●「セダンかSUVか」は「ドイツ車にするかアメリカンテイストにするか」でもある!?
メルセデス・ベンツのSUV、GLEは元々はMクラスという名前でスタートしています。
Mクラスは1997年に市場投入されたモデルで、メルセデス・ベンツとしては初めてアメリカ工場で生産されたモデルです。3代目Mクラスのシリーズ途中となる2015年に改良を受けた際に車名GLEと変更しました。
そして2019年にフルモデルチェンジし、新型となりました。つまり純粋なGLEはこのモデルが最初という表現をしてもいいでしょう。
Mクラス、そしてGLEはメルセデス・ベンツのなかでもかなり特殊なモデルと言えます。アメリカで製造されていることがそのひとつの理由ですが、多くのセッティングがアメリカ市場に向いていることです。
今回のモデルはV型エンジンをよしとするアメリカ市場を意識しながら、V型ではなく直列6気筒ガソリンエンジンを積むところも特徴です。この直列6気筒ガソリンエンジンは、Sクラスなどに採用されているものと同様の3リットルターボで、スタート時のアシストなども行うモータージェネレーターのISGが組み合わされています。
全高1780mmのボディは着座位置も高めですが、Gクラスのように「よっこいしょ」と乗る感じはありません。
エンジンを始動しいスタートするとISGの助けもあり、スムーズでスーッと出て行きます。さらにそこからアクセルを踏んでいくと、「あーやっぱり直列6気筒ガソリンエンジンはスッキリと回っていいなあ」と感じさせるスムーズさです。スムーズなだけならモーターには叶いませんし、絶対的なトルクもモーターのほうがいいでしょう。
しかし、いかにも生物的な力強さというのはエンジンでしか表現できない(現在は)ですし、それでいてスムーズさを求めるなら直列6気筒(あるいは水平対向6気筒やV型12気筒)は最適な部類です。
そしてビックリするほどの静かさも秘めているのがこのクルマのいいところです。走行中の静かさは、クルマそのものの防音性能から生まれています。
試乗を行ったのは真夏の盛り、撮影場所では多くの蝉がものすごい勢いで鳴いていました。駐車場を出るために料金支払機にカードと現金を入れ、領収書を取り、窓を閉めたときです。窓の開口部が残り1cmになったあたりから急激に蝉の声が小さくなり、閉まりきった瞬間に静寂が訪れました。
ものすごいレベルで防音対策が行われていることを感じさせてくれる一幕でした。
乗り味はほかのどのメルセデスとも違うものです。ハンドリングや乗り心地には、いわゆるドイツ車のキリッとした感覚はありません。この部分についてはビックリするぐらいにアメリカ車に仕上げられています。
これは初代Mクラスからの伝統で、メルセデスと言うブランドはここまでユーザーに歩み寄れるのだと関心させられる部分です。
今回のGLEは全モデルで乗車定員は7名となり、3列シート仕様となりました。3列目のシートはさすがに小ぶりで、ミニバンのように大人でも長距離移動が可能というタイプではありません。
しかし、定員が5名なのと7名なのとでは使い勝手には大きな差が生じるのは当たり前です。
ラゲッジルームは定員乗車時で160リットル、サードシートを収納状態で630リットルの容量を確保。さらにセカンドシートを収納してフルラゲッジとした状態では1929リットルという広大な容量の確保ができ、その拡張性はかなり高いものとなっています。
このGLE450 4マチック スポーツの価格は1132万円(消費税8%込み)で、同じエンジンを積むS450の1170万円とほぼ同じ。セダンにするか? SUVにするか? 純粋なドイツ車にするか アメリカンテイストにするか? は悩むところでしょう。
(文/写真・諸星陽一)