5気筒エンジンを縦置きしたFF(前輪駆動)といえば、アウディを思い浮かべるクルマ好きが多いかもしれません。じつはホンダも5気筒エンジンをフロントミッドシップに搭載したFF車をラインナップしていた時期がありました。
その第一世代が1989年9月に発表されたアコードインスパイアとビガーの兄弟車で、2.0リッター5気筒エンジンを積んでいました。
そして、上級グレードに2.5リッターを設定した進化形が、1993年10月に誕生したアスコットとラファーガの兄弟車となります。今回注目するのは、このとき一台限りで名前が途絶えてしまった「ラファーガ」です。
当時の資料によると名前の由来は次の通り。
ラファーガ〔RAFAGA〕とは、スペイン語で「強く吹く風」。
日本のセダンというジャンルに、あたらしい風を巻き起こす存在でありたいという意志から選択されたネーミングです。
インスパイア/ビガーに対してボディ全長を短くするという、ダウンサイジングを先取りするようなコンセプト、2.5リッターエンジンはレギュラーガソリン仕様で最高出力は180馬力(2.0リッターエンジンは160馬力)というプロフィールは、いまならば輸入車ユーザーを狙った商品企画と呼ばれたのではないでしょうか。
フルモデルチェンジ時に発表されたキーワードは『高密度ダイナミックセダン』というもの。凝ったメカニズムと巧みなパッケージを的確に示す言葉は、セダンの新潮流を示しました。
とはいえ、1990年代といえば、ホンダ自身が生み出したクリエイティブムーバー・シリーズのオデッセイ(1994年)、ステップワゴン(1996年)により、乗用車の主役がセダンからミニバンに大きくシフトした時期でもありました。
そうした流れに、ラファーガ(強く吹く風)が抗しきれなかったのは、仕方ないことだったのかもしれません。
(山本晋也)