クルコンとオービス、どっちが正しい!? 新型オービス初の裁判は前代未聞の体制に【新型オービス否認裁判・前編】

■クルコンで85キロに設定していたのに105キロで取り締まられた!

●新型オービス初の裁判はどんな判決が下ったのか!?

 警察庁は2013年、「新たな速度違反自動取り締まり装置」の導入へ動きだした。
 装置的にも運用的にもスピード違反取り締まりの新時代を拓くものであり、私は「新型オービス」と呼んでいる。ネットではなぜか「移動式オービス」「移動オービス」と呼ばれている。

 新型オービスは、
 ・スウェーデンのSensys Gatso Group(以下、センシス)
 ・国産オービスの老舗である東京航空計器(以下、TKK)

 この2社の競合という形になっている。
 だがそれは表面上のこと。情報公開によりゲットした内部文書、そして複数の入札関係の文書、また記者発表(報道)などを見ると、裏で警察庁はあからさまに“TKK推し”かと推察される。

センシス製オービス(前)
埼玉県北本市内の国道17号線、歩道に設置されたセンシスの固定式、SWSSだ。丸いのはフラッシュ。その下にレーダーアンテナとカメラが内蔵されている。

 そんななか、2018年8月、さいたま地裁で新型オービスの裁判が始まった。
 被告人とされたのは若い男性だ。場所は埼玉県北本市内の国道17号。装置はセンシスの固定式オービスSWSS(Speed Warning Safety System)。測定値は105キロだ。制限速度は60キロ、45キロオーバーである。
 男性は、深夜に祖父の容態が悪いとの連絡を受けており「急ぐ気持ち」があったという。かつ、オービスは赤切符の違反(一般道路では超過30キロ以上)を取り締まると聞いていた。
 そこで、5キロ刻みで設定できるレーダー・クルーズ・コントロール を85キロに設定していたという。よって測定値の105キロは出していない、誤測定だ、という争いなのである。

 警察庁が全国展開を進めている新型オービスの、それも外国製オービスの、本邦初の裁判! 今後のリーディングケースとなる極めて重要な裁判だ。
 検察官(穏やかそうだが有能そうな若めの男性)はだいぶ上のほうから指示されたのだろう、前代未聞の完璧立証を展開した。
 ここで言っておくと、従来の国産オービスの否認裁判を私は20年以上にわたりさんざん傍聴してきた。新型オービスの裁判は本邦初だ。しかも外国製オービスとあってはダブルで大興奮。そんな私の記事なので、少々マニアックになることもあるかも。お許しいただきたい。

●スピード違反の裁判では前代未聞の体制に

センシス製オービス(後)
センシスの固定式、SWSSの背面。従来の国産オービスに比べて非常にスリムだ。設置工事も安くすむ。

 検察官側の証人として4人が出廷した。
 1人目はセンシスの日本での代理店、沖電気の担当社員だった。なんと検察官からの主尋問だけで5時間! 殺人事件でもちょっとあり得ない長さだ。検察官は完璧立証を目指しているのだ。
 2人目の証人は埼玉県警のオービス担当の警察官。
 ここから裁判は合議、つまり裁判官3人の体制となった。たかが45キロオーバーのスピード違反で合議なんて普通あり得ない。
 3人目は、定期点検を請け負う会社の社員。ミニスカートの素敵な女性だった。スウェーデンで研修を受け、資格を取得したという。

 以上の証人尋問の中身については、私のメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」でその都度、詳報してきた。どれも「へ~!」「ほ~!」の連続だった。が、ここでは省略する。

 そして2019年8月28日、4人目の尋問が行われた。
 いよいよ真打ち登場、証人はセンシスの社員だった。意外にもというか、日本人名で日本人風の中年男性だ。
 検察官はまず経歴を尋ねた。証人は東大の工学部卒で、IT方面の大手企業へ就職。アメリカへ留学してMBA(Master of Business Administration)を取得。その後何度か転職し、現在はセンシスのオービスについて「技術的なサポートや問題があったときの支援」などをしているという。
 以下は要旨だ。

検察官「上場は」
証人 「ストックホルムのOMX(北欧の証券取引所)に上場…アメリカのナスダックの関連市場です。ハイテク、ソフトウェア、先端技術が多く上場しています」
検察官「センシスの資本金は」
証人 「約10億円です」
検察官「年間の売上高は」
証人 「ユーロの換算にもよりますが50億円から55億円…」
検察官「グループ会社も含めて従業員は」
証人 「8カ国で約200人です」
検察官「会社の規模に比べて少ないように思うのですが、少ない理由は何ですか」
証人 「センシスは製造工場を持っていないので…スエーデンのキトロンで製造…」
検察官「キトロンとは」
証人 「EMS(エンジニア・マニュファクチュアリング・サービス)…ハイテク、医療、防衛産業用の高性能機械のメーカーです」
検察官「設計はセンシスが自社で行うのですか」
証人 「はい」

 得意なところを組み合わせて商売をやるとは合理的ではないか。

検察官「センシスのシェアは世界で何位ですか」
証人 「2位から3位くらいの位置にあります」

 1位はドイツらしい。

検察官「センシスの測定装置が使われている国は」
証人 「主にヨーロッパ、中近東で約70カ国です。アメリカも」

 さっき8カ国と出てきた。センシスの社員がいるのは8カ国、ほとんどの国では現地の業者が仕切っているようだ。

検察官「ほかは」
証人 「日本は今やっているところで、あとは旧大英帝国の香港…(南半球では)オーストラリアの一部で」
検察官「世界で何台くらい販売していますか」
証人 「約5万台近く設置、運用しています」

 警察庁のデータによれば日本のオービスは2018年末、新型オービスを除いて457台だ。
 検察官は残酷にも日本のメーカーの「世界的シェア」を尋ねた。

証人 「日本の装置の海外進出は聞いてませんが、シェアは、そうですね、コンマ何%あるかというところかと」

 日本のオービスはもともとはアメリカ発だ。1973年頃に海を渡って日本に上陸した。じつは外車で有名なあのヤナセも関わっている。そのへんの話はいずれ詳述しよう。
 以来、従来の国産オービスは日本国内だけでいわば無菌状態で育ってきたわけだ。

●センシスの新型オービスは約300万円値下げ!?

契約書
警察庁がセンシスの固定式を購入したときの契約書より。設定用のノートパソコン等も含め本体価格は1,043万円。工事費が322万円。いずれも消費税抜きの金額。従来の国産オービスに比べてかなり安い。

 ところで、新型オービスはTKKばかりが売れているように見える。センシスはどうなのか、検察官が尋ねた。

証人 「入札によって、北海道、千葉、香川が決まりました」
検察官「まず最初は」
証人 「北海道…今年3月に納品…可搬式です…」

 その入札結果(2018年12月)が北海道のWebサイトにあるのを私は読者氏から教わった。TKKは1,000万円、センシスは698万円で札を入れ、センシスが落札している。
 詳細は省略するが、それまでセンシスの可搬式はTKKと同じく1,000万円だった。なんと約300万円も下げたのだ。警察庁の“TKK推し”を察知し、スウェーデンの本社が大幅値下げを断行したのか、というのは私の推測である。

 その後も各県警から問い合わせがあり、拡大中であることを証人は述べた。
 しかし、何より大事なのは測定の信頼性だ。
 世界の約70カ国に5万台近く設置、運用されているとなれば、信頼性はそれなりにあるのだろうが、どうなのか。尋問は機能、性能の話へ入っていった。
【後編へ続く】

(今井亮一)

【関連記事】
300キロまで測定&カラー写真をUSBに保存! スウェーデン製新型オービスの恐るべき高性能【新型オービス否認裁判・後編】
https://clicccar.com/2019/11/12/929363/