キャンプやスキーの足として最適なフランス生まれのMPV。居住性、使い勝手は?【シトロエン・ベルランゴ試乗記】

■両側スライドドアによる良好な乗降性

両側スライドドア、ガラスハッチ付のテールゲートを備えたシトロエン・ベルランゴは、ルノー カングーと共に日本のミニバンでは飽き足らない層や、デザイン、カラーなどにこだわる人に注目を集めているMPV(マルチパーパスヴィークル)です。

日本では昨年2019年10月と11月、インターネットによるオンライン受付で特別仕様車「Debut Edition」が先行導入されましたが、アッという間に予約枠が埋まったほどの人気ぶりでした。この特別仕様車の10月予約分は今年2020年初旬、11月予約分はこの春からデリバリーがされていますが、正式導入は2020年秋頃に予定されています。

さて、ルノー カングーと比較されることが多いベルランゴですが、目の前にするとライバルよりもひと回り大きく感じます。全長4280×全幅1830×全高1810mmのルノー カングーに対して、ベルランゴは全長4405×全幅1855×全高1840mm。

シトロエン ベルランゴ
シトロエン・ベルランゴ・デビューエディションのエクステリア

カングーよりもひと回り大きなベルランゴは、両側スライドドア、オーソドックスな上開き式のテールゲート(ガラスハッチ付)を採用しています。両側スライドドアには、日本のミニバンのような電動開閉機構はなく、手動のみの開閉。

日本車のスライドドアは、ドアハンドル(アウタードアハンドル)で開ける際、ハンドルを一度手前に引くだけで電動スライドするようになっていますが、ベルランゴのそれはドアハンドルを持ったままシンプルに後方にスライドさせる方式となっています。

日本製ミニバンに慣れているひと、または筆者のように初めてのひとは「あれ、開かない、閉まらない」と少し戸惑うかもしれません。一度操作を慣れてしまえば問題ないですが、開け閉めする際は少しだけ力を擁する印象もありました。

シトロエン ベルランゴ
両側スライドドアを採用するベルランゴ

■4人家族にちょうどいい室内。広大なラゲッジは助手席の前倒しも可能

少し高めのフロア、床面から高さが確保された座面に乗り込む際は、小柄な人だと少しだけ身体を上下させる必要はあるものの、頭上まわりは広く、スライドドアの開口部もワイドなので、乗降性は良好そのもの。

フロントドアの開閉は狭い場所では少し注意を払う必要はありますが、リヤはスライドドアなので、狭い場所での開閉にも気を使わずにすみます。小さなお子さんがいる家庭でも安心。

シトロエン ベルランゴ
シトロエン・ベルランゴのフロントシート

運転席に収まると、広大なフロントウインドウ、サイドスクリーン、そしてルーフの大半がガラスになっているパノラミックルーフによる圧倒的な開放感が味わえます。C4ピカソ、あるいはかつてのルノー アヴァンタイムが登場した際に展望電車の先頭車両のような感覚を抱きましたが、フランス人は広〜い視界がお好みなのでしょうか。

パノラミックルーフの形状もユニークで、天井の造形もかなり個性的です。

シトロエン ベルランゴ
シトロエン・ベルランゴのインパネ

初めての操作でドライバーが戸惑うのはダイヤル式シフトくらいで、パーキングブレーキは力要らずの電動パーキングブレーキ。なお、シトロエン・ベルランゴには、アイドリングストップが備わり、頻繁にエンジンが停止するため、Dレンジのままドアを開けずに、きちんとポジションをPにする必要もあります。

シトロエン・ベルランゴ
ベルランゴのダイヤル式シフト

MPVで気になるラゲッジスペースの広さは、全長4405mmと考えるとかなり奥行きがあり、さらに荷室高も高く、日常使いならまず不足はないはず。奥行きは、通常時(5人乗り状態)で約1000mm、2人乗り状態で1880mm、助手席の背もたれを倒せば最長2700mmの長尺物も飲み込みます。

シトロエン ベルランゴ
助手席の前倒し機構も備わるため、長尺物も積載できる

荷室容量は、5名乗車時でトノカバー下まででも597Lと大容量で、セカンドシートを倒した最大時は2126Lまで拡大します(容量はVDA欧州参考値)。

筆者はこの状態で20インチの自転車の積載を確認しました。キャンプやサーフィン、スキーやスノボなどの相棒としてぴったりな積載性は大いに魅力です。一方、テールゲートは少し長めで、狭い場所での開閉時には後方にある程度の余裕が必要です。

シトロエン ベルランゴ
シトロエン・ベルランゴのガラスハッチ

しかし、ガラスハッチを備えるため、ガラス部分だけ開閉すれば、バッグなどの出し入れも可能。なお、操作はリモコンキーを携行して、テールゲートの開閉部分右側をタッチするとロックが解除されます。最大時には、外したトノカバーを前席後方に挟むような感じで置くこともできます。

シトロエン ベルランゴ
ラゲッジスペースの天井部分に小物入れを用意

さらに、荷室の天井部分(リヤシート後方)には容量約60Lのリヤシーリングボックスが用意されていて、荷室側、後席側の両方からアクセスでき、小物収納に最適です。

シトロエン ベルランゴ
ベルランゴの助手席グローブボックス

前席まわりでは、大きな助手席グローブボックスが目を惹きます。こちらは、ダッシュボード上面をふた付きのストレージとして使えるようにした収納で、助手席エアバッグをルーフ部分から展開するようにしたため、11.8Lの大きめの容量が確保されています。

メーターパネル前方のダッシュボード上にもリッド付の小物入れがあり、前席シート間のフロアにもコンソールトレーを配置。スマホなどはエアコンパネルの下に置けるだけでなく、Qi(チー)規格に対応したワイヤレス充電も用意されています。

そのほか、ドリンクホルダーやリモコンキーを置くのに最適なホルダー、前席背もたれ裏の格納式テーブルなども備えられています。

シトロエン ベルランゴ
ベルランゴのリヤシート

フロントシートは、身長171cmの筆者なら背もたれの天地高、シート幅ともに不足はなく、ロングドライブでも座面の底付感は少なく、疲れを誘わない作りで好感が持てました。

一方のリヤシートは、中央席も含めて3座席分の幅が平等というプジョー、シトロエンなどのSUVでもお馴染みの設計。後席は少し幅が狭く感じるものの、足元、頭上空間共に広く、大人4人でも窮屈にはならないはず。

シトロエン ベルランゴ
ベルランゴのパノラミックルーフ

かゆいところまで手が届く日本製ミニバンとは、細部の作り(先述したようなスライドドアなど)では異なるものの、ラゲッジスペースの広さ、使い勝手の高さも含めて完成度は高く、輸入MPVに新しい選択肢が加わったのは朗報。

正規カタログモデルの日本上陸が待たれます。

(文/写真 塚田勝弘)

【スペック】シトロエン ベルランゴ

●全長×全幅×全高:4405×1855×1840mm
●ホイールベース:2785mm
●タイヤサイズ:205/60R16
●車両重量:1590kg
●エンジン:直列4気筒DOHCディーゼル ターボ
●総排気量:1498cc
●最高出力:130 ps/3750rpm
●最大トルク:31kgm/1750rpm
●燃料タンク容量:50L(軽油)
●車両本体価格(消費税込み):325万円

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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