メルセデス・ベンツ初のEVは間違いなく「メルセデス・ベンツ」だった【メルセデス・ベンツ EQC試乗】

●走り出した直後に実感する、エンジンモデルそのもののメルセデス感

EQCはメルセデス・ベンツ初のEVです。グループのスマートにエレクトリックドライブというEVがあったり、北米で限定的にEVを発売したことはありますが、本格的な量産モデルとしてはこのEQCが最初のモデルとなります。

今回の試乗車は、メルセデス・ベンツ日本が並行輸入したモデルで、正式導入し型式認定を受ける前のものなので、細かい部分などが異なります。

EQC 前7-3スタイリング
GLCとは異なる顔つきが与えられているEQC

EQはメルセデス・ベンツのEV関連ブランドに付けられたネーミングです。Cはもちろん車格を表します。EQCはCクラス系SUVのGLCをベースとして作られました。GLCのエンジンが搭載されるフロントフード内にモーターを収めています。

GLCの場合は衝突時にエンジンが衝撃を受け止めますが、EQCはモーターとなるためそれほどの剛性が得られません。そのため、モーターを囲うようにパイプが張り巡らされ、エンジンが存在したときと同じ効力を発揮するようになっています。またリヤにもモーターが搭載され、前後それぞれのモーターが駆動に働く4WD方式を採用していることも特徴的です。

EQC 後ろ7-3スタイリング
左右のコンビランプをガーニッシュで連結させるデザイン
EQC 真横スタイリング
リヤに向かってゆったりと下がるルーフがクーペライクなスタイリングを実現している
EQC ボンネット内
ボンネットを開けるてもフルカバードされた状態でパワーユニットは見えない

ドライバーズシートに乗り込むと最新のメルセデス車であることを表す横長の液晶パネルが目に入ります。

この液晶パネルは10.25インチのディスプレイを2枚横に並べたもの。最近のメルセデスは、このタイプの横長で薄い液晶パネルにメーターなどを組み込むようになってきています。システムはインパネ上のスイッチを押すことで起動します。エンジン車のATセレクター同様のレバーを動かしDレンジを選べばスタート準備完了です。

EQC インパネ
独立した薄い液晶メーターパネルは特徴的だが、その他はメルセデスの伝統を守っているインパネ

ブレーキペダルから足を離せば、ゆっくりとスタートします。スタートしてからの感覚がじつに普通。ここからはメルセデスを運転している感覚しかありません。何の違和感もないのです。

エンジンモデルそのもののメルセデス感なのです。アクセルを踏み前に行く感覚、アクセルを緩めて感じるエンジンブレーキ(その中身は回生ブレーキですが)、フットブレーキによる減速感……そのすべてがメルセデスそのものです。

EQC フロントシート
メルセデスらしいタップしたボリュームを持つフロントシート。サイドサポートは下側の張り出しが強くなっている
EQC リヤシート
拡張性の高いリヤシートながら、座り心地もいい。クッション前後長もしっかり確保されている

コーナリングの感覚もメルセデスらしい。しっかりと粘りながら、そしてタイヤのグリップを感じながら行えるものです。ただ、652kgもあるバッテリーを床下に収め、重心が低くなっているため、多くのSUVよりも粘る感覚が強くなっていることを感じます。

まさに粘るという感覚でシャープな印象はありません。このため、回り込むようなコーナーではGがたまる印象を受けます。

EQC 真後ろスタイリング
真後ろから見ると水平基調が大切にされていることがわかる
EQC タイヤ&ホイール
試乗車のタイヤはミシュランのパイロットスポーツ4SUVで、サイズは235/45R21

もっともEVらしさを感じるのはアクセルを強く踏み込んだときの加速感です。0→100km/h加速は5.1秒、0→60km/hは2.5秒と駿足です。車重が2.5トンにもなるSUVがこの加速をする様子は圧巻。スポーツカーの加速が猫科の動物に例えられるなら、EQCの加速は象やサイなどの巨大な動物が突進するかのようです。

EQCは前後にモーターを備え、普段はフロントモーターが中心の制御が行われていますが、フル加速時はリヤモーターが積極的に働きます。リヤシートに乗った際にはこのリヤモーターの強く感じることができました。

EQC 真正面スタイリング
真正面のスタイリングも左右のヘッドライトを連結するようなデザインが採用される
EQC 充電口
上段が急速充電、下段が普通充電用の充電口。急速充電は50kWに対応する

また、回生量を調整できるところも特徴的。ステアリングに取り付けられたパドルを操作することによって回生量の調整が可能。その感覚は三菱のアウトランダーPHEVと同じだ。デフォルトポジションはエンジン車のような回生量となっている「D」。右パドルを引くと「D+」となり回生は行わずコースティングモードとなります。「D」ポジションから左パドルを1度引くと「D-」で最大減速Gは1.7m/s2となりきつめの回生。もう1度引くと「D–」で最大減速Gは2.5m/s2とフットブレーキを操作したような回生ブレーキが効きます。強い回生が働いたときはブレーキランプも点灯します。

EQCラゲッジスペース
定員乗車で約500リットル、フルラゲッジでは約1500リットルを確保するラゲッジスペース

標準モデルのEQC 400 4マチックの価格は1080万円、特別自動車のEQCエディション1886は1200万円とかなり高価な価格設定です。

この価格設定でありながら、クルマのフィニッシュがイマイチなのはちょっと気になる部分。たとえば、フロントモーターの周囲に張り巡らされたパイプ類の溶接や切断面の処理は、プレミアムモデルらしからぬもの。カバーの中での状態とはいえ、もう少し工夫が欲しいと思うのは私が日本人だからなのでしょうか?

ただし今回のモデルは正規に輸入される仕様にはなっていないということなので、正規輸入車の仕上がりに期待したいところです。

EQC モーター
ボンネット内側のカバーをめくるとモーターが見える。モーターを囲むパイプ類のフィニッシュにひと工夫ほしい
EQC 内張段差
サイドウインドウを全開した状態。内張がドアパネルよりも上側まである。きっとなにか理由があるはずだが、解明できてない

(文/写真・諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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