軽自動車並みのショートホイールベースが実現する超小回り性能と、高速コーナリング性能を両立する「シャシー」の秘密【Honda e試乗記】

■完全新設計の専用プラットフォームと絶妙なモーター出力設定の合わせ技がナチュラルなスポーツハンドリングを実現

Honda_e_rear
ボディサイズは全長3895mm・全幅1750mm・全高1510mm。ホイールベースは2530mmで、車重は1540kg

2020年8月27日に発表された「Honda e」は、ホンダが国内向けに一般販売する初めての電気自動車(BEV)です。

ベースグレードで451万円、スポーツテイストの上級グレードで495万円というメーカー希望小売価格は、近距離ユースをメインターゲットにしたBEVとしては割高感もありますが、どこか懐かしさを感じさせるルックスや、リヤ駆動の専用プラットフォームというメカニズム面での特徴は、乗らずとも魅力的。

そんなわけで、初期ロットは完売状態で受注停止になっているというほど好調なスタートを切っています。

今回、ユーザーが待ち望んでいて、すぐに買いたくても買えないほど人気となっているHonda eを、発売日(10月30日)を前に、横浜みなとみらいエリアで試乗することができました。古くからの街並みも残り、狭い道路もある横浜の市街地で、Honda eが目指した「街なかベスト」の走りを味わってみようというわけです。

なにしろ、リヤ駆動のプラットフォームを新造した理由はステアリング切れ角を大きくしたかったからというほど小回り性能にこだわったHonda e。最小回転半径は、軽自動車より小さな驚異の4.3mとなっています。

もちろんホイールベースも短めで、発表されているスペックでいうと2530mm。軽自動車のN-BOXが2520mmですからほとんど軽自動車と同じホイールベースなのです。

Honda_e_chassis
Honda eは専用設計のRWDシャシーを採用。前輪を操舵に専念させることで最大切れ角を大きくとり「街なかベスト」な小回り性能を実現した

ホイールベースが短いことは小回り性能については有利な条件ですが、一方で高速安定性にはネガティブといえます。しかもHonda eはリヤ駆動ですからフロントの荷重が軽めとなる傾向にありますし、まして加速時には荷重が抜けやすいレイアウトといえます。

さらに、Honda eは最大トルク315Nmを0-2000rpmで発生するモーターを積んでいます。とくに加速時にはフロント荷重が抜けやすくなっていてもおかしくありません。

実際に乗ってみるとそんな心配はまったく不要でした。前後重量配分が50:50で、フロントにリヤより細めのタイヤを履かせているため、そもそもフロントの面圧は稼ぎやすい設計なのですが、そうした話ではないレベルで、フロントの接地感がしっかりしています。

今回、Honda eにはシングルペダルコントロールといってアクセル操作だけで加減速をコントロールする機能が設定されていますが、そうした機能を活用して加減速を繰り返してみても、四輪の接地感は常に一定と感じるほどピッチング(車体が前後に揺れる動き)が少ないのです。その理由についてエンジニアの方に伺うと、2つの要因を教えてくれました。

ひとつはモーターの制御です。モーターというのは本質的にはレスポンスが鋭く、生の信号で制御するとギクシャクしてしまうほどトルクの変化が起きやすいパワーユニットです。

そこでHonda eでは全体にマイルドにすることで初めてBEVに乗るようなユーザーでも自然なドライビングが楽しめるように意識しているのだそうです。実際、パワーモードとしてノーマル/スポーツの2種類が設定されていますが、アクセル踏み始めのレスポンス感はどちらも同じようにマイルドに感じられます。

もう一つの理由は、リヤサスペンションの設計にあります。今回、リヤ駆動ということで、非常に凝ったパラレルリンクのストラット式となっています。そして、その設計においてサスペンションの「アンチスコット」をかなり考慮した設計になっているのがポイントです。

アンチスコットというのは加速時の沈み込みを抑えるジオメトリのことで、つまりフロントのリフトを抑える効果があります。さらにモーターのトルク特性をマイルドにしておくことで、加速したときにも沈み込みを最低限に抑えることに成功しているのだといいます。これにより四輪接地の良さを実現しているのです。

Honda_e_tyre
前後重量配分は50:50だが、フロントは切れ角を確保するため205/45-17、リアは315Nmのトルクに対応して225/45-17サイズのミシュラン・パイロットスポーツ4を履く。専用設計ではなく、いわゆる市販品のタイヤなのだという

Honda eのために設計されたサスペンションは中高速コーナーでも効いてきます。ここでのポイントはフロントのステアリング配置が車軸より前に置かれた、いわゆる「前引き」となっていること。前引きレイアウトのメリットは、コンプライアンスステアによるスタビリティ向上にあります。

そのメカニズムは少々難しいのですが、わかりやすくいうと横Gによってサスペンションブッシュが潰れることで、フロントの外輪がグッと踏ん張ってコーナリングを支えることができるというものです。つまり、横Gの大きなコーナリングになるほど、フロントの安定感が増すサスペンション設計になっているのです。

こうしたHonda eのアドバンテージは、50km/hくらいのコーナリングで十分に感じられます。優れた小回り性能と高いスタビリティという、ともすれば相反しがちな要素を両立しているのには、正直驚かされました。

車両価格はコンパクトカーとしては高価ですし、バッテリー総電力量も35.5kWhくらいなので航続距離も274km(Advanceグレード・JC08モード)とそれほど長くありません。こうしたBEVならではの性能をみても割高感はあるのですが、小回り性能と高速スタビリティというハンドリング体験をすると、ほかにライバルはいないと思えるほどのインパクトを感じます。

キュートなルックスからは想像できないかもしれませんが、稀代のハンドリングマシンとして一度は体験しておきたいと思えますし、そこを評価するのであれば500万円に迫る価格にも納得できるかもしれません。

ちなみに、サスペンションのセッティングは16インチタイヤを履いているグレードでも同じといいます。今回、ちょっと乗り比べた印象では17インチを履いているAdvanceグレードのほうがハンドリングと乗り心地の両面で優れているように感じましたが、それはすべてタイヤ銘柄と指定エア圧(17インチは230kPa、16インチは240kPa)の違いによるものといえます。

逆にいえば16インチのベーシックグレードでもAdvanceグレードと同じ銘柄の17インチタイヤに変えれば、同じ乗り味を楽しめるというわけです。このようにサスペンションのセッティングをタイヤサイズによって変えていないのは意外に珍しいのですが、その理由について「スタッドレスタイヤを履いたときにも、乗り味が大きく変わらないように意識して、あえて全車で統一したセッティングとしています」とエンジニアの方は説明してくれました。

Honda_e_front
2020年10月30日に発売となるホンダの電気自動車Honda eに公道試乗することができた。試乗グレードはAdvance、メーカー希望小売価格495万円となっている

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
続きを見る
閉じる