クラシカルな装いに最新デバイスを詰め込んだレトロスタイル・ビッグシングル【ホンダ GB350・概要編】

■始まりは1983年

熟年の域にさしかかったベテランライダーなら、ホンダ「GB」の名を聞けば、1983年に発売されたGB250 CLUBMAN を思い起こす人も多いことでしょう。

GB350
GB350は全長2180mm、車両重量180kg。すっきり直立した姿が美しい空冷4ストロークSOHC単気筒エンジンは、5500rpmで20PSを発生します。

当時、過激なレーサーレプリカが席巻するバイク市場に投入されたGB250 CLUBMANは、シックなボディに250cc空冷シングルエンジンを抱く独特のマシンとして注目を集め、落ち着いたデザインのバイクを求めるライダーたちに歓迎されました。

その後GBは、1985年にGB400TTやGB500TTなどのバリエーションを生み出しながらさらに発展、1996年まで13年にわたって製造され続けるロングセラーとなりました。

●GBの名を継ぐインドのマシン

GB350
街中ではキビキビと軽やかに、ツーリングでは長距離をゆったり走れる懐の深いバイクです。

クラシカルな空冷単気筒という点で、GB350は間違いなくGBの系譜に連なる一台だといえますが、その生い立ちはGBシリーズの先輩たちとはちょっと事情が違います。

日本で生まれ、国内販売されたGB250 CLUBMANに対し、このGB350は、もともとインドで製造・販売されていたH’ness(ハイネス) CB350というマシン。その圧倒的な人気をうけ、日本での販売が始まったものです。

GB350
サイドカバーに刻まれた「GB」は、長らく途絶えていた名車の称号。その復活を待ち望んでいたライダーも多いはず。

誰もが知るとおり、「CB」の名は、歴代ホンダ車の中でもフラッグシップ機を中心に与えられてきた格式高い車名です。1983年のGB250 CLUBMAN発売にあたっては、当初「CB250」の名も検討されましたが、レトロなデザインが、最新鋭機を表す「CB」の名にしっくりこなかったことなどから、「GB」の車名が決められたともいわれます。

インドのH’ness CB350の「C」をわざわざ「G」に変更し、GB350として国内販売することになったのも、もしかしたらこれと似た理由からかもしれませんね。

●古風なのに最新のバイク

GB350
GB350のクラシカルなデザインと空冷シングルの鼓動は、どこか郷愁にも似たあたたかさを感じさせます。

純日本製のGB250 CLUBMANと、インド生まれのGB350、生まれた時代や生い立ちは違っても、同じGBの名を戴くこの2台のマシンには、やはりどこか共通するものが感じられます。「がっつりレトロな見た目なのに中身は最新」という特徴もそのひとつでしょうか。

GB250 CLUBMANは、いかにもクラシカルなルックスながら、その心臓は、CBX250RSにも搭載されていたRFVCエンジンです。「放射状4バルブ燃焼室」とも呼ばれるRFVCは、燃焼室を半球状に形づくることで理想的な燃焼効率を生み出す、当時の最新メカニズムでした。

そして現代のGB350も、見た目のレトロ感とは対照的に、中身は電子制御デバイスで武装した新鋭機。ABSはもちろん、トルクコントロールシステムまでも完備した現代的マシンなのです。

●クラシカル・シングルの名車

GB350
基本構成やルックスが似ていることからGB350と比較されがちなヤマハSR400。けれども両車の味わいはまったく別モノです。

GB350を見たライダーの中には、同じ中型クラスのクラシカルなバイクとして、ヤマハSR400の姿を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。よく似たレトロスタイルの空冷単気筒マシン同士ですから、両車にライバルっぽさを感じる人がいても、けっして不思議はありません。

GB350
「H’ness」と表記されるインドでの車名は、ふつうの英語では「Highness」、王族への敬称を意味します。GB350には、その名にふさわしい高級感があふれています。

でもヤマハSR400が、強い決意をもって、あえて進化を拒否し続けたリアルなレトロバイクだとすれば、ホンダGB350は、クラシカルな装いのなかに最新の電子デバイスを詰め込んだ、レトロスタイルともいうべきバイクです。

たとえば往年のGB250 CLUBMANは最高出力30PSを誇っていましたが、当時のSR400の最高出力は、プラス150ccの排気量差にも関わらず27PSにすぎませんでした。

そして現在、電子制御の恩恵を活かしてスムーズかつ味わい深い走りを実現しているGB350に対して、SR400はほとんど電子制御を使わないどころか、セルスターターの装備すらも拒み、今なおキックスターターのみで始動する本気のオールドファッションを貫いています。

GB350
GB350のシックなデザインは、旅の空にもよく似合います。

よく似ているようでいて、じっくり見ればその特性は対照的といえるほどに異なる両車ですが、だからといってどちらかがどちらかより優れたバイクだということではありません。GB350とSR400は、互いに似通ったレトロなルックスをもちながら、まったく別の方向性で作られ、その個性もまた大きく異なるマシンなのです。

GB350
空冷シングルの穏やかな鼓動感は、GB350の大きな魅力のひとつ。

長年にわたりレトロ系ビッグシングルの市場に君臨したヤマハSR400は、折しもファイナルエディションが発表され、40余年のその歴史に幕を下ろすことになったばかり。

いっぽうGB350は、気鋭の新型車として発表されたばかりの話題のマシンです。事実上ライバル不在となりそうなこのカテゴリーで、GB350はこれからいったいどんな存在感を放つことになるのでしょうか。今後の動向に注目していきたいですね。

【ホンダ GB350 主要諸元】
全長×全幅×全高:2180mm×800mm×1105mm
シート高:800mm
エンジン種類:空冷4ストロークOHC単気筒
総排気量:348cc
最高出力/最大トルク:15kW/3.0kgm
燃料タンク容量:15L
タイヤ(前・後):100/90-19・130/70-18
ブレーキ:前後油圧式シングルディスクブレーキ(ABS)
メーカー希望小売価格:55万円(税込)

(写真:高橋 克也/文:村上 菜つみ

【関連リンク】

ホンダ GB350 Official Site
https://www.honda.co.jp/GB350/

村上菜つみさんがホンダ・GB350で出かけたツーリング記事は、月刊誌「モトチャンプ」2021年12月号(11月6日発売)に掲載されています。

モトチャンプ2021年12月号

この記事の著者

村上菜つみ 近影

村上菜つみ

福岡出身・東京在住のモデル&モータージャーナリスト。ツーリング雑誌での編集経験を経て独立し、二輪・四輪問わず幅広い分野で執筆中。「月刊モトチャンプ」連載中の「ぶらり二輪散歩」で使用したバイクのインプレッションを毎月6日(モトチャンプ発売日)に公開する他、乗り物関連の展示を紹介する「村上菜つみのミュージアム探訪」をシリーズ連載しています。
愛車はホンダ・モビリオスパイク&ホンダ・VTRです。
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