■電力インフラへの投資抑制と再生可能エネルギーの導入拡大に貢献
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、委託先である日立製作所、日立化成、三井住友銀行と推進する、ポーランドにおける再生可能エネルギー導入拡大に向けたスマートグリッド実証事業について、電力系統の安定化システムの実証運転を開始しました。これは、ポーランド国有資産省と共同で行われる実証事業になります。なお、12月2日(現地時間)にポーランドで記念式典が行われています。
今回の実証運転では、系統事故発生時における送電線への過負荷の解消に向け、リアルタイムの系統状況をもとに、系統事故発生を想定したシミュレーションによる最適な対策の立案を検証。さらに、系統事故発生時における実際の制御(主に風力発電の自動抑制)方法も検証されます。
これにより、系統事故時に備えた送電線の余力を有効に活用することで引き上げられる再生可能エネルギーの接続可能量についても検証。日立製作所は、今回の実証運転を通じて、日本の系統安定化技術を活用し、ポーランドにおける電力インフラへの投資を抑制しつつ、再生可能エネルギーの導入拡大に貢献するとしています。
2020年にもパリ協定が実施される中、ポーランドはEU指令を受け、再生可能エネルギー比率を引き上げることを計画しているそう。特にポーランドの北部地域は、風況に恵まれることなどから風力発電の大量導入が志向されています。
一方で、電力インフラ設備の多くがすでに建設から長期経過しているほか、風力発電を大量に導入するためには送電系統の余力が不足していることから、設備の更新や増強が急務だそう。このため、経済的な負担を抑えながら、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの大量導入にも耐えうる電力系統の安定化システムが求められています。
そんな中、NEDOは2017年3月、ポーランドにおける再生可能エネルギーの導入拡大に向けた「スマートグリッド実証事業」に関する基本協定書(MOU)を、ポーランド国有資産省と締結。同時に、委託先として選定された日立製作所、日立化成、三井住友銀行は、ポーランド唯一の国営送電会社であるポーランド・パワーグリッド社とポーランド北西部の配電会社であるエネルガ・オペレータ社、ポーランド北西部の発電会社であるエネルガ・リニューアブルエナジー社の3社と協力。実証期間3年半の予定で、これまで現地調査、設備の設計、設備機器の製造および輸送、据え付け・試運転を推進してきたそう。
今回NEDOは、委託・協力企業とともに、日本独自の技術である系統安定化システム(Special Protection Scheme)の導入を完了し、ポーランド国有資産省と共同で10月1日より実証運転を開始。先述したように、12月2日(現地時間)に、ポーランド・パワーグリッド本社で関係者出席のもと、系統安定化システム運転開始の記念式典が行われました。
同実証運転を通じて、既設の送電系統が系統事故時に備えて残している送電線の余力を有効活用することで、電力系統への再生可能エネルギー接続可能量の引き上げが可能になるそう。ポーランドにおける電力インフラへの設備投資を抑制しつつ、再生可能エネルギーの導入拡大に貢献していくとしています。
また、日立製作所と日立化成、三井住友銀行は、システムのビジネスモデルとその普及の可能性やファイナンススキームの検討を共同で推進しており、今後も継続するそうです。系統事故時における制御方法は、日本でも同様に、電力広域的運営推進機関において「日本版コネクト&マネージ」として議論されています。同実証事業での取り組みは、制御対象が日本の考え方とは異なるものの、その先駆けになります。
(塚田勝弘)