「ニッサン インテリジェント ファクトリー」が発表。「パワートレイン一括搭載システム」などからなる次世代のクルマ作りのコンセプト

●「パワートレイン一括搭載システム」「シーリング塗布の自動化」「人とロボットの共生」により生産ラインを革新

2019年11月28日、日産自動車は次世代のクルマ作りコンセプトである「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を発表しました。同生産コンセプトは、今後、国・内外の生産工場に導入されます。まず、2020年、栃木工場に導入し、330億円が投資されます。

日産自動車の坂本秀行副社長
坂本秀行副社長が発表した「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の技術説明会

「CASE」に代表されるキーワードが自動車業界を賑わせていますが、同社の生産担当副社長である坂本秀行氏は、革新的な生産技術がなければ、電動化や知能化、コネクテッドなどの次世代モビリティは語れないとしています。

生産ラインは性能のブレークスルーのため、生産上の壁を破る必要があり、日産は、これまで生産現場における様々な挑戦や改善活動により生産工程の高品質化と高効率化を進めるとともに、高技能を持つ“匠”の技術により、高精度なクルマづくりを実現しています。

今後、「電動化」「知能化」など、日産が進めている「ニッサン インテリジェント モビリティ」が加速することに伴い、クルマの機能や構造がより複雑化していき、生産工程も更なる技術革新が不可欠となっていきます。現在の自動車生産は、1913年のT型フォードの量産開始に端を発していて、多くの労働力、技能習得が必要。

坂本秀行副社長は、現在も今後も仕様の組み合わせがエンジン、ハイブリッド、EVなど多様なパワートレーンは安全技術が採用されるなど、複雑になることで、生産工程の難易度が格段に増すとしています。さらに、少子高齢化という時代背景もあり人材確保も難しくなります。

「ニッサン インテリジェント ファクトリー」は3つの柱からなり、「未来のクルマを作る技術」として、クルマは「電動化」「知能化」や「コネクテッド」など、より高度で複雑な技術が搭載されています。生産ラインを革新することで、高度化したクルマの生産に対応。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
ボディも樹脂部分も同時に塗装が可能

2つめは、「匠の技で育つロボット」で、匠の磨き抜かれた技を数値化して、ロボットに伝承するというのがキモ。匠はさらなる現場改善や、自動化できない感性品質、複雑化する技術への対応など、最高品質のクルマづくりを支えていくとしています。

3つめは、「人とロボットの共生」で、作業車に厳しい作業をロボットが助けることで、人が働きやすい環境を作っていきます。女性や高齢者も活躍できる工場にすることで、働き方の多様化を加速させるとしています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
「パワートレイン一括搭載システム」は、この1工程で27通りのユニットの組み合わせを高精度で実現できる

より具体的に見ていきます。1つめは、アンダーフロアを含めた「パワートレイン一括搭載システム」。EVやe-POWER、ガソリン車のパワートレインユニットの組立を一括搭載するシステムで、パワートレーンのダイバーシティに対応し、リヤアクスルまでも含めて一括搭載が可能だそう。

従来は、大勢の作業者が負荷の高い姿勢でモーター、エンジン、バッテリー、サスペンションをそれぞれ組付けていましたが、同システムでは、パレットの上に作業者がパワートレインの組立に必要な部品をセットするだけで、ロボットが自動で組付け。日産の生産技術研究開発センターが独自開発した同パレットは、モーター、エンジン、バッテリー、サスペンションの27通りの組合せに対応し、ユーザーの幅広い選択肢を提供。

また、高速ビジョンシステムによる画像認識によりクルマのボディを瞬時に測定し、0.05mmの精度で組付けます。この1工程で27通りのユニットの組み合わせを高精度で実現できるのがキモとしています。もちろん、サプライヤーとの共同が前提で、同一括搭載システムが開発されています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
シーリング塗布の自動化にも対応する

2つめは、「シーリング塗布の自動化(匠の技の自動化)」です。これまでは、車体パネルの接合箇所の水漏れを防止するシーリングは、施工する部位の形状が複雑なため、自動化が難しかったそうで、技能者の熟練した技術に頼ってきました。今回、匠がハケやヘラでシーリングの塗布をして仕上げる際の、力加減や動かす角度を数値化してロボットに伝承することで、匠の手の動きを忠実に再現することを可能にしたそう。

具体策の3つめは、革新塗装ラインです。従来、金属製のボティと低温での塗装が不可欠な樹脂製のバンパー(高温だと溶けてしまう)とは別々の工程で塗装されてきました。今回、日産が新たに開発した水系塗料は、低温で難しかったボディ塗装における粘性のコントロールに成功し、ボディの低温塗装を実現。これにより、別工場で搭載されてきたボディとバンパーの同時塗装が可能となり、CO2を25%低減。

また、従来、塗装工程で空気中に残留した塗料は水と混合され廃棄物となっていましたが、水を一切使わないドライブースを採用することで浮遊する残留塗料を100%回収し、鋳造工程にて鉄を生成する際に不純物除去のために使用されていた補助剤の代替としてリサイクル活用します。「ニッサン インテリジェント ファクトリー」は、環境にも貢献するとしています。

ニッサン インテリジェント ファクトリー
デフギア自動組立(24時間自動生産)

ほかにも、デフギア自動組立(24時間自動生産)、コクピット自動組付け(高品質化)、ヘッドライニング自動組付け(重労働の撤廃)などが可能になります。

■工場の自動化で高齢者、女性も活躍できる生産現場に

約6年間開発してきたという「ニッサン インテリジェント ファクトリー」はマンパワーを減らすのだけが目的ではなく、定年延長や女性の活躍なども可能にしたいそう。既存の生産ラインと「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の入れ替えは、時期を見るのが難しいそう。稼動状態を見ながら工場の更新時期に合わせるのが難しいためで、主力工場にはまず「パワートレイン一括搭載システム」を早期に投資していきたいとしています。

また、多くのパテントを取得し、グローバルで展開するだけでなく、ルノーとのアライアンスでも今後活用しない手はないとしていますが、坂本秀行副社長は、どういったクルマを作っていくかという戦略も重要としています。

(塚田勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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