最近、イギリス・フランス両国政府が、将来、石油燃料を使う自動車の販売を禁止する政策を打ち上げて話題になっていますが、自動車の環境対策について、ボッシュが合成燃料に関する調査報告書を発表しました。
ボッシュの提案はCO2を原料とする合成燃料でCO2排出量を削減しようとするもので、EV以外のCO2削減策が無ければ、地球温暖化対策の目標達成はできないというボッシュの考えに基づいています。
では、ボッシュの提案する合成燃料はどのようにして製造するのでしょうか?
ボッシュによれば、合成燃料は再生可能エネルギーだけを利用して製造することができるということです。合成燃料製造の第一段階では、再生可能エネルギーから発電された電力で水から水素(H2)を取り出します。次に水素に炭素を反応させて、液体燃料を生成します。このとき、原料の炭素は、産業プロセスからのリサイクルのほか、フィルターを使って大気から抽出することによって得ることができます。
このようにCO2とH2を結合させることで合成燃料が生成され、現在のガソリン、ディーゼル燃料、ガス、ケロシンと同様に、既存の内燃機関で使用することができます。
ボッシュCEOのフォルクマル・デナー氏によれば、合成燃料を使うことで「内燃機関はカーボンニュートラルなパワートレインになりえます」と、その効果を強調しています。また、合成燃料は従来の燃料に加えて使用することも可能で、既存の車両群のCO2排出量削減に直接貢献することができます。
ボッシュの予測では、車両の電動化を補完する形で合成燃料を計画的に使用することで、欧州だけで2050年までにCO2排出量を28億トンほど削減すること可能だと計算されています。これは2016年のドイツのCO2排出量の3倍に相当します。
現時点では、合成燃料の製造には複雑で高価なプロセスが必要ですが、生産量が増え、製造コストの大部分を占める電力コストが下がれば、合成燃料の値段を大幅に下げることができるはずです。最新の調査報告書では、税金を除いた合成燃料のコストは長期的に見て1リットルあたり1.00~1.40ユーロの範囲に抑えることができると見られています。
しかも合成燃料はバイオ燃料と異なり、農産物を燃料に加工するか食用にするかのジレンマに悩むことがありません。同時に、再生可能エネルギーを使用する限り合成燃料はいくらでも限りなく生産でき、利用可能な農地面積が足かせとなるバイオ燃料と比較して、大きなメリットがあります。
今回のボッシュによる合成燃料の提案は、EVを環境対策の柱にしようとする各国政府の政策と矛盾するものではなく、EVの増加と合成燃料による既存内燃機関の環境対策の両方で、CO2をより効果的に削減しようとするものと考えられます。
(山内 博・画像:ボッシュ)