■動きはクイックでトラクション性能に優れるスープラだが…
2019年、もっとも話題になった新型車はGRスープラではないでしょうか? そして、それをいち早くモータースポーツに投入したのが、D1グランプリでした。
では、GRスープラのドリフトマシンとしてのポテンシャルはどうなのでしょうか? 1シーズン終えたいま、見えてきたものがあります。
今季、D1グランプリには2台のGRスープラが投入されました。
1台は、齋藤太吾選手が乗るFAT FIVE RACINGのGR Supra MONSTER Edition。もう1台は川畑選手が乗るTeam TOYO TIRES DRIFT-1のTeam TOYO TIRES DRIFT GR Supraです。
エンジンは2台とも現在のD1GPで定番になっているトヨタの2JZエンジンに換装されて登場しました。
また、サスペンションシステムは両車ともエストニアのワイズファブ製のものに交換され、ダンパーユニットはHKSのものを使用しています。市販車のデリバリー前に製作された競技車両なので選べるパーツが少なかったことが、両車の仕様が似ている大きな理由です。
齋藤選手は最終戦で単走優勝しましたが、トラブル等でリタイヤとなったラウンドもあり、単走シリーズは10位。年間総合順位は14位でした。
川畑選手は優勝こそありませんでしたが、全戦で追走トーナメントに進出し単走シリーズは7位。年間総合順位は12位でした。
サスペンションシステムが完全に変更されているので、ノーマルの素性そのままとはいえませんが、2台ともデビュー直後から戦える水準のドリフトを披露していました。この点から、GRスープラには(ドリフト車として)変なクセはなく、扱いやすい特性があるものと推測されます。
また、2人とも「クイックに動いて運動性能が高い」「トラクションがよくかかる」と言っていました。
GRスープラはもともと、かなりショートホイールベースでワイドトレッドな設計になっています。ノーマルでもクイックすぎるほどクイックな特性だという評価も聞くので、動きが機敏なのはベース車の素性であることが推測できます。
これは、するどい振り出しや振り返しを求められるドリフト競技においても有利です。なお、ノーマル車の場合は、電子制御のスタビリティコントロールでスピンを防いでくれる機能があるわけですが、そんなものを使っていたらドリフトができないので、とうぜん競技車両にはついていません。
にもかかわらず、齋藤選手も川畑選手もあまりスピンで苦しむ場面を見ることはありませんでした。ここもGRスープラのひとつの特徴かもしれません。おそらくトラクション性能が高いおかげでしょう。クイックに振り出しても、すぐにアクセルを踏むことができれば、安定したドリフトに移れるようです。
また、深いドリフトアングルで走っている場面も多かったので、角度にも強いと思われますが、このあたりは、ワイズファブのサスペンションの特性かもしれません。
川畑選手も齋藤選手も、各サーキットで上位に入る最高速をマークしていました。2台ともエンジンパワーは、現代のD1GPにおいては突出したものではなく平均的です。したがって、おそらくトラクション性能がいいので加速がいい、しかもクイックに角度をつけて一気に減速できる(スピンしにくい)ので、奥まで突っ込んでから振り出せるという強みがあるのではないでしょうか。
ということで、GRスープラのドリフトマシンとしての素性はなかなかよさそうです。しかし、2台とも追走で進出できたのはベスト8まで。ベスト4に入れたラウンドはありませんでした。
そして、最終戦を前にして川畑選手はエンジンを3.0Lの2JZから4.3Lの3UZに換装してきました。このあたりに、GRスープラが抱える課題がありそうです。それは、トラクション性能が高すぎるのではないか? というものです。
オートポリスの練習走行で、中村選手と齋藤選手が何度も追走の練習を行っていました。その際、齋藤選手が後追いから中村選手について行こうとしたときに、どうもラインが小さいのです。
推測ですが、これは、トラクションがよすぎて、アクセルを踏んだときにアウトまでドリフトを伸ばしにくいのではないかと思いました。ひとりで走る単走のときはいいとしても、相手に合わせる追走のときは、よりコントロールがむずかしいのではないでしょうか。
もちろんセッティングでなんとかなる面もあるかもしれませんが、追走で勝つためにはスピードも大事なのでトラクションは落としたくないでしょう。そのバランスがむずかしいのかもしれません。
そして川畑選手がエンジンを換装したのも、そういった理由のようでした。
「タイヤのグリップが上がって、クルマのトラクションがいいので、2JZだと力不足になってしまった」。
それが3UZエンジンを投入した理由だそうです。オートポリスではまだエンジンが万全の状態じゃなかったため本領発揮はできませんでしたが、川畑選手は、「これが仕上がったら無敵になると思います」とも話しています。
ひょっとすると、GRスープラはシャシー性能が高すぎ、現在のD1GPで標準的になっている2JZエンジンよりも一段上のパワー&トルクが要求されるのではないでしょうか。そして、そのパワー&トルクが得られたとき、GRスープラはD1GPにおけるドリフトのレベルをワンランク引き上げてくれることになるかもしれません。
川畑選手のGRスープラは、3UZエンジンを完成させて11月29〜12月1日に筑波サーキットで行われるFIAインターナショナル・ドリフティングカップに臨む予定になっています。まずは、仕上がった3UZ仕様のGRスープラの走りを見るのが楽しみです。
なお、11月2〜3日に大分県・オートポリスで行われたD1GP第7戦では、GRスープラに乗るFAT FIVE RACING齋藤太吾選手が、圧倒的な高得点で単走優勝。
追走はTeam VALINO N-STYLE ALIVE FNATZの中村直樹選手が優勝しました。
そしてこのラウンドの結果、単走シリーズチャンピオンは、TEAM MORIの北岡裕輔選手に決まりました。
シリーズチャンピオンは、2年連続でD-MAX RACING TEAMの横井昌志選手が獲得しました。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス)
【関連リンク】
D1グランプリの詳しい情報、FIAインターナショナル・ドリフティングカップの情報は、D1公式サイト(www.d1gp.co.jp)で。
また、D1関係の各種公式動画は、Buzz Car Movie(www.v-opt.co.jp)からどうぞ。