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■2年ぶりのエコパでフレッシュなメンバーがシノギを削った
●世界各国の学生たちにより戦われる「学生フォーミュラ」とは?
1981年にアメリカで開催された「Formula SAE」から始まった「学生フォーミュラ」は、その名の通り学生が自ら小型フォーミュラカーを使ったビジネスの構想をし、それを売り込むという体で、車両の設計からその車両を売り込むプレゼンテーションをし、実際にフォーミュラマシンを製作するというものづくりを体験しながら、用意されたコースで走らせて、車両のデザインなどのそのアイデアや性能評価などを競い合うものです。
アメリカを始め、イギリス・イタリア・インド・オーストラリア・オーストリア・オランダ・カナダ・スペイン・タイ・チェコ・ドイツ・ハンガリー・ブラジル・ロシア・韓国・中国・日本といった世界各国で、ほぼ同一のルールで競技会が開催されています。
「学生フォーミュラ 日本大会」は、2003年から毎年開催されてきましたが、このコロナ禍の影響で、2020年大会は不開催となりました。
2021年大会はオンラインでの開催となり、実車での審査のない、静的審査と呼ばれている書類上の選考、そしてプレゼンテーション部分の審査が行われました。
すでにその審査は9月上旬に終了しており、その結果、コスト審査で2位、プレゼンテーションで2位に入った神戸大学が258.18点を獲得し、同校初の総合優勝となりました。2位には251.41点で大阪大学、3位には京都大学(238.62点)が入っています。
この学生フォーミュラ大会を主催する自動車技術会は、この審査とは別に、実際に車両を確認する機会を設けたいとして、車検/動的審査代替イベントとして、これまでも本会場として使用してきた静岡県袋井市/掛川市のエコパ(小笠山総合運動公園)を使用しての「公式記録会」を開催しました。
この記録会に42チームのエントリーがあり、これを2021年10月24日(日)から2週末にわたって、合計3日間の日程で実際に各チームが合同で車検および動的審査をすることになりました。
●計38チームにより行われた2021学生フォーミュラ 車両審査・試走会
その初日となる10月24日(日)には、ICV(内燃機関車)の13チーム、EV(電気自動車)の1チームが割り振られたものの、残念ながらICVの2チームが不参加となりました。続く30日(土)も14台が、そして31日(日)はEVおよび上位校を中心にした12チームが参加し、合計38チーム(ICV34台・EV4台)がエコパでのマシン確認の機会を得ました。
3日間の日程のうち、最終日のみ天候が荒れました。前夜に降った雨のため、路面はウェット。さらにオートクロスの時間帯にも非常に激しい降雨に見舞われました。そのため、単純にタイムを横並びで比較とはいかなかったものの、各チームの仕上がりも確認することができました。
今回の試走会は、本大会と同じ会場を使用するということで、本番の動的審査と同じように、75mの直線加速性能を競うアクセラレーション。内径15mの「8の字コース」で旋回性能を競うスキッドパッドをまず用意。
その後コースレイアウトを変更して、直線・ターン・スラローム・シケインを含む複合コースのオートクロス、さらにこの複合コースを2名のドライバーで周回を重ねるエンデュランスが3日間とも同じように行われました。
走行を前に本番の車検に準じるものや、ブレーキテストなども行われました。といっても、まずは各チームが走行できることを試走会の趣旨としているので、本大会のような厳しい評価チェックはなし。
「このままでは本大会では通らないよ」という評価があったり、「ここはこういう処理はしないほうが良い」といった、的確なマシン製作の際のアドバイスなどを直接受けることができる機会ともなりました。
2年にわたってこの本大会が行われなかったこともあり、参加するチームもフレッシュなメンバーが多いのも今回の試走会の特徴といえます。
なんといっても、このエコパの学生フォーミュラ用にレイアウトした特設コースを実際に走行したことのあるドライバーは各日2~3名のみと、ドライバーの大半がこのコース初心者であることからも、代々受け継がれていくものがなくなってしまっていることを改めて実感できます。
さらに参加するチームのメンバーを見ても、前回は手伝いに来ただけだった新入生が中心メンバーになっていたり、といった具合です。
また今回の試走会では会場内には11名しか入れないという制限もあることから、中心メンバーはあえて来場せず、来年の大会のために若手に現場を見せることを重視したメンバー構成になっていたりもします。
平時でもなかなか車両製作が思うように進まないというチームは多数ありますが、このコロナ禍では、マシンを作るという実際にメンバーが集まって作業するということ自体、学校側が許可しなかったり、スポンサー獲得作業にも支障をきたしていた様子。実際の大会のための静的審査のデータ・資料作りもオンラインでできることにはやはり限界があり、といった具合。
それでも、ここまでやって来れたチームには拍手を贈りたい、と素直に思います。しかし、学内での新入生歓迎会などの行事も行なわれていないという学校も多く、今後の新入生の獲得にも支障をきたしているというチームも少なからずおり、心配な部分が多いのも確かです。
このブランクの結果、各チームの体制にどんな影響が出るのか、来年の大会の行方が気になります。まずは、次回大会が無事に開催されることを期待したいです。
【今回、参加したチームの様子をピックアップ!】
●走行できないまま終了してしまった
#10早稲田大学(2021年大会50位)
いろいろトラブルがあって走行ができないまま終わってしまった早稲田大学チーム。引継ぎがうまく行かなかったことが原因。ほぼ初心者のメンバーが短絡的に深く考えずに制作した結果、ズレが重なって、この場にきてトラブルが多発してしまった様子。この経験を経て来年強くなることに期待したいですね。
●3か年計画の2年目は速さの追求
#28静岡工科自動車大学校(2021年大会28位)
車両の開発を学ぶコースのカリキュラムとして学生フォーミュラに参戦している静岡工科自動車大学校。昨年から3か年計画で速さの追求がコンセプト。2年目の今年は信頼性の向上というテーマで取り組んでいます。
●はるばる北の大地から
#58北海道大学(2021年大会23位)
とりあえず走ることを最優先しGWにはシェイクダウンができていたものの、その後は活動停止と再会を繰り返し思うように活動できず、で記録会に向け何とか間に合わせたという北海道大学チーム。今年は23位という結果でしたが、大会経験のないメンバーが作ったマシンとしては一定の成果が得られた、とも。
●海外の学生フォーミュラを研究してできた一台
#43トヨタ名古屋自動車大学校(2021年大会34位)
学生フォーミュラ大好きという、トヨタ名古屋自動車大学校。リーダーの研究の結果、例年以上に洗練された外観で制作されたというこの車両。毎年メンバー総入れ替えのチームのため、まっさらから始まりましたが、役割とか関係なく来れる人に毎日仕事を割り振っていたらシェイクダウンも試走も例年より早くできたようです。
●まだまだCVTの煮詰めをして行く
#41東京大学(2021年大会10位)
東京大学チームは、昨年から2021年大会にどう臨むかということを話し合い、エンジン横置きの2ペダルのマシンの熟成を考えて仕上げてきたマシンです。すでに10回ほど試走を重ねてきており、改良点など洗い出せたようですが、CVTの制御ができていなかった部分があって、その最後の詰めがまだできていないようです。
●実走は少々物足りなかった!?
#2神戸大学(2021年大会優勝)
神戸大学は、総合優勝したチームですが「良いタイムが出るんじゃないか、と正直期待して臨んでいたので、オートクロスが時間切れで走れなかったり、思い通りにはいかなったです」と、この日の天候(雨)に対する恨み節も出ていました。が、「コロナ禍でイレギュラーなことが続いたものの、その分やりがいはあったと思います」とコメントしてくれました。
(青山 義明)