世界2大ベーシックカーを比べて走らせて分かった「決定的な違い」とは!?【カローラスポーツ&ゴルフ7比較】

●パフォーマンスに優れるカローラスポーツは新型リアサスを生かしきれていない?

フォルクスワーゲン ゴルフは、Cセグメントの中で、常にその、一挙手一投足が注目される「世界のベンチマーク」であるクルマです。対するカローラもまた、その動向が、日本のみならず世界中で注目される一台でもあります。

今回は、ディメンジョンの近いカローラスポーツと、ゴルフTSIのハンドリングや乗り心地、ロードノイズといった走りの違いについて、日産でハンドリング性能のエンジニアをしていた筆者が気づいた、大きな違いを解説します。

215幅の18インチをはくハイブリッドG”Z”
対するゴルフ7TSIマイスターは225幅の17インチタイヤを装着。

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■高速直進安定性
■コーナリング
■乗り心地性能
■ロードノイズ
■動力性能
■走りの質感
■走りの質感

■高速直進安定性  カローラスポーツ8点/ゴルフ9点

カローラスポーツの直進安定性は、非常に高いレベルにあります。ステアリングのギア比は極端にクイック化せず、また程よい補舵力でまっすぐ走りやすいのは、カローラスポーツの長所です。ただし、ステアリングの修正のしやすさが、ゴルフの方が楽にできるように感じるのです。これらは、操舵力チューニングの賜物というよりも、キャスタートレイルの様なサスのジオメトリや、ステアリング周りの剛性、高剛性なラックEPS等、機械的な要因であると、考えられます。「正確かつ容易に修正できる」という点で、「ゴルフの勝ち」としました。

■コーナリング  カローラスポーツ8点/ゴルフ9点

ロールの絶対値は小さく感じるが、ギャップのいなしが足りておらず、内輪側がバタバタする。
ロールの絶対値はカローラスポーツよりも大きいが、路面のギャップのいなしがうまくできており、コーナーでの高い安定性を感じる。

軽めの操舵力でありながらも、切り始めはしっかりと手ごたえが出るセッティングがなされた、カローラスポーツ。コーナーではロールが小さめに抑え込まれており、安定した姿勢で駆け抜けます。対するゴルフもまた、軽めの操舵力かつ切り始めの手応えがしっかりとした印象ですが、さすがゴルフ、と感じるのが「ボディモーション」です。

カローラスポーツは、路面のギャップでタイヤが跳ね上げられるのを、ショックの減衰力やロール剛性アップで抑え込んでいるような印象ですが、ゴルフはサスをしっかりとストロークさせることで、コーナー中のギャップをいなしながらコーナリングするため、ボディが揺すられにくく、安心感が遥かに高いのです。よって「ゴルフの勝ち」としました。

■乗り心地性能 カローラスポーツ7点/ゴルフ9点

18インチタイヤによる突き上げの強さは否めず、上質な乗り心地とは言えない。
Cセグメントのベースモデルとしては、17インチのサイズ選定がベストマッチに感じる。それ以上は、GITやR等のスポーツモデル用として乗り心地は割り切ることになる。

カローラスポーツは18インチ40扁平タイヤのため、突き上げが大きいというビハインドはありますが、それ以前に、サスが硬く、直進時にギャップを乗り越した際、跳ねるバネ下のバタつきを抑える為にショック減衰力を高め、その結果、路面の凹凸でボディが揺すられやすい「洗練度が足りていない」乗り心地に感じます。

17インチの45扁平タイヤをはくゴルフは、上下動は大きめですが、そのスピードが穏やかですので揺すられる印象がありません。ハンドルを素早く切れば「グネ」とするロールを起こすほどに動きますが、そのモーションがゆったりとしているため心地が良いのです。ショック減衰力に頼らない足のセッティングができたゴルフは、やはり凄いと感じます。

■ロードノイズ  カローラスポーツ8点/ゴルフ9点

ロードノイズは相場から見ると小さいと言えるが、ゴルフ7と比較すると、やはり大きく感じる。
一般道、高速道路を通して、ロードノイズは静か。第7世代のモデル末期とはいえ、しっとりとした乗り味や静粛性により、走りの質は高い。

カローラスポーツの方がロードノイズは大きく、常に「コー」という音が入り込みます。しかもハイブリッドのため、エンジンオフになると、より一層ノイズが聞こえてしまうのは、残念なところです。もちろんロードノイズは、17インチと18インチタイヤの違いは大きくありますが、16インチをはいたカローラでもそれなりにロードノイズが聞こえましたので、サスペンションのインシュレーターや車体の遮音において、カローラスポーツは負けていると言えます。ノイズに関しても、ゴルフの方が上に感じました。

■動力性能  カローラスポーツ9点/ゴルフ8点

ハイブリッドならではのEV走行モード、加速時には音もなくパワフルに加速をアシストするカローラスポーツは、動力性能の面で勝っています。対するゴルフは実用的なエンジン特性であり、高速道路の合流などで過不足ない加速ができる程度に限られます。1.4リットル程度の排気量で車体を加速させるという意味では、優れた動力性能と言えます。
ただし、燃費はカローラスポーツの圧勝です。メーター読みで20km/Lに近い実燃費を記録したカローラスポーツに対し、ゴルフは14km/L程度と勝負になりません。ほぼ同価格でこれ程の燃費差があると、燃費重視の方にはすぐに結論が出るかもしれません。またガソリンエンジンのカローラスポーツはJC08燃費18.0km/L、車両価格は約30万円下がります(※ハイブリッドG”Z” 約282万円からG”Z” 約254万円にした場合)燃費に対してどこまでこだわりを持ち、コストを出せるかが判断の材料になるように思います。

■走りの質感  カローラスポーツ8点/ゴルフ10点

コーナリング中の外乱安定性と、静粛性が向上すれば、ゴルフ7の動性能は射程圏内に入る。とはいえゴルフはすでに次期型の8が見えている。
コンフォートなのに走りの質感が高いゴルフ7。ショックアブソーバーやスプリング以外にも、バンプラバーやアッパーインシュレーター特性など、細かな積み上げによって実現されているのだろう。

いわゆる「走りの質感」とは、「動性能の総合バランス」と筆者は定義しています。その前提で、カローラスポーツは、極良路では滑らかですが、それ以外の路面では、跳ねやすい乗り心地や、ロードノイズの抑え込みの不足が露呈するため、質感は低く感じます。ゴルフは、路面との当たりが常にマイルドで、ボディモーションはすこし大き目ですが、まるでカーペットの上をローラーで走るような、静かで滑らかな印象があり、質感は高く感じます。

エンジニアであれば、課題となる路面や対策を打つ周波数が分かれば、その点をクリアする対策を打つことはできますが、「どの路面を走っても質感の印象が変わらない」クルマをつくることは、一朝一夕ではできません。長い時間をかけて、あらゆる路面を走り、実験を繰り返して課題をつぶしこんできたのでしょう。「走りの質感」では、ゴルフには隙がありません。
※100点満点の評価は記事末尾に掲載しました。

■まとめ

カローラスポーツは、そのパッケージングや燃費、ボディスタイルなど、旧来のカローラとは別物であり、魅力的な一台です。ただし走りの質感で、ゴルフには未だ劣っていることは明らかです。せっかくのリアダブルウィッシュボーンサスの恩恵を、生かしきれていないようにも見えます。

ちなみに、新型カローラ3兄弟に乗った中で最もゴルフに近いと感じたのが、16インチをはいたガソリン仕様のカローラでした。音振性能のポテンシャルの高さ、そしてハンドリングや乗り心地といったサスの印象の良さから来ています。この延長で音振を磨いていけば、最もゴルフに近づけるかもしれません。ただしすぐ先には、ゴルフ8が構えていることを忘れてはなりませんが。

<カローラスポーツハイブリッド>
■コーナリング性能 8点/軽めの操舵力でロール少なくコーナーを抜ける。コントロール性は高い。
■高速直進安定性  8点/直進性高いがややワンダリングを感じるシーンがある(※非アシスト時)
■乗り心地     7点/良いとは言えない。足を固めて上屋の動きを止める従来のスポーツテイストの作り方
■ロードノイズ   8点/ややうるさい。17インチならば印象は少し変わるかも。
■エンジンフィール 9点/静かで速いハイブリッドエンジンの見本。充電時は音が大きく質感低い。
■加速フィール   9点/踏めば速い。ただしその際のエンジン音質にチープさを感じる。
■走りの質感    8点/良路では良いのだが、それ以外は乗り心地がやや硬く跳ねる印象。ショックでボディの動きを止める乗り味も古さを感じる。あとロードノイズもあるので走りの質感は低く感じる。
■居住性      8点/前席は快適、後席へ乗り込む際に足元が狭い。前席のショルダーが大きく後席は圧迫感あり。
■インテリアの質感 8点/インパネ周りやシート縫製は、旧型に比べて格段に向上した。
■コストパフォーマンス 7点/若さを感じるデザインかつ驚異的な燃費、質感の高いインテリア、先進安全技術などを考えれば価格相当。ただしハッチバックに360万円はやや高め。
?総合点 80点
コメント:18インチタイヤはロードノイズが大きく、また足回りもやや硬めであるために跳ねる印象。ゴルフの様に固めずにボディモーションをコントロールする事ができれば、もっとクオリティ高まる。バイブリッドの充電時音は室内に大きく入ってくるため、質感が高く感じられない。

<VWゴルフ>
■コーナリング性能 9点/軽いが手応えのある操舵力で、正確にコーナーを抜ける。クルマの動きが実に軽やか。
■高速直進安定性  9点/軽い補舵力、センターが明確に分かる。クルマが自らまっすぐ進む(※非アシスト時)
■乗り心地     9点/ショックの角が丸くて路面外乱をいなすのがうまい。ばね下を動かして上屋を安定させている。
■ロードノイズ   9点/225幅の17インチだがロードノイズは低め。路面によるノイズの変化が少ない。
■エンジンフィール 8点/実用的なエンジン。音もおとなしめ。
■加速フィール   8点/早くはないが、終始滑らかで適度な加速感で扱いやすい。
■走りの質感    10点/路面との当たり常にマイルド、軟らかいカーペットの上を走る印象で質感高い
■居住性      8点/前席、後席ともに視界も良く快適。レザーの色も明るくて良い。
■インテリアの質感 9点/インパネ周りやシート縫製、細部の作り込みクオリティが高い。未だTOPクラス
■コストパフォーマンス 8点/エクステリはおとなしく派手さは無いが、クオリティの高い内装、先進安全技術、本革シート、そして動性能などを備えており、価格相当以上の満足感が得られる。
?総合点 87点
コメント:ノイズが少なく長距離を快適に移動できるだけでなく、ベースの柔らかい足回りであってもステアリングを切ればスパスパと小気味良く、正確にコーナーを駆け抜ける運動性能を併せ持つ。誰でも運転がしやすく感じるはず。未だCセグメントの見本と言える。

※個別項目は10点満点、総合点は各項目を集計したものです

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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