インチのTVモニター、ブルーレイプレーヤが潜み、Mark Levinsonの豊かなサウンドと共にAV環境を仕上げている。

更にはボートコネクティッド技術「LY-Link」を搭載し、エマージェンシーにもスマホ対応可能にしてくれる。左舷にはパンタグラフ式サイドドアがありキャットウエイへのイージーアクセスが可能。バウデッキにはサンタンベッドにソファ&テーブルのオープンテラスラウンジが展開している。

コンパニオンウエイのステップを降りて3ステートルームを持つロアデッキへ。踊り場にはコーヒーメーカーとワインクーラー、降りたミジップのオーナーズスイートのドア脇にウオッシュ&ドライが用意され、ロングクルージングのスタンバイに抜かりはない。

ビームいっぱいに広がるオーナーズスイート、両舷に広がるシービューウインドウからの豊かな採光、ホワイト基調のインテリア、ユーカリのウッドウオール、コクーンのようなキングサイズベッド、ふくよかなラウンジソファ、楕円のサイドテーブルにはドレッサーが潜んでいる。シートの縫製、家具の仕上げ、熟練した職人のクラフトマンシップがほとばしる。

43インチTVモニター、ウォークインクローゼット、パウダールーム、エレガントな空間の設えが心地よさを演出する。バウには専用のパウダールームを持つVIPルーム、デザインホテルのアートフルなステートルームのあでやかさで展開する。少し妖しい。ツインベッドのゲストルームにも専用のパウダールームが用意される。

フライブリッジへ、カーボン素材のTトップを持つフライブリッジはL字ソファにテーブル、ウエットバー&冷蔵庫、右舷前方にサンタンベッド、左舷にキャプテンシートは1脚のみのアッパーヘルムとコンパクトにまとめられている。とはいえ、ヘルムステーションの装備はメインヘルムと同様、カーボンのコンソールに3面のGARMINマルチモニター、ステアリングホイール左にIPSコントローラ―、ジョイスティックレバーがセットされ、間違いない。

●直進性の良さ、ソフトな乗り心地に満たされる

淡いブルーの空、西から天気は崩れる予報。北風6m、気温16度。昼下がりの横浜ベイサイドマリーナ。全長19.94m全幅5.76m。暖機を終え、フライブリッジのアッパーヘルムで係留バースを離岸する。VOLVO Penta D-13IPS1350-1000psエンジン×2基はデジタルレブカウンターの指針で稼働確認するほど静寂。600rpm6ノット11L/hでマリーナ内を抜け根岸沖から八景沖へ。

1000rpm10ノット46L/h、1250rpm12ノット85L/h。ピッチの長いうねりと重なる東京湾特有のチョッピーな波がある。スロットルを入れていく。確実な駆動が伝わっていく。フラップはオート、柔らかい加速がシームレスに続きプレーニングしていく。ヘディングは観音崎。1500rpm14ノット144L/h、1800rpm21ノット202L/h。直進性の良さを感じている。2000rpm25ノット254L/h。フェアウエイライドなソフトな乗り心地に満たされている。

まるでクルマ感覚のステアリングを切りこんでいく、軽いインサイドバンクを伴いながら回頭が始まる。ARGジャイロが回頭の邪魔をすることもなく、リニアな動きでイメージ通りのトレースを続けていく。

本船からのはぐれ波に突っ込んでみる。波を切り叩き落すがスプレーは上がらない。スラロームを試みる。スムーズな切り返し、しなやかな動き。船底後端V角トランサムデッドライズ17度、ニュートラルでスポーティなマニューバビリティが痛快感を伴ってくる。65フィートを感じさせないライトウエイトな軽快感に満たされていく。

船底のストラクチャーはCFRPカーボン繊維強化プラスティック、ハルはGFRPバキュームインフュージョン、軽く強靭なハル構造が安定した走行性能を保証している。2200rpm30ノット300L/h、小気味よい加速が続く。スロットルを全開にする。2400rpm34ノット325L/h、トップスピード2440rpm35.1ノット385L/h。向かい風5m、5名乗船。堂々たる成果だ。

山﨑憲治氏
山﨑憲治氏

まずはこのまま東京セブンアイランド、伊豆七島をアイランドホッピングするクルージングに出かけたくなる。黒潮カレントをもビロードの海に変えるLEXUSライドの魔法にはまり込んだようだ。

下船し、ふと振り返る。西日を受けたLY650のシルエットが浮かびあが、燦然と輝いて見えた。孤高な気高さが麗しい。

LEXUS LY650は、日本ボート・オブ・ザ・イヤー2020の特別賞を受賞。ジャパンインターナショナルボートショー2022のフローティング会場の横浜ベイサイドマリーナに出展される。じっくりとご覧あれ。

(文:山﨑 憲治/写真:山田 真人・レクサス)

【関連リンク】

ジャパンインターナショナルボートショー https://www.boatshow.jp/

日本ボート・オブ・ザ・イヤー https://www.marine-jbia.or.jp/boat-of-the-year/

この記事の著者

山﨑 憲治 近影

山﨑 憲治

1947年京都生まれ。子供のころから乗り物が大好き、三輪車、自転車、バイク、車、ボート。まだ空には至ってはいない悩みがある。
車とプレジャーボートに対する情熱は歳を得るとともに益々熱くなる。
日本人として最も多くのプレジャーボートのテスト経験者として評価が高い。海外のボートショーでもよく知られたマリンジャーナリストである。2000年~2006年日本カー・オブ・イヤー実行委員長。現・評議員。2008年~現在「ボート・オブ・ザ・イヤー日本」実行委員長。パーフェクトボート誌顧問。
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