●北米横断4500キロ激走。とにかく走る、走る、走る!
アメリカ東海岸のニューヨークから西海岸のロサンゼルスまで走り抜ける時間を競うアンダーグラウンドのイベント「キャノンボール」。先日、26時間38分という新記録が樹立されたそうです。
ニューヨークからロサンゼルスまでは直線距離で約4000キロですが、実際に走るとなると約4500キロ。イメージとしては東京から博多までを2往復ですね。平均速度は170km/hにもなります。
もちろんアメリカも新型コロナウイルス感染拡大の非常事態中。しかしその影響で道路が空いているので「今やらなくていつやるの?」と、STAY HOMEなんてしていられずアタックしたということでしょう。なんとチャレンジングな、というか反社会的な。
クルマ好きとしてやっぱり気になるのは、爆走に使われたクルマ。さぞかし高い性能を誇るスーパーカーかと思いきや、なんと、こういっては失礼ですがフツーのセダン。2019年モデルの「アウディA8L」でした。
アウディの高性能仕様である「S」や「RS」ではなく、フツーの「Aモデル」というのは意外ですよね。排気量4.0LのV8エンジンを積むので、普通のセダンに比べれば高出力とは言えますが。ロングツーリングはやっぱり快適性が大切ということでしょうか?
走行性能に関するパフォーマンスアップが行われているかは不明ですが、ロングランらしい改造ポイントとしてトランクには200L以上入ろうかという追加の燃料タンクが置かれているのが分かります。いかに給油によるタイムロスを減らせるかが大切ですからね。
●ところで、最近の記録と使われたマシンは?
キャノンボールのチャレンジはたびたびおこなわれているようですが、ここ15年ほどでの記録更新は3回。
2006年 記録:31時間4分 車両:BMW M5(セダン)
2013年 記録:28時間50分 車両:メルセデス・ベンツCL 55 AMG(クーペ)
2019年 記録:27時間25分 車両:メルセデス・ベンツE63 AMG(セダン)
興味深いのは、使われた車両。ある程度より上の世代の人は「ランボルギーニ・カウンタック」とか秘密兵器てんこ盛りの「アストンマーティンDB5」のようなスーパーカーとかジェットエンジンを積んだ「スバル・1600スイングバック」、そして黒くてハイテク満載の「三菱スタリオン」なんかをイメージするかもしれませんが、そうではなく(スーパーカーよりは)地味なセダンやクーペだというのは意外ですね。
そこには納得の理由がありました。「目立たないため」だというのです。
キャノンボールの最大の障害と言えば「警察の取り締まり」ですが、スーパーカーのように目立つ車だと周囲のクルマを驚かせて通報されやすいので地味に見えるクルマを使うのが昨今のセオリーなのだそうですよ。
記録を達成するためには給油ポイントや取り締まり危険個所など綿密な計画が必要で、さらには多くのサポーターが警察の動きを探るなどの協力もあって実現するのだとか。
また、クルマには3人が乗り込み、ドライバー以外は車内で情報収集をするのだそうです。たとえば探知機などで取り締まりを察知するほか、地平線まで見えるような見通しのいい場所では双眼鏡を使ってはるか前方まで監視、さらには航空機探知システムで空からの取り締まりを警戒するというから、まるで軍艦のような見張りですね。
2013年に新記録を樹立したメルセデス・ベンツCL55AMGのインパネは、こんな様子でした。
こちらでは、動画で新記録樹立を確認できます。ただし英語ですが。
参考までに、キャノンボールが始まったとされる1933年の記録は53時間30分だったとのこと。最近はEVでのチャレンジもあり、現在の最速は「テスラ・モデルS」を駆って51時間47分というもの。走行距離4554kmで、20回の充電が必要だったそうです。
コロナ禍のさなかに行われた今回のアタックにはさすがの自由の国アメリカと言えども非難が多いようですが、忘れてはいけないのはそもそも速度超過は非合法だということ。
よい子はもちろん、悪い子も決して真似しちゃいけません。ダメ、ゼッタイ!
(工藤貴宏)