■8名定員モデルは完全乗用。荷物搭載は難しい
トヨタが世界に誇る1ボックス「ハイエース」をさらに大型化したモデルが「グランエース」です。グランエースは2019年2月にフィリピンで輸出用ハイエースとして登場。その後、各国で展開されてきました。
日本での発売開始は2019年12月で、乗用系のみの設定となります。グレードは、上位が「プレミアム」で6名定員、ベーシックが今回試乗した「G」で8名定員の2つ。
道路事情もあり日本での主力はまだまだ200系と言われる現行のハイエースです。商用モデルの現行ハイエースは基本が5(4)ナンバーで、ワイドボディの3(1)ナンバーが存在します。一方乗用タイプのワゴンは基本が3ナンバーで、乗車定員が多くマイクロバス扱いのコミューターが2ナンバーとなります。この200系ハイエースのワイドボディ全幅は1880mm、全長は最も長いもので5380mmです。
一方の日本仕様のグランエースは全幅が1970mm、全長は意外や意外、ハイエーススーパロングよりも短く5300mmとなります。ハイエースと大きく異なる点は、エンジンの搭載位置です。ハイエースは運転席の下にエンジンを置くキャブオーバー、グランエースはノーズにエンジンを縦置きにするFR方式であることです。
運転席はかなり高い位置にあります。メジャー計測ですが、フロアの高さが62cm、フロントシートの座面高は1mでした。ドライバーズシートに乗った感覚は、ステアリングもドライバーと正対していて非常に乗用車的です。ただし、シート高がかなり高いのでちょっと違和感があります。
運転してみると、この乗用車的なポジションはじつは運転しづらいことに気づきます。ノーズのが短く、ポジションが高いクルマはある程度ステアリングがねていたほうが運転しやすいのでしょう。ただし、衝突安全についてはおそらくこのポジションのほうがずっと高い性能を発揮できそうです。
2770kgという車重に組み合わされるエンジンは2.8リットルの直4ディーゼルターボ。最高出力は177馬力、最大トルクは450Nmと強力で、これに6速のATが組み合わされます。トルクが分厚いだけに車重をものともしない発進を披露してくれます。試乗は都内に限ってのものだったので、高速道路は試してませんがフラットなトルク感はイージーな高速巡航を実現するはずです。
しかにさすがに1970mmという全幅はさすがに大きいです。走ったのは都内の比較的広い道ですが、普段5ナンバー車に乗るヘタレドライバーにはなかなかの圧迫感です。走った道の多くは大型バスやトレーラーなども走れる道なので、全幅1970mmのグランエースが道路幅に対して大きすぎるわけではないのですが、やはり気を遣うのは事実です。
そのほか気になるのは、わずかながらもノイズと振動が伝わることです。キャブオーバーからFRになったので、エンジンの振動の伝わりとしてはいい方向にシフトしているはずですが、グランエースの豪華なインテリアを見てしまうと、この振動「あり?」と思ってしまいます。
試乗車は4列シート8名乗り定員でした。セカンドシートにはオットマンが装備され、豪華なリムジンを思わせるものとなっています。日本のいわゆるミニバンのように、シートアレンジが豊富ではありません。後ろ3列は基本的には前後スライドとリクライニングするのみです。
最後部のシートはクッションのチップアップを備えていて、チップアップ&前方スライドすることで荷物を搭載するスペースを作れますが、それでもさほどの広さではありません。事業用として空港からの送迎などを考えている方は、3列シート6名定員モデルを選んだ方がいいでしょう。
日本では高級リムジン仕様として販売されるグランエースですが、アジア圏では商用のバンとしての存在。日本でもバンモデルを発売して、その後の架装を業者に任せるようなシステムとしたほうがさまざまなバリエーションが登場しておもしろいでしょう。
とくにキャンピングカーや福祉車両、救急車などへの架装が行われるようになれば、かなりおもしろい展開になることだと思います。
(文・写真/諸星陽一)