富士で2位! Modulo KENWOOD NSX GT3の大津弘樹選手が全日本F3にリトライする理由とは?

●熱く激しいながらもクリーンなレースで富士戦で2位獲得

7月13〜14日に富士スピードウェイで開催された全日本F3選手権の富士ラウンド。今回は第11戦・12戦が開催されました。

13日に行われた第11戦はスタート直前に雨が降り始めますが、レインタイヤに履き替えるか否かの微妙な路面。第12戦はかなりの雨量の中レインタイヤでのレースとなります。

今年の全日本F3選手権にはSUPER GTで34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3に乗る大津弘樹選手も出場。13日の第11戦では4位からスタートし、オープニグラップで3位に浮上します。

その周で後方ポジションの接触によりセーフティーカーが導入され、SCが解除されるやいなや猛ダッシュ! TGRコーナーではトップから3番手の大津選手までが3ワイドで突っ込んでいくという熱い展開を見せます。

一番最初にTGRコーナーに飛び込んだのは大津選手。しかし減速しきれずにコースアウト!コース復帰したときには4位、そして復帰後にレーシングスピードに戻るまでにもう1台に抜かれ5位までポジションを落としてしまいます。

しかし、ここで諦めないのが大津選手。

小雨のパラつく富士スピードウェイをスリックタイヤで1分39秒台を連発し、4位のマシンを追いまくります。その間トップのマシンがドライブスルーペナルティとなり大きく順位が変わると目の前のライバルを抜けば3位表彰台!

そして14周目のコカ・コーラコーナーで前に出ると3位でチェッカーをくぐります。

第2ラウンドのオートポリス以来の3位表彰台を獲得。しかしこの直後、優勝マシンに車両規定違反が見つかったことにより順位が繰り上がり正式結果は2位となりました。SUPER GTのタイ戦に続いて、全日本F3選手権富士ラウンドでも熱く激しいながらもクリーンなレースをする大津選手ならではのドラマが生まれました。

●大津選手が全日本F3にリトライする理由

大津選手は2017年の全日本F3選手権に出場し優勝1回、2位6回、ポールポジション2回でランキング5位という成績で一度卒業をしています。2018年からはSUPER GTのGT300クラス Modulo KENWOOD NSX GT3のドライバーとしてステップアップ。また同年のスーパー耐久のST-TCRクラス Modulo CIVIC TCRのドライバーとしてもシリーズチャンピオンを獲得しています。そんな彼が今年、なぜ再び全日本F3選手権に再チャレンジするのでしょう。

「シーズン前のテストでGT500マシンに乗る機会があったのですが、初日はダウンフォースを使うマシンの乗り方が全くできなかったんです。2日目はしっかり乗れてタイムも出せるようになったのですが、この先ステップアップをしていくためにはダウンフォースを使ったマシンの乗り方を勉強し直さないといけないと感じたんです」

GT300のModulo KENWOOD NSX GT3とGT500マシンの乗り方はどれほど違うのでしょう。

「GT300の特にGT3マシンはそれほどダウンフォースは強くないんです。ブレーキもABSがついているので突っ込むだけ突っ込んで曲がっていく感じなのですが、GT500マシンはダウンフォース、つまり空気抵抗でマシンを押さえつけてタイヤをグリップさせるのでダウンフォースを切らさずに曲がっていかなくてはいけないんです。GT3の乗り方でGT500に乗るとコーナーでダウンフォースが無くなるんですね」

「ダウンフォースを使った乗り方を勉強しようと思いF3のチームを探していたらThreeBond RACINGのオーディションの話を頂いて、全日本F3選手権に出場できることとなりました。F3のドライビングスキルはこの先のステップアップには絶対に必要だし、今ならF3をもっと深く感じることができます」

その言葉通り、今回の富士ラウンドでは第11戦を2位、第12戦は4位ながら予選ポジションは今季最高位の3番グリッド。今年の大津選手は1年のブランクがあったとは思えない走りを見せています。

「SUPER GTではGT500のレギュラードライバーにもなりたいし、スーパーフォーミュラでも戦いたい。FIA F4や以前のF3の同期にはGT500やスーパーフォーミュラに乗っている選手もいますから悔しい思いもありますが、そこに上がっていくためには自分自身がしっかりと勉強して準備をしたい。そういう思いでF3に乗っています」

大津選手の持ち味はなんと言ってもレース中に見せる熱さ。特にバトルになったときの攻め込みには魅了されるものがあります。

「普段はあまり熱いってことはないんです。怒ることもほとんどないですし。でもレースになると人が変わるというか負けたくないっていうスイッチが入るんです」

今季は3カテゴリーにレギュラー出場する大津選手。それぞれの面白さもうかがってみました。

「F3は自分で全てが決められるところが面白いですね。マシンのセッティングもレース運びも自分自身の責任なので勝てばすごく嬉しいし順位が悪ければ落ち込むこともありますが。スーパー耐久はとにかく長い時間レースが出来るところがいいですね。ただ走るのではなく、駆け引きがあったり競り合いがあったりというのを長い時間レースとして走れるのはスーパー耐久だけなんで」

「SUPER GTは道上さんと作っていく、というよりは教えてもらっている部分も大きいですね。本当にいくつ引き出しがあるんだろうというくらい色々なことや想像もつかないことが次々と出てくるんです」。そのお話に出てきた道上龍さん、実は大津選手が所属するTHREEBOND RACINGのピットにも現れチームのアドバイザーとして様々な助言をしています。

近い将来、今よりももっと輝き、そしてレーシングドライバーとして大きく羽ばたいていくであろう大津弘樹選手。その輝きをただ待っているのではなく、再び全日本F3選手権に出場するなどして自らの手で掴もうとする姿こそが彼の大きな魅力となるでしょう。

大津選手はほぼ毎週末、日本のどこかのサーキットで様々なカテゴリーをライバルと、そして自分自身と戦うレースをしています。そんな彼の熱い走りをサーキットで直接ご覧ください。きっとあなたの胸の中にも熱いものがこみ上げてくるはずです。

(写真:松永和浩、高橋秀彰 文:松永和浩)

この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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