デトロイトショーで新型スープラがデビューした。新車解説についてはすでにアップされているので記事をどうぞ! もう少しワクを広げて考えてみたい。新型スープラ、ブランドでいえばトヨタなのだけれど、基本的なボディ&エンジンだけでなく生産もBMW側が行っている。慧眼の方なら「86と全く同じですね!」と思うことだろう。トヨタは何を担当したのか?
細かいデザインと、細かいサスペンション設定です。細かい、と書くと「BMWの新型Z4とずいぶんイメージ違いますよ」と指摘されるかもしれない。その通りで、見た感じは相当異なる。
ただ「ハードポイント」と呼ばれるボディの基本骨格が同じなので超ロングノーズというZ4特有のシルエットは共通だ。先代のスープラの雰囲気を残すも、けっこう違ってみえるのは基本骨格です。
ちなみにマツダとの協業も、一時は「ロードスターのフロア使ったスポーツカーになる?」とウワサされていた。ここまで読めば鋭い人は先が予想出来ると思う。そうです。なぜトヨタは自分でスポーツカーを作らないのだろうか? 当然ながらスポーツカーって自動車メーカーにとって象徴のような存在。普通なら自社で開発すべきものだ。けれど、同時に損益分岐点で厳しい。
トヨタも先代スープラの後継車の開発を凍結した時から、毎年のようにスポーツカーを開発しようという企画があったという。けれどその度に「儲かるのか?」と横ヤリが入って潰されてきたそうな。流れが変わったのは現在トヨタの社長になった章男さんが販売部門の副社長になった時である。「自社だけで開発出来ないなら共同開発でもいい」と提案したのだった。
2005年に富士重工(現在スバル)と資本提携を結び協業出来ないものかと検討中に出てきたのが水平対向の後輪駆動車。この意見を当時の岡本副社長は「面白い!」。前述の通り章男さんも「問題無し」と受諾。かくしてトヨタにとってスポーツカー氷河期は終了し、86の開発に着手し2012年に登場したのだった。スバルと岡本副社長、そして多田さん、章男さん居なければ86は無い。
新型スープラを見ると流れは全く同じ。スバルとBMWが入れ替わるだけです。未だにトヨタの中ではスポーツカーを単独で開発することに対する慎重論は強いらしい。章男さんが社長になっても同じ。あまり話題にあがらないけれど、章男社長、トヨタに対しけっこう辛口なのだった。いつも「トヨタは社長の言うことを聞いてくれない」と冗談交じりに言うほど。
つまり今でも『トヨタ』というブランドではスポーツカーを独自開発することが承認されない、ということである。トヨタ社内のカーガイ達に話を聞くと「やはりスポーツカーを作るなら100%自分達で作りたい。もちろんエンジンやサスペンション、そして生産もです!」と言う。ほぼ同時に開発されたマークXのGRMNなど乗ると誰もが「最高に楽しいですね!」と感じるハズ。
章男社長は「もっと良いクルマ作り」を目指しGRを独立させた。GRならトヨタから足を引っ張られること無く独自路線のクルマ作りが出来るためである。実際、現在開発中と言われる次期WRC参戦車両のベースになるモデルは、GRで開発しGRブランドで販売されるという。今後GRの規模が拡大してきたら、スポーツカーもトヨタの(正確に書けばGR)単独開発になっていくことだろう。
(文:国沢光宏/写真:宮門秀行)