インターネットの普及や物流システムの充実とともに、ネット通販を利用すれば、朝に注文した商品が夜には自宅に届き、仕事に、レジャーに、一人でも、大勢でも、手軽に出掛けられる世の中を実現してくれたクルマです。
そんな便利で楽しい生活をサポートしてくれるクルマですが、いくつかの大きな課題もクローズアップされてきました。燃費の向上、CO2排出量の削減、代替エネルギーの利用などは以前から業界全体で取り組んできました。そして今、クルマに求められているのがさらなる安全性の向上ではないでしょうか。
日本でもペダルの踏み間違い、過労や不注意を原因とする痛ましい交通事故のニュースが後を絶ちません。休日の高速道路での渋滞、高齢化、モバイルデバイスの普及、物流業界の多忙化など、クルマの安全性向上は急務と言えます。
ドイツのある統計によれば、昨年に発生した死亡事故のおよそ1割がわき見運転などの不注意によるものだそうです。またアメリカの大学が2014年に行った調査では、運転時間の52%もの間、ドライバーの注意力が散漫な状態にあるという結果が出たそうです。人為的ミスを防ぎ、不幸な交通事故を減らすための技術開発が自動車メーカーやサプライヤーで進められています。
部品メーカー、ZFの試み
先日開催された「人とくるまのテクノロジー展」では、「See-Think-Act」(=見て、考えて、動かす)というテーマのもと、高度運転支援システム(ADAS)関連の技術展示を行ったゼット・エフ・フリードリヒスハーフェンAG(AGはドイツ語で株式会社の意。略してZF)。ドイツの自動車用システムサプライヤーであるZFは、安全技術についても「See-Think-Act」のアプローチで開発に取り組んでいるそうです。
2015年に統合した米系部品メーカーTRWオートモーティブ社は、カメラやレーダーといったセンサー類とブレーキやエアバッグ等の安全技術に強みを持っていました。一方、ZFはトランスミッションなどの駆動系やステアリング、シャシ関連のメカニカルな機構を多くの自動車メーカーに供給してきました。
ZFジャパンの中根義浩社長によれば、「2社の統合によって、センサー、制御系、アクチュエーターのすべてを最適化するノウハウを備え、安全や運転支援に関わる新しいソリューションを総合的に提供できるのが強み」との事です。衝突後の乗員保護をサポートするシートベルトやエアバッグなどの「パッシブセーフティ(衝突安全)」と、衝突の回避、もしくは衝撃を和らげる「アクティブセーフティ(予防安全)」を連携させ、クルマの安全性をさらに向上させようというのがZFの考え方だそうです。
安全性向上のための新技術
「人とくるまのテクノロジー展」では、その一例として開発中の「プリクラッシュ・エクスターナル・エアバッグ」が紹介されました。この製品は、専用のセンサーやデータ処理機能を搭載せず、ADASのための周辺環境センサーとデータ処理システムを活用して衝突の直前に展開するように設計されているそうです。
エアバッグが展開し、衝突への備えが完了するまでには100ミリセカンド(msec)の時間を要するため、システムは500msec以上前に衝突の可能性を認識し、方向と場所を正確に予測する必要があるとの事です。テストでは、このエアバッグによって側面衝突に伴う乗員の負傷レベルが20~30%軽減するデータが得られたそうです。
自動運転の実現に向けた周辺環境センシングとデータ処理の進化によって、様々な状況における衝突の予測も可能になり、このエクスターナル・エアバッグ以外にも多くの安全技術への応用が期待されます。例えば、ZFが実用化した後席用エアバッグや、衝突時にシートベルトで適切に乗員拘束をサポートする「アクティブ・コントロール・リトラクター」や「アクティブ・バックル・リフター」、前方障害物の緊急回避ステアリング操作なども、差し迫った衝突の前に信号を送る事が可能なアルゴリズムが完成すれば、より効果的な動作が可能になるでしょう。
自動車メーカーとの取り組み
「自動車メーカーはそれぞれ、自動運転の発展に関して独自の見解を持っています。一方で、すべてのメーカーが安全性の向上はどのようにすべきなのかという共通の課題に取り組んでいます。当社は、ZFとTRWの技術とリソースを組み合わせ、こうしたテーマの検討に様々な提案を続けていきます」、と中根社長はZFの安全への取り組み姿勢を説明しています。
安全、効率、自動運転という自動車業界のメガトレンドに「見て、考えて、動かす」技術で対応していくというZF。「人とくるまのテクノロジー展」では、センサー、AI、アクチュエーターの連携が自動運転といった華やかな分野だけでなく、安全性の向上という、クルマにとって必要不可欠な分野にも大きな可能性を持っていることが理解できました。