今回のフランクフルト・モーターショーではダイムラーとBMWが電動化への強い意欲を強調していましたが、それと対照的だったのが、同じドイツのプレミアム・ブランドであるアウディ。
同社のブースでメインステージを飾ったのは、完全自動運転である「レベル5」をコンセプトに作られたショー用モデル「アウディAIcon」と、「レベル4」のコンセプトカー「Audi Elaine」。その隣で初の一般公開を迎えたのが、「レベル3」を初めて実用化したと報じられた新型「アウディA8」という3台でした。
今年7月にスペインのバルセロナで行われたイベントで初披露された「A8」は、同社が「高度な自動運転機能」と呼ぶ「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を搭載して今年発売される予定です。中央分離帯のある比較的混雑した高速道路を60km/h以下で走行している時という条件に限り、ドライバーがステアリングホイールから手を放して車載テレビを視聴するなど、運転以外の行為を行うことが機能的に可能になるとのことです。
アウディは、ドイツの研究機関と共同で運転者がクルマの中で過ごす時間についての研究を進めています。完全自動運転が実現すれば、通勤時など車の運転に使っている時間を別の目的に使う事ができるわけで、平均して一日あたりおよそ1時間の余裕が生まれる計算になるそうです。
これを、一日の「25時間目」と呼び、「未来のプレミアムモビリティ」のあり方の重要な要素の一つと位置付けています。
電動化については、2025年までに20以上の電気自動車(EV)もしくはプラグイン・ハイブリッド(PHV)モデルの投入をルパート・シュタドラー取締役会会長が記者会見で手短に語っていましたが、プレス発表の内容やブース展示では、他の2社よりもトーンが低い印象を強く受けました。
エコに関するコーナーには、PHVである「A3 e-tron」やそのシステムのカットモデル、ディーゼル・エンジン搭載車、天然ガスを使用する「A4」と「A5」の「g-tron」モデルなどの量産車が展示されていましたが、目立った演出や詳細な解説などはなく淡々とした印象です。現状のアウディは、長期的な電動化戦略を語るよりも、現実的な選択肢の提案に重きを置いている印象でした。
記者会見で語られたように、アウディは「みなさんが最大限に時間の有効活用ができるクルマを提供することで、『make your life easier』をめざす」事に優先順位を置いているようです。
大規模な研究開発で包括的にエミッション低減を図るダイムラー。クルマを操る楽しさとエコの両立を高い次元でバランスさせることを目指すBMW。一方で、「Vorsprung durch Tecknik(技術による先進)」でクルマの自動化を進めるという形で社会への貢献を目指すアウディ。
今後、ドイツの自動車業界がどういった方向に進み、それが日本の自動車メーカーやモータリゼーションにどんな影響を及ぼすのか。著しいテクノロジーの進化の今後に、目が離せません。
(Toru Ishikawa)