ホンダの初代「オデッセイ」は、自動車ではなく4輪バギーだった!?

■みんなの認識は1世代ずれている。これがほんとの初代オデッセイだ!?

ホンダ・オデッセイといえば、アダムスファミリーをCMキャラクターに据えた、1994年10月発売のクルマを思い浮かべる方がほとんどでしょう。

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2013(平成25)年10月発売のオデッセイ。写真は昨年2020年11月に大幅改良を受けた最新版だ。

少し前の話になりますが、今年2021年7月、ホンダからオデッセイの販売中止がアナウンスされました。狭山工場閉鎖を背景に、レジェンド、クラリティとともに生産中止が決定したのです。

●初代オデッセイは4輪バギーだった!

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1994(平成6)年10月に登場したホンダ・オデッセイ
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左右対称のインストルメントにして、左ハンドルを念頭に造形されている。

1994年10月に発表・発売されたオデッセイは、当時のホンダセダンの主力・アコードをベースに6or7人乗りに仕立てた低全高型ミニバンでした。

アメリカでも同じネーミングで販売されましたが、さすがはアメリカ。日本で大ホームランをかっ飛ばしたのとは対照的に、日本国内では3ナンバーサイズの大きな部類に属するクルマでも、アメリカでは小さい、狭いということからヒットしたとはいえず、次世代のアメリカ版オデッセイには日本向けとは異なる、ひとまわり大きいサイズのボディが与えられました。

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アメリカ向けオデッセイ。日本には「ラグレイト」の名で輸入された(1999(平成11)年6月)。

これが日本で輸入販売された「ラグレイト」です。ラグレイトについてはともかく、一般には日本でもアメリカでも、この1993年登場のこのクルマが「初代」ホンダ・オデッセイということになっていますが、ウソなのです!

どういうことかというと…。

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モーターファン1976(昭和51)年5月号。

実は1976年3月に、アメリカでではありますが「ホンダ・オデッセイ」が販売されていました。

当時の弊社モーターファン1976年5月号で、自動車ジャーナリストの山口京一さんの試乗記事が掲載されています。写真のモーターファン目次にご注目。

「【異色試乗】 ホンダ・オデッセイ」の表記がわかりますか?

【異色試乗】ホンダ・オデッセイ 山口京一」とあります。

で、そのオデッセイがどんな姿かというと、これ!

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これが本当の初代オデッセイ(1976年3月撮影)。サイドの「ODYSSEY」の文字がわかるかな?

実はこのオデッセイ、いわゆる4輪バギーでした。

未舗装のダートトラックや砂地を走らせて楽しむあのバギーで、山口さんもアメリカのファミリー・モーター・リクリエーション・パークという私有地で試乗しています。

ここはおそらく、いまの日本のさなげアドベンチャーフィールドのようなものでしょう。

●乗車定員「1名」のオデッセイ

車両重量は166kg。フレームは箱型の断面形状を持つパイプを組み合わせたはしご型で、後輪はフレームに直付け。前輪はトレーリングアームを用いた独立懸架式です。

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走る・曲がるの操作はすべてこのハンドル上のレバー&スイッチで行う。
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エンジンは空冷単気筒250cc。

見て分かるように、車両全体の造りはバイクに近く、エンジンは2ストローク式(当時は日本の軽自動車も2サイクルが多かった)、トランスミッションはスクーター流儀に遠心クラッチ式、ブレーキは後輪だけにはたらく機械式ディスクがひとつ。

クルマを走らせる、停める操作は、すべてハンドル上にあるレバーなどで行い、ペダルはありません。ハンドル左にヘッドランプスイッチ、ブレーキレバー、右にはエンジンのキルスイッチとスロットルレバー。ハンドル下の足元には、ペダルはなくゴムマットが据え付けられています。

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1列目から3列目にかけて、フロアが順繰りに高くなる「シアターシート」とした。
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ヘッドライトは1つ目小僧。

1994年の2代目(?)オデッセイは、5人乗りのセダンを超える6~7人乗り。その後のホンダを活性化させる「クリエイティブムーバー」群の第1弾で、いわば「みんなで楽しくワイワイと」をコンセプトの核とする乗用車でした。

それに対してこちらのオデッセイは、乗馬感覚ででこぼこ道を、ときには横転の懸念と隣り合わせでスリルを単独で楽しむためのひとり乗り4輪車。

同じ「オデッセイ」でありながら、乗車人数も「楽しみ」の思想も対極的であるところがおもしろい点です。

この種のクルマは「ATV」というジャンル名で呼ばれます。これは「オール・テレイン・ヴィークル」の略称で、「全地形対応型ヴィークル」とでも申しましょうか。前述したダートトラックや砂地の他、荒れ地や雪中走行など、「道」の形態をなしていないところでも走行できる乗りもののことです。

まるで楽しみのために使うように思えますが、もともとは農林業、そしてその現場での機材の運搬・移動などが本来の使い道です。

いまはその印象が薄くなっていますが、この頃のホンダはトヨタや日産と違って「若さ」「若者」を強調するフレッシュなイメージの会社でした。この「オデッセイ」企画は当時の和光研究所の4輪チームと朝霞研究所の2輪モーターサイクルグループの共同作品なのだそうです。

若い社員たちは、体中にみなぎる若さにものいわせ、エネルギッシュにこのオデッセイを造り上げたのでしょう。

さて、このオデッセイ、車両価格は当時のアメリカで1000ドル。当時1ドルは300円を少し切る価格でしたから、日本円に直すと30万円を切る価格だったことがわかります。

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ホンダが2018年3月から販売中の乗用芝刈機HF2417。写真は2020年8月に改良を受けた最新モデル。

「オデッセイ(odyssey)」は年内で生産終了といわれています。

しかし、これまでホンダは、「HUMMING(ハミング)」「INTEGRA(インテグラ)」「JADE(ジェイド)」「JAZZ(ジャズ)」「STREAM(ストリーム)」のように、2輪車用に使っていたネーミングを4輪車に名付けたり、その逆を常に行ってきました。「オデッセイ」の名も、いつか別の形で復活するかもしれません。

ひとつのネーミングを2輪・4輪の間を行き来させたり、1994年の新型ミニバンに、かつてのアメリカ向けバギーの名をつけたホンダのことです、次の「オデッセイ」は、同じ4輪の乗用芝刈り機に与えることだって考えられなくはありません。

【主要諸元】ホンダ・オデッセイ(1976年3月・FL-250)
●全長×全幅:
2096×1229mm ●ホイールベース:1435mm ●最低地上高:152mm ●乾燥重量:166kg ●エンジン:空冷ストローク単気筒 ●総排気量:248cc ●燃料タンク容量:12.8L ●サスペンション 前/後:トレーリングアーム式独立懸架/リジッド式 ●ブレーキ:機械式後輪用1コ ●タイヤ 前/後:20×7.00/22×11.00 ●価格(当時・アメリカ価格):1000ドル

(文・山口 尚志 写真:モーターファン・アーカイブ/本田技研工業)