大型化したグリルだけが見どころではない。新型BMW7シリーズが目指したラグジュアリー・デザインの秘訣とは?

●市場のニーズと自社のポリシーをどう両立させるのか?

6月24日、BMWジャパンは、新型X7と同時に、4年ぶりに大幅リニューアルされた新型7シリーズを発表しました。好評だったスタイルの魅力を一層高めたという新型7シリーズのデザインについて、発表会場で担当者の声を聞きました。

まず、最近のBMWデザインの特徴といえば、左右を一体化したキドニー・グリル。すでに発表済みの3シリーズや8シリーズで見られるように、基本的にはアイコンの拡大で、フロントの存在感向上が狙いです。では、その表現が今回のテーマである「ラグジュアリー性の強化」にどう反映されたのでしょう。

「従来のキドニー・グリルの弱点は比較的平面的な表現だったことで、左右が離れたままだと、仮にサイズを拡大しても一定以上のインパクトを出すのが難しかった。一体化することで上端部分を立体的にすることが可能となり、横から見ても波状のないキレイなフロントを実現しています」(BMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マネージャー 御舘康成氏。以下同)

たしかに、ボンネットフードのラインに合わせて「角度」を持ったグリルは存在感を増しましたが、この40%もの大型化はやはり市場のニーズに沿ったもので、中国を筆頭に意外にも日本市場からの声もあったといいます。要はもっとプレゼンスを高めて欲しいという声ですが、この手の要望を反映するのはBMWとしてはかなり異例とか。

「もちろん、単に大きくするだけでは下品になってしまいます。そこはBMWらしさとして、美しいルーフラインやスポーティな佇まいとのバランスを図るべく、デザイナー陣はトライ&エラーを何度も繰り返したようですね」

たとえば、新型X7に準じる優雅なラインを得たボンネットフードは厚みを増すことで、また、グリルに直結させたフロントランプ、さらに縦型のエア・ブリーザーから始まるボディ下部のクロームパーツなど、キドニー・グリルだけが突出して目立つことを避ける工夫が各所に見られます。

一方、よりスリムに水平感を増したL型のリアランプと、これを結ぶ細長のLEDガーニッシュの組み合わせは、逆に極めてシャープな印象。加えて、相似を成すような左右のマフラーとの組み合わせが、ワイド感のあるリアスタイルを作り上げました。

「押し出しとエレガンスのバランスを取るのは難しいとろこですが、まずはプレゼンスを高めたフロントを感じていただき、追い越して行ったあとにスポーティなリアの印象を与えたい、ということでしょうか」

こうして新型はラグジュアリー性の大幅な向上を目指しましたが、それでも7シリーズらしさを保持したのは、たとえば独自のホフマイスター・キングなど同社としての伝統を踏まえた上で、必要以上に強いボディラインを抑えた結果といえそうです。

「ホフマイスター・キングはすでにBMWデザインの代名詞ですが、この新型7シリーズでも重要な役割を果たしています。フロントやリアを主とした造形変化に対し、セダンとして力強く明快なCピラーをキープすることで、全体の佇まいにエレガンスさを確保できました。最近、この部分を過度にシャープにする演出が増えていますが、個人的には疑問ですね」

市場のニーズと自社のポリシーをどう両立させるのか。すべてを変える方法もあるし、頑なに「らしさ」を堅持する考え方もあります。今回、新型7シリーズはその両立を高い次元で実現しようとした、挑戦的かつ実験的な試みなのかもしれません。

(まとめ・すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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