ロングランレポートを開始した、新型ホンダ・NSX。無事に納車され、再考する意味も含めてロングランを決行した。目的地は鈴鹿。スーパーGTで大健闘しているGT3マシンを通じて、その乗り方を学ぼうとノーズを西へと向けた。
●今こそ見直すべきNSXの本質。
ホンダ・NSXの本当の価値は、世の中に正しく伝わっていないんじゃないか……。不遜ながらそんな思いに突き動かされて、“今”というタイミングで始めたNSXの長期レポート。
思えば私自身もデビュー前後にアメリカや日本のサーキット、そして一般道でテストドライブをして以来、これまでじっくりと乗る機会は持てていなかった。それゆえに、まずはそれなりの距離を走り込み、改めてNSXと向き合っていくための心構えをしたいと考えていたのだ。
カレンダーを見ると、車両が手元に来て最初の週末は、鈴鹿でスーパーGTの開催が予定されている。アメリカ生産とはいえ、ホンダ車のNSXにとって最初の目的地が鈴鹿というのは悪くない。そんな軽い理由で行き先は決まった。
午前中に都内を出て東名高速道路へ。さらに新東名から伊勢湾岸道に入り、鈴鹿を目指す。何しろ久々の逢瀬である。あらゆる感触を確かめるように、じっくりと進んでいく。
あらためて感心するのはNSXの「GTカー」としての優れた資質である。ボディの剛性感は登場当時の印象と変わらず凄まじく高く、引き締められたサスペンション、ランフラットの大径タイヤとの組み合わせでも、長距離をまったく苦にしない快適性を実現している。
出来の良いシートの貢献も大きい。一旦収まってしまえば途中で姿勢を変えたいという欲求に駆られることも、背中が痛くなったりすることもない。大柄なアメリカ人をメインターゲットにしているはずだとはにわかに信じられない、日本車のベスト・シートのひとつである。
直進性も悪くなく、舗装状態の良い新東名はもちろん、大型車の往来で路面の波打った所を通過しても余計な神経を使うことがない。懸念していた2基の電気モーターを使った前輪のトルクベクタリング機構のステアリングフィールへの悪影響は、意外にも心配無用というレベルだった。
旋回中の前輪のグリップ感の掴みにくさはNSXのウィークポイントのひとつだが、直進時には、むしろしっかりとした中立感のある手応えを実現していたのだ。
パワーとレスポンスも申し分ないと言える。大容量ターボチャージャーを使ったエンジンは、高回転域にまでリニアリティ抜群の吹け上がりを見せ、迫力ある加速を可能にする。低音が強調されたサウンドは日常域ではやや騒々しいが、回した時には豪快で悪くない。電気モーターのメリットを活かしたアクセルレスポンスの良さも印象的で、意のままになる感覚を得られるのも嬉しい。
一方で難点としては、収納やカップホルダーなどの室内の使い勝手の悪さ、狭い荷室などが挙げられる。
特に荷室は、機内持ち込みサイズのスーツケースを入れるのすら知恵の輪のように面倒だし、温度が上がるからノートPCなども入れておけない。シートの背後など室内にもスペースがほとんど無く、2人で旅行するにも工夫が必要となりそうだ。
もっとも、殊更にそれを指摘したくなるのは、前述の通り異例なほど「普通の走り」を実現しているからである。思えば初代NSXも、スポーツカーは硬派でなければならないという時代に優れた日常性で一石を投じ、結果としてライバル達のクルマづくりを一変させた存在だった。新型もそのDNAはしっかりと受け継いでいるのである。