■世界で初めて自動運転レベル3技術の自動運行装置として型式指定を受けたホンダ・レジェンド
●ドライバーが運転を引き継がないときには、自動的に路肩に止める技術も搭載する
ホンダ・レジェンドに自動運転レベル3テクノロジー「トラフィックジャムパイロット」を含む技術『ホンダ センシング エリート』を搭載した最上級グレード「LEGEND Hybrid EX・Honda SENSING Elite」が誕生しました。
メーカー希望小売価格は1100万円、100台限定、リース販売のみという非常にユーザーが限られる設定ですが、世界初の自動運転レベル3搭載の量産モデルの誕生です。
3.5L・3モーターハイブリッドという、同じパワートレインを持つ従来型レジェンドのメーカー希望小売価格は724万9000円。ホンダ センシング エリートという最新の自動運転テクノロジーを搭載しているだけで、380万円以上も高くなるというのは信じられないかもしれませんが、そのテクノロジーを支える数々のセンサーや制御系へのこだわりを知れば知るほど、この価格差はリーズナブルに感じてくるはずです。
たとえば、周辺を検知するセンサーについていえば、従来タイプのホンダセンシングを装備するレジェンドではフロントの単眼カメラとミリ波レーダーを積んでいるだけでしたが、ホンダ センシング エリートを搭載する新型には、フロント側だけで2つの単眼カメラと長距離ミリ波レーダー(1個)と中距離ミリ波レーダー(2個)そしてレーザーセンサーにより物体の形状も検知できるLiDAR(ライダー)が2個も備わっています。
リヤには中距離ミリ波レーダーが2個とLiDAR3個がセットされ、クルマの周囲を検知するために合計で12個ものセンサーが装備されているのです。
ホンダに訊ねたところLiDARの線数など、詳細なスペックは公表できないということで教えてもらえませんでしたが、LiDARの値段は気軽に積めるような安いものではありません。この部分だけで300万円ぶんの価値があるとはいいませんが、LiDARが数百円レベルの安価なセンサーでないこともまた事実です。実際、LiDARを積んだ市販車というのは、レジェンド以前では、アウディA8やレクサスLSといった、やはり1000万円級の高級車くらいのもので、それらと比べても5個のLiDARというのは圧倒的な物量作戦であると感じさせるものです。
さて、「ホンダ センシング エリート」によって新設された主な機能は、高速道路でのハンズオフ(手放し)機能、渋滞時のトラフィックジャムパイロット、そしてドライバーが意識を失った際の緊急時停車支援機能の3つです。
高速道路でのハンズオフについては、同一車線での追従クルーズコントロール作動時にハンズオフを可能にしているというのは、自動運転でいうとレベル2相当で、日産のプロパイロット2.0と似た機能といえますが、より進化して制御領域も広がっているといえるものです。とくに車両が車線変更を判断して自動でウインカーを出して先行車を追い越し、もとの車線に戻るという機能はかなり自動運転に近づいていることを感じさせます。
とはいえ、ハンズオフでの車線変更時にはドライバーが周囲の安全を監視する必要があり、やはり自動運転の区分でいうとレベル2。あくまでも運転支援の領域は出ていません。
そして、肝心の自動運転レベル3を実現したのが、高速道路での渋滞時(約30km/h以下)で機能させることができる「トラフィックジャムパイロット」です。
この機能は、前提条件として、ハンズオフ機能付車線内運転支援機能で高速道路を走行中、渋滞に遭遇して、システムが前後に走行車両があることを確認すると作動するとなっています。
トラフィックジャムパイロットの作動する主な走行環境条件が次の通り。
1. 道路状況および地理的状況
(道路区間)高速自動車国道、都市高速道路およびそれに接続される又は接続される予定の自動車専用道路(一部区間を除く)
(除外区間/場所)自車線と対向車線が中央分離帯等により構造上分離されていない区間、急カーブ、サービスエリア・パーキングエリア、料金所など
2. 環境条件
(気象状況)強い雨や降雪による悪天候、視界が著しく悪い濃霧又は日差しの強い日の逆光等により自動運行装置が周辺の車両や走路を認識できない状況でないこと
(交通状況)自車が走行中の車線が渋滞又は渋滞に近い混雑状況であるとともに、前走車および後続車が自車線中心付近を走行していること
3. 走行状況
(自車の速度)自車の速度が自動運行装置の作動開始前は約30km/h以下、作動開始後は約50km/h以下であること
(自車の走行状況)高精度地図および全球測位衛星システム(GNSS(Global Navigation Satellite System))による情報が正しく入手できていること
(運転者の状態)正しい姿勢でシーベルトを装着していること
(運転者の操作状況)アクセル・ブレーキ・ハンドルなどの運転操作をしていないこと
こうした条件を満たしたときのみ、ドライバーが周辺監視からも解放される自動運転レベル3を利用することが可能となります。
そして、トラフィックジャムパイロットが機能しているとき、ドライバーはパッセンジャーに変わります。ですからインフォテイメントシステムを使ってDVDを再生して動画を楽しむこともできますし、ナビの設定を変えたりすることも可能になります。通常のクルマでは道路交通法に違反するこうした行為も、レベル3の自動運転機能が作動しているときに限り、合法であると法改正もされています。
ただし、トラフィックジャムパイロットは渋滞が解消すると機能が解除され、ドライバーがふたたび運転する必要があります。そのためドライバーは居眠りはできませんし、スマートフォンなどを夢中になって使うこともNGとされています。そのためドライバーの状態を監視するための近赤外線カメラが備わっているのです。
万が一、自動運転レベル3作動時にドライバーが意識を失うような状態になったときには、緊急時停車支援機能が働きます。いくつかの段階はありますが、ドライバーが車両からの呼びかけに反応しない場合、最終的にはハザードランプとホーンで周辺車両への注意喚起を行いながら、減速・停車を支援します。路肩がある場合は、左側車線に向かって減速しながら車線変更を支援するという機能も実装しているのは、ホンダ センシング エリートのアドバンテージといえる機能です。
世界初の自動運転レベル3ですから、ここで大きな失敗があると自動運転の普及にも悪影響を及ぼす可能性があり、ホンダは2重3重に安全策をとっています。
フロントカメラが2個設置されているのは、どちらか片方が壊れてもシステムに支障がないようにするためですし、車両側が制御するブレーキやステアリング系も2重化、さらに電源も2重化するなど、徹底した冗長システムが構築されています。
しかも、いきなり公道を走らせているわけでもありません。実際に130万kmもの実走テストを行い、そうして得た知見をシミュレーターに落とし込むことで約1000万通りのシミュレーションを実施して、想定外を徹底的に排除するといった開発が繰り返され、こうして市販にこぎ着けたのです。
じつは、筆者はホンダの自動運転レベル3のプロトタイプにテストコースで試乗した経験があります。それは数年前のことですが、今回発表されたホンダ センシング エリートはその際のプロトタイプと機能としては同等です。
すなわち、機能を作り上げるために時間をかけたのではなく、確実に動かすために時間をかけたといえます。
いよいよ公道に飛び出したホンダの自動運転レベル3を搭載したレジェンド。世界中のライバルに先駆けて実験室からストリートに舞台を移したことで、多くのフィードバックを得るであろうホンダの自動運転テクノロジーが、これからどのように進化していくのでしょうか。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)