どちらも順調にレースをするのかと思いきや、スバルWRX STIは序盤に予選でも発生していたステアリング系のトラブルが発生し1時間近くロスしてしまいます。その修理が完了した後も排気音量規制に引っかかりマフラーの交換など思いもよらない事で時間を奪われます。TOYOTA GAZOO RacingのLCもブレーキトラブルやミッショントラブルなどが発生し修理に時間を要してしまいました。
その後は両者とも順調に周回を重ねていきますが、深夜になって雨が降りはじめ、今度はTOYOTA GAZOO RacingのLCに雨によるエアフロセンサーが壊れるという思いもよらないトラブルが発生し、またもやピットインで時間を要してしまいました。一方のスバルWRX STIは雨の中AWDの強みを活かし安定したタイムでどんどん順位を上げていき、クラストップに返り咲きます。レース終盤になると雨とともに深い霧が立ち込めレースは赤旗中断となります。この時にスバルWRX STIは雨の中ピット前に置かれていましたが、この雨の影響で電気系にトラブルが生じてしまい、残り1時間というところでストップしてしまいます。
ピットで懸命な修復作業を終えて、グランプリコースをショートカットしてチェックを行い、残り15分でチェッカーフラッグが振られるのに合わせたコースインを行いました。そして見事スバルWRX STIはSP3Tクラスのクラス優勝を勝ち取りました。一方のTOYOTA GAZOO Racingは雨でのトラブルを解消した後は順調に周回を重ね、SP-Proクラスで優勝を果たしました。
今回のニュルブルクリンク24時間レース、TOYOTA GAZOO Racingとスバルもどちらも同じようなテーマを掲げて参戦しています。それは技術者を鍛える・車を鍛える・継続することで次の世代に繋げていく、ということ。
その中でも違いが見られたのは、TOYOTA GAZOO Racingはそのままトヨタ・レクサスの開発陣が参戦しており、周りにいる人もほとんどが関係者や開発に携わる関係会社の人たちばかりで、まさに走る実験室という様子が濃く見えました。一方のスバルも、もちろんスバルとSTIの開発者が中心になって参戦していますが、実験はしているのだけどそこまで実験に終始しているとは感じられませんでした。
これはトヨタは次世代に向けた実験をしているのと、スバルの次世代はもちろんですが量産車の性能の証明も行っている。という若干のスタンスの違いかもしれません。またファンによる応援ツアーが催されており、ピット周辺には常にファンがその様子を固唾を飲んで見守っていたというのもあるかもしれません。終盤雨と霧が激しくなり、ピット裏で様子を見ていたファンをオフィシャルの許可を取り、ピット内に入れて上げていたのも、どこかチームとファンの距離に近さも感じられました。
結果はTOYOTA GAZOO Racingが総合96位SP-Proクラスでクラス優勝、スバルWRX STIは総合62位SP3Tクラスでクラス優勝となりました。とはいえ、SP-ProクラスはTOYOTA GAZOO Racingの1台のみ参戦なので完走さえすれば優勝です。しかし開発を優先させているので、クラス優勝という言葉よりも完走の方が重要なように感じられました。一方のスバルが参戦するSP3Tクラスは合計4台が参戦、うち1台は予選時にクラッシュを喫してしまい決勝レースは不参加、SP3Tクラスは全3台で争われていました、ライバルというライバルが居ない中でのレースで下位に沈むことは許されません。そういった意味では負けることは許されないような状況が見えました。
ちなみにクラス分けは全部で24クラスに排気量や駆動方式などにより分けられており、その中には1台のみ参戦や2台しか居ないというクラスも多くあります。TOYOTA GAZOO Racingはクラス1台しか居ないのにクラス優勝かよ、とか、スバルWRX STIも3台中の1位じゃんという批判は当てはまらず、皆どのクラスだからという訳では無く自分たちと向かい合って必死に戦っている姿が印象的でした。
初参戦の自分は、コースサイドの撮影や24時間レースを取材するにあたり、自分の体力配分やレースの流れなどをうまく把握しきれず、あのタイミングでこういう撮影をしたかったのにできなかった。などの反省が多くあり、来年以降も継続して参戦していきたいと思いました。1度来るとその魅力にハマるという噂は本当だったようです。
レースが終わった翌日にもサーキットに行ってみました。濃い霧に隠れた建物を見ると、今日だったらレースはできなかったかもしれない。と思うと、ニュルブルクリンク24時間レースというのは気候やレース運、実力だけではなく全てを味方につけないと勝てないレースなのかもしれないな。と思い、帰国の途につきました。フランクフルトから羽田までは西からの追い風もあり、行きは14時間程度かかりますが、帰りは10時間ちょい。言うまでも無く疲れ切った体は睡眠を欲しがり、景色を楽しむことも無く帰国してきました。
(雪岡直樹)