■代行運転で誤認逮捕、2つの法律の「分裂」とは?
「えっ、なにそれ?」なニュースがあった。以下は11月1日付け時事通信の記事の一部だ。
運転代行業者を誤認逮捕=トラックは「想定外」-愛知県警
愛知県警は1日、客を乗せるために必要な第2種免許を持たない者が運転代行業務を行ったとして、男性2人を逮捕したのは誤認だったと発表した。トラックの代行運転で摘発したが、道交法にトラックの代行運転を取り締まる規定がないことが分かったという。
県警によると、9月11日に同県小牧市の運転代行会社が中型トラックを代行運転。運転したアルバイト男性(24)は中型トラックの免許はあったが、第2種免許がなかったため、県警は10月28日、この男性と業務を指示した社長(50)の2人を道交法違反などの容疑で逮捕した。
しかし同31日、検察官の問い合わせで問題が浮上。道交法が規定する「代行運転普通自動車」にトラックは含まれないと判明した。立法の際、トラックの運転手が代行運転を利用することは想定されていなかったためとみられる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019110101089&g=soc
もう20年前のことになるが、うっすらと、あるいはくっきりとご記憶の方も多いだろう、1999年11月に東名高速でとんでもない重大事故があった。常習的に飲酒運転をしていた大型トラックが乗用車に激突、炎上させ、3歳と1歳の女児を焼死させたのだ。
これをきっかけに、飲酒運転に対する社会的な非難がものすごく高まった。代行運転を利用する人が増えたらしい。当時、代行運転をダイレクトに規制する法律はなかった。
そこで2001年6月「自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律」(以下、代行業法)が制定された。施行は翌年6月。
さぁ、ここから先が、警察官も間違うくらいややこしいのである。簡単に解説しよう。
とくに交通取り締まりを日々おこなう警察官諸氏にとって大事なことですよ。
代行業法第2条の定義では、同法がいう「代行運転自動車」(いわゆる顧客車)にはトラックも含まれる。
代行業法は国土交通省が所管する法律だ。制度については国交省が仕切るわけだ。
ところが、運転免許については警察庁が仕切る。警察庁が所管する道路交通法(以下、道交法)がカバーする。
その道交法の第85条第12項に、意外なことがさらっと規定されている。
代行業法が定義する「代行運転自動車」は「普通自動車に限る」と。なにぃっ?
つまりこういう“分裂”が起こっているのだ。
・代行業法 = トラックも含む
・道交法 = 普通自動車のみ
普通自動車に限った「代行運転自動車」について、道交法は「代行運転普通自動車」という長ったらしい名称を与えてもいる。
そして道交法の第86条第5項がこう定めている。
「代行運転普通自動車を運転しようとする者は、普通第二種免許を受けなければならない。」
代行運転で普通車を運転するには第2種免許が必要。イコール、代行運転でトラックを運転する場合、第2種免許は不要なのである!
逮捕された24歳のアルバイト男性は、中型免許はあったが第2種免許はなかった。それでも顧客車がトラックならぜんぜんオッケーなのだ。
逮捕した警察官も、上司の警察官も、道交法をよく読まなかったのか。いや、読んだけれども「代行運転自動車」とか「代行運転普通自動車」とかややこしくて、頭に入らなかったのかもしれない。
というか、検察官はよく気づいたものだと感心する。なーんて偉そうに言っている私も、今回じっくり調べてみるまで知らなかった。
交通警察官向けの“虎の巻”として『執務資料道路交通法解説』というのがある。道交法が改正されるたび改訂版が出る。
古い版を見ると、道交法にこうした規定が加えられたのは、代行業法が誕生したのと同じ2001年6月。当時、代行運転はタクシー営業に「近似している面が多くみられる」などの事情があったそうだ。
「トラックで出かけて飲酒した帰りに代行運転を頼む」ということを当時は想定しておらず、現在の警察官たちの認識も変わっていなかった、そういうことなのだろう。
次の国会で、2つの法律の“分裂”は正されるかもしれない。
(今井亮一)