■メルセデスAMGとギャレットの共同開発。あらゆる領域でハイレスポンスが期待できるシステム
メルセデスAMGが「Electric exhaust gas turbocharger」を市販車に搭載すべく開発中という技術発表を行なっています。日本語にすると「電動排気過給機」といったところでしょうか。
公開されている構造図をみると、薄型モーターを内蔵したターボチャージャーで、モーターはシャフトを回していることが見て取れます。
この構造、F1のパワーユニットが採用しているMGU-H(Motor Generator Unit, Heat:熱エネルギー回生システム)とほぼ同じといえるもので、まさしくF1テクノロジーからのフィードバック。その戦績からF1最強パワーユニットといえるメルセデスAMGだからこそ説得力のある新しいシステムといえます。
このタイミングで、まったく隠すことなく各方面から撮影した画像を公表するということは、この「電気式ターボチャージャ-」を搭載する市販車の登場が間近に迫っているということを予感させますが、ひとまず公開されている画像からは4気筒エンジンに組み合わせていることが確認できます。
F1のMGU-Hはターボチャージャーといっしょにモーターをジェネレータ(発電機)として回すことで電力を生み出し、それを駆動力として利用するということが主な目的ですが、今回メルセデスAMGが発表した内容を見る限り、市販車向け電気式ターボチャージャーにおいては、内蔵モーターによる発電は考慮されていない模様。
むしろ、F1では副次的効果といえるターボラグの解消に主眼を置いている内容となっています。
具体的には、アイドリング時など従来型のターボチャージャーでは過給が始まらない領域において、厚さ4cmの内蔵モーターを動かすことでコンプレッサーを回し、アクセル開度に関わらず低回転域でもしっかりと過給を立ち上げることがメインテーマとなっています。
その状態でアクセルペダルを踏めば、遅れなくトルクが立ち上がることが期待できるのです。
つまり「ターボラグ」と呼ばれる過給が立ち上がるまでの応答遅れのようなフィーリングを解消していることが期待できます。ターボラグが大きなエンジンを「ドッカンターボ」などということもありますが、ターボラグが大きいエンジンは刺激的ですが、乗りづらくなるものです。
そこで一般にターボラグを軽減するには低回転域からしっかりと過給する小型のターボチャージャーを使うことが多いのですが、小さなターボチャージャーは高回転域で抵抗になってしまうキライがあります。
モーター駆動によって低回転域をカバーできるのであれば、ピークパワー重視の大きなターボチャージャーを使うことも可能になるのです。
公開されている画像からは4気筒エンジンとの組み合わせで実験していることが見て取れます。ターボラグが発生するのは低回転域だけとは限りません。サーキット走行などでコーナー進入時にアクセルオフにした瞬間、エンジン回転は高い状態ですが、スロットルバルブは閉じた状態にあるのでターボチャージャーは止まってしまい、ふたたびアクセルを踏み込んだときにラグを感じることがあります。
そうなるとコーナー立ち上がりで急激にパワーが出てしまって姿勢を乱すこともありますし、気持ちよい走りが味わえません。そうしたシチュエーションでも電気式ターボチャージャーであればコンプレッサーの回転を維持できるのでリニアリティに不満を感じることなく、ハイパワーが味わえるということになります。
今回、メルセデスAMGはギャレットと共同で市販車向けの電気式ターボチャージャーを開発中と発表しただけで、どのモデルに搭載するということは明言していません。
ターボチャージャーの下部にコントロールユニットを持つためエンジンルームに多少の余裕が必要になるかもしれませんし、電気式ターボチャージャーの駆動モーターは48Vということですから、48Vマイルドハイブリッドシステム搭載車を前提にしていると思われます。
ただし大きなヒントがあります。それは冒頭でも書いたように公開されている写真が4気筒エンジンとの組み合わせになっている点です。4気筒エンジンを積むメルセデスAMGのラインナップといえば、A45シリーズが思い浮かびます。
最高出力421馬力の現行A45は2019年に発売されたばかりですからフルモデルチェンジはまだまだ先でしょうが、はたしてマイナーチェンジのタイミングで「電気式ターボチャージャー」は採用されるのでしょうか。
また、4気筒との組み合わせはブラフ(はったり)で、上級モデルに採用してくる可能性も否定できません。いずれにしても、メルセデスAMGの電気式ターボチャージャーの市販化は非常に楽しみといえます。
(山本晋也)