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■手のかかるオービスの取り締まりに警察はなぜこだわるのか!?
「移動オービス」「移動式オービス」という呼び方が、ネットではすっかり定着してしまったようだ。
しかし、警察の文書のどこにもそのような呼び方はない。「新たな速度違反自動取締装置」とされている。機能的にも運用的にも新しいだけでなく、新たな交通利権への道を拓くだろう、まさに「新たな」オービスといえる。
加えて、「移動オービス」と呼ばれる装置がかつて存在した。
そうした理由で私は「移動(移動式)オービス」と呼ばない。「新たな」を受けて「新型オービス」と呼んでいる。ネットに真っ向から逆らい、マイナー路線である(笑)。
●「生活道路、通学路の安全」を大義名分に新型オービスは登場した
さてここからが本題である。新型オービスの導入へ向け、警察庁が表立って動きだしたのは2013年だ。その狙いは何なのか、という話をしよう。
以下は、「警察庁行政事業レビュー公開プロセス」の参考資料の一部だ。
新型オービスの売り、大義名分は、生活道路・通学路(以下、生活道路等)の安全を守ることだ。
2016年から毎年、満開の桜の下、通学する小学生たちを背景に、可搬式の新型オービス(以下、可搬式)の勇姿がニュース報道されてきた。
だが、おかしくないか?
生活道路等での通行速度を落とすには、ハンプ(かまぼこ状の盛り上がり)を設けたり、左右の植え込みを張り出させて道路をS字状にしたり、ボラード(頑丈な杭)を設けてわざと道路を狭くしたり、さまざまな方法がある。実際にやっているところもある。
ハンプ等は、一度設置すれば24時間、365日、物理的に速度を抑止し続ける。可搬式でたまに取り締まるよりずっと有効だろう。
しかし警察庁は新型オービス、特に可搬式を導入しようとする。
●新型オービスでは「赤切符の制約」がなくなる!?
ここで、多くの運転者諸氏は引っかかるんじゃないか。
生活道路等はだいたい「ゾーン30」とされ、制限速度が30キロだ。
「オービスは赤切符のスピード違反を取り締まるんでしょ。一般道路では超過速度が30キロ以上が赤切符だ。ってことは、制限30キロのところを60キロ以上でかっ飛ばす車だけを取り締まるのか? 60キロ未満の暴走車は見逃すのか?」
まさか。もしそんなことをしたら、地域住民の方々が、児童・生徒のお母さんたちが激怒するだろう。当然、超過速度が30キロ未満のスピード違反、いわゆる青切符の違反も取り締まるはず。
つまり警察庁は、オービスを「赤切符の制約」からスムーズに解き放つために、生活道路等の安全を大義名分に新型オービスを持ち出してきた、そう考えることができる。
●オービスの取り締まりの手間を省くためには…
だが、そうすると大問題が生じる。
定置式(いわゆるネズミ捕り)や追尾式(パトカー等が違反者を追尾するやつ)は、速度を測定したら直ちに違反車を停止させ、取り締まる。
ところがオービスは、現場では測定と撮影をおこなうだけ。写真に映ったナンバーから違反車の持ち主を割り出し、「違反者は出頭せよ」との呼出状を郵送し、違反者の出頭を得て取り締まる。ずるずる出頭しない違反者はよくいる。
定置式や追尾式に比べ、オービスの取り締まりは圧倒的に手間がかかるのである。
警察庁のデータによれば、2018年のスピード取り締まりは約124万件。うちオービスの取り締まりは約5万件ぽっちだ。ゆえに、手間がかかってもオービスの取り締まりを続けられたという面がある。
ところが、オービスを赤切符の制約から解き放ち、青切符の違反も取り締まるようになったら大変だ。
警察庁は必ずこう言いだすだろう。ワイドショーのコメンテーターに言わせるかも。
「新型オービスは、生活道路等の事故防止に効果があることが分かりました。ただ、違反者を出頭させて取り締まるという現行のやり方にはムリがあります。そこで…」
●将来はスピード取り締まりを民間へ委託する!?
そこでどうすればいいか、答えはひとつだ。
現在、駐車違反の取り締まりは、駐車監視員が撮った写真のナンバーから車の持ち主を特定し、持ち主に対し「放置違反金」(従来の反則金と同額)の納付書を郵送しておこなう。
オービスはかならず写真を撮影する。ナンバーから判明した持ち主へ、呼出状ではなく「速度違反金」の納付書を郵送すればいいのである。
しかも、測定も撮影もオービスが自動的にやってくれるわけで、人間は装置を現場へ運んでセットするだけだ。警察官がやる必要はない。駐車取り締まりのようにスピード取り締まりも民間委託できる。
駐車取り締まりは駐車監視員が警察から貸与された携帯端末を使って取り締まる。スピード違反は「速度監視員」が警察から貸与された「携帯オービス」で取り締まる。十分に可能だ。
さらに言えば、駐車違反とスピード違反は交通取り締まりの大きな柱だ。2つの柱を民間委託した先には、すべての違反取り締まりの民間委託が、イコール新たな巨大市場が見える。
そのへんを狙って警察庁は「生活道路等の安全を守るため新たなオービスを」と言いだしたに違いない、私はそう読む。
2020年、警察庁はどんな動きを見せるか、注目したい。
今井亮一【いまい・りょういち】
交通違反・取り締まりを取材、研究し続けて約40年、行政文書の開示請求に熱中して約20年。裁判傍聴マニアになって17年目。『なんでこれが交通違反なの!?』(草思社)など著書多数。雑誌やテレビ等々での肩書きは「交通ジャーナリスト」。2020年の目標は東京航空計器の新型オービス(レーザー式)の裁判を傍聴すること!
【関連リンク】
ワンボックス車に積む移動オービスの取り締まりは、2017年を最後に「終了」していた!
https://clicccar.com/2019/10/30/925962/
今井亮一の交通違反バカ一代!
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