【BMW 850i試乗】スタイリッシュでジェントルそしてパワフル。これぞホンモノのプレミアムクーペ

●BWMの「8」は特別な数字。最上級クーペの850i

BMWの最上級クーペとなるのが850iです。初代850は1990年に登場したリトラクタブルヘッドライトを持つモデルでした。8という符合は特別な意味を持ち、ロードスターとなるZシリーズの最上級がZ8、電気自動車のiシリーズの最上級がi8とネーミングされました。

BMWのクーペはつねに力強さを強調するモデルで攻撃的でした。そこにエレガンスな要素が加わったのが現行となるF13型の6シリーズクーペだったのです。新型850iはF13クーペの流れを感じるエレガントさを持ったモデル。しかもBMWクーペのアイデンティティともいえる力強さも兼ね備えたデザインとなっています。

フロントシートは運転席・助手席ともに開けたスペースでゆったりとした雰囲気を持っています。リヤシートも備え乗車定員は4名となりますが、リヤシートは人を乗せるものではなく、ハンドバッグなどを置くスペースと考えるべきでしょう。

2シーターのクーペやロードスターはじつはデートには向きません。助手席のパートナーは常にバッグを手放せませんし、プレゼントも花束も置く場所がないのです。

装備も豪華そのもので、ATのセレクトレバーノブにはクリスタルが採用されました。走りを重視するBMWだけにこのノブの採用には大きな議論になったといいます。しかし、現代のクルマはマニュアル操作するのであればステアリングのパドルスイッチを多用しています。それならば、このノブはクリスタルでもいい……という結論に達したといいます。

850iに搭載されるエンジンは4.4リットルのV型8気筒。最高出力は530馬力・最大トルクは750Nmにもなります。その最大トルクは1500回転から発生するというフレキシビリティの高さです。

ドイツ車のV8は不思議なことにアメリカンV8に似ています。メルセデスもそうなのですが、低回転からドロドロっと回り、力強いトルクを発生させます。イタリアンV8はもちろん、レクサスLCのV8などのように高回転で甲高いエキゾーストノートを奏でるようなタイプではないのです。

走り出しはゆったりとしてエレガントですが、そこからアクセルペダルをグィっと踏み込むと後ろにのけぞるような強い加速となります。この2面性がBMWのクーペらしいところと言えるでしょう。エレガントな走りもパワフルで攻撃的な走りもどちらもお手のものなのです。

ハンドリングや乗り心地も秀逸です。850iには電子制御で減衰力を調整するダンパーに加えて、電子制御のスタビライザーも装備されます。この電子制御のスタビライザーによって、ロール量が調整されることもあって、ゆったりとした乗り心地から、ガッシリ路面をつかむスポーティな走りまで自由自在に得ることができるのです。

今回の試乗は箱根ターンパイクでワインディングを中心とした試乗でしたが、このクルマ海岸線を流したり、夜の首都高を走ったりとしてみたい欲求に駆られます。

どこまでもエレガントでスポーティ、そしてジェントルなモデルが850iなのです。大きな問題は、車両本体価格だけで1700万円オーバーのプレミアムクーペに似合う服を持っていないことです。

(文/写真・諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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