●チャンピオン獲得へ向けて熾烈な争いとなった予選は驚愕のタイムが!
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で開催日程が当初の予定より大幅に遅れ、8月末に開幕した全日本スーパーフォーミュラ選手権2020も、いよいよこの12月20日に最終戦を迎え、当初の予定通り全7戦が無事に開催されました。
このコロナ禍において政府のイベント開催制限に基づき、感染症拡大防止策を講じながら開幕戦からお客様をサーキットにお迎えして、予定通り日本全国6つのサーキットでこうしてレースを開催できたことは、ひとえにスーパーフォーミュラをプロモートするJRP関係者のご尽力をはじめ、実際にレースを運営する各サーキットの皆さんのご努力や各地方自治体のご協力、サポートレースを含めたエントラントやシリーズパートナーなど協力会社から、我々メディア関係者に至る全てのレース参加者の日々の体調管理と報告、そしてなにより実際に観戦にサーキットに訪れたモータースポーツファンの皆さんのご理解ご協力があってのことと思います。
改めてこの場をお借りして、スーパーフォーミュラに関わったすべての方に感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
こうして行われた今シーズンのスーパーフォーミュラは例年の開催方法に代わり、予選と決勝を日曜ワンデーで開催し、密を避けるためピットクルーを減らしレース中の給油を禁止したことから、通常より短い距離で決勝レースが行われるため、冬晴れとなり霊峰富士も姿を見せたこの12月20日(日)は、まず朝9:55から予定より10分遅れで予選が行われました。この予選では、ポールポジションに3ポイント、2位に2ポイント、3位に1ポイントが与えられるため、決勝を前にしてチャンピオンシップ争いをしているドライバーたちの走り、そしてその予選順位に注目が集まりました。
気温7℃、路面温度10℃というコンディションで始まった予選は、参戦全20台を10台ずつに分けて行われたQ1から波乱が起こります。Q1A組で予選3番手タイムをマークしていた#1 VANTELIN TEAM TOM’S ニック・キャシディ選手がトラックリミット違反、いわゆる4輪脱輪によって当該周回のタイムが抹消されQ1敗退、最後列からの決勝スタートとなってしまいました。これによってドライバーズランキングではトップと9ポイント差の4位につけているキャシディ選手にとって、逆転チャンピオン獲得が非常に厳しくなる予選となりました。
また今回、史上初となる国内トップフォーミュラ公式戦の12月開催ということで、キャシディ選手を除く全車が、それまでのスーパーフォーミュラでのコースレコード(アンドレ・ロッテラー選手が2014年に記録した1’22.572)を更新するという驚きのQ1となりました。
ドライバーズタイトルを争う上位3人のドライバーはQ1、そしてQ2を通過し、ポールポジションを懸けて8台で争うQ3に駒を進めます。10分間で行われたQ3は残り時間1分30秒を切ったところで、今シーズン外国人ドライバーの代役参戦ながら7戦全戦を戦った、ルーキー#15 TEAM MUGEN 笹原右京選手がここまでの全体ベストタイムとなる1’20.219をマークし、これがターゲットタイムとなります。
その後各ドライバーが20秒台をマークするも笹原選手のタイムを更新できない中、ドライバーズランキングでトップと同ポイントながら2位の#5 DOCOMO TEAM DANDELION RACING 山本尚貴選手が1’20.155というタイムを叩き出し暫定首位に立ちます。しかしその直後、ランキングでトップと8ポイント差の3位となっている#16 TEAM MUGEN 野尻智紀選手が1分20秒の壁を破る1’19.972という驚愕のスーパーラップを魅せトップの座を奪います! そのままチェッカーフラッグが振られると#39 JMS P.MU/CERUMO・INGING 坪井翔選手が1分19秒台をマークし2番手に上がりますが、その後それを上回るドライバーは現れず、野尻選手がポールポジションを獲得し貴重な3ポイントをゲット。逆転チャンピオン獲得に向けて大きく前進しました。
またランキング2位の山本選手は予選3番手となり、こちらも1ポイントを上積みして再びランキングトップに。ランキング2位に後退した#20 ITOCHU ENEX TEAM IMPUL 平川亮選手は8番グリッドから決勝に臨むことになりました。
●意地と意地のぶつかり合う激しいバトルの末、2020シーズンチャンピオンが誕生
決勝レースを前に、ドライバーズタイトル争いを振り返ってみましょう。予選ポールポジションを獲得した#16 野尻選手がこのままポール・トゥ・ウィンを飾ると有効ポイントは66ポイントとなります。予選3番手となった#5 山本選手は1ポイントを上積みし56ポイント、#20 平川選手は55ポイントとなり、山本選手は表彰台圏内となる3位以上、平川選手は2位に入れなければ野尻選手が逆転チャンピオンとなります。
ピットビューイング、そしてスーパーフォーミュラ・ライツ最終戦を挟んで、いよいよシリーズチャンピオンが決まる決勝レースのスタートが刻一刻と近づいて来ます。決勝レースの前に行われたウォームアップ走行では1台のマシンがトラブルに見舞われ、決勝レースは予定より22分遅れの14:47に2周のフォーメーションラップからスタートしました。ここでは1台がコースオフしそのままリタイヤ、またもう1台がダミーグリッドでのマシントラブルによってピットスタートとなり、17台のマシンが西日に照らされたグリッドから40周先のチェッカーに向けて駆け出していきます!
すると、フロントロー予選2番手からスタートした#39 坪井選手がバツグンのスタートを決めホールショットを奪います。ポール・トゥ・ウィンを狙う#16 野尻選手はコカ・コーラコーナー進入で4番手スタートの#50 Buzz Racing with B-Max 松下信治選手にもオーバーテイクを許してしまい3番手に後退。その直後に#5 山本選手、そして8番手からスタートした#20 平川選手はポジションを2つ上げ6番手に迫ってきます。また最後尾スタートの#1 キャシディ選手はオープニングラップで5台を抜き12番手までジャンプアップしてきます。
自身初となるシリーズチャンピオン獲得に向けてライバルの前でチェッカーを受けたい平川選手は、4周目のホームストレートで#15 笹原選手をパス、タイトル争いをしている山本選手との直接対決に持ち込みます。そのまま上位陣はそれぞれ後続とのギャップを保ったまま、タイヤ交換義務を消化するピットストップウインドウが開く10周を迎えると、その直後の11周目に3番手走行中の野尻選手がアンダーカットを狙って先手を打ちピットイン。ところが、このピット作業で手間取ってしまい数秒をロスしてしまいます。
各マシンがピットインしていく中、次に動いたのは平川選手。15周目にタイヤ交換を行いピットアウトすると、その1コーナーで野尻選手と交錯しますが、ここは野尻選手が先行します。そしてその翌周には山本選手もピットイン。ここでも野尻選手の前に出る事はできませんでしたが、平川選手の前でコースに復帰。ここから山本選手と平川選手のタイトルを懸けた激しいバトルが展開されます。
100Rでサイド・バイ・サイドとなった2台はヘアピンで平川選手が山本選手をオーバーテイク! ホームストレートではオーバーテイクシステムを使った山本選手が抜き返し、意地と意地がぶつかり合うまま1コーナーへ! オーバーシュート気味に立ち上がった山本選手に再び平川選手が並びますが、インとアウトが入れ替わるコカ・コーラコーナーで山本選手がポジションを死守します。その後も2台はテール・トゥ・ノーズで左右に激しくマシンを振りながら、お互いシリーズチャンピオンに向けアツいバトルを魅せます。
レースも20周を終えると、#1 キャシディ選手を除く全車がピット作業を消化。キャシディ選手は単独走行で猛プッシュし実質トップの#39 坪井選手に30秒以上のマージンを築きます。そして29周目、タイトル争いをしていた#16 野尻選手がマシントラブルでコースサイドにマシンを停めると、セーフティカー出動の可能性もあるこのタイミングでキャシディ選手がピットイン。ピット作業を終えると山本選手と平川選手の間に割って入る形でコース復帰します。逆転タイトル獲得を狙うキャシディ選手は34周目、前を走る山本選手に1コーナーで仕掛け、その先のコカ・コーラコーナーで山本選手をオーバーテイクし4番手にポジションアップします。
しかし追い上げもここまで。レースはホールショットを奪い実質トップを守りきった坪井選手が、後続を抑えきり今シーズン2勝目。最後尾から怒涛の追い上げを魅せたキャシディ選手は4位でチェッカーを受け8ポイントを獲得し、有効ポイントを50とします。そして平川選手との5番手争いを制した山本選手が6ポイントを獲得しトータル62ポイントとして、2年前と同じくスーパーGTとの国内トップカテゴリでのダブルチャンピオンという最高の形で、自身3度目となるスーパーフォーミュラシリーズチャンピオンを獲得しました!
こうして、4ヵ月という短期間で争われた2020シーズンのスーパーフォーミュラは熱戦の末に幕を閉じました。今シーズンはCOVID-19の影響で年間エントリーしていた外国人ドライバーが参戦できなくなるなど大変なシーズンとなりましたが、そんな中でも初出場のドライバーがポールポジションを獲得する快挙を魅せたり、毎戦勝者が入れ替わる激戦の中、ルーキードライバーが優勝を飾るなど、見どころも豊富なレースでモータースポーツファンの方々もサーキットやネット配信などで盛り上がったのではないでしょうか? 早くも3ヵ月後に開幕が予定されている2021シーズンにはどんなアツい戦いが待っているのか、期待に胸を膨らませながら2020シーズンのスーパーフォーミュラ取材を締めたいと思います。
(H@ty)