撮影時にクルマの向きを変えるためバックしたり、前進したり、左右に動かしたりするのですが、バックする際に気がついたのは斜め後方の視界の悪さ。
このスタイリングからして厳しいのは想像できましたが、万事ソツのない仕上がりをしてくるトヨタにしてはかなり思い切った印象で、バックで駐車場から出る際や車線移動の際などは死角が大きく注意が必要になるでしょう。
C-HRを担当したMS製品企画 ZE 主任の刑部太郎氏にうかがうと、その点を認めた上で、デザイン最優先のため割り切ったと言います。もちろん、トヨタ社内での視界の安全基準、どれくらい視界を確保するかなどをクリアした上であり、「攻めのデザイン」の現れといえそう。
リヤゲートはウインドウ部分が大きく傾斜し、印象的なリヤビューを構築するのに大きく貢献し、ウインドウグラフィックも非常に小さく、それによりボディ全体に対するキャビンの割合が小さく感じます。
スポーツカーやSUVでは珍しい手法ではなく、最近では日産ジュークが大胆に具現化して一定の成果を得たことからも、これはあくまで私の想像ですがジュークを見た目のインパクトで超えることも狙いだったのではないでしょうか。
マーケティング的な裏付けももちろんあります。コンパクトSUVを購入しているのは、40代未満が28%、40歳以上が72%で、購入時に最も重視するのは「スタイル・外観」で39%。2位の燃費は14%、駆動方式は8%ですから、「カッコよさ」は売れるための最重要条件になるわけです。
そういえば、マツダCX-3を購入した人もCX-3のデザインを高く評価しているそうですから万人受けするよりも一定数の支持が得られる尖った部分が必要なのでしょう。
「SUVをスポーツハッチバック化」したかのようなトヨタC-HR。そこに「大人っぽさ」、「スピード感」、「たくましい足まわり」という要素を入れ込み大胆なスタイリングを手にしています。
最近のSUVでは、レクサスがNX、RXで先鋭化したボディラインと面構成を採用。トヨタC-HRはサイズや価格、つまり車格では下になるものの、エッジの効いたプレスラインなどからは驚くほどの精緻さも感じさせます。
前出の刑部氏によると、プレスライン(エッジ)のアールは5mmまで頑張ったそうです。なお、通常のトヨタ車は10mm、匠の技を謳うレクサスでも8mmが最高だそうですからまさに板金泣かせ。ぶつけないように気をつけましょう!!
ほんの一例を取り上げただけですが、ある程度見切った感のある後方視界とプレスラインから見えるC-HRのこだわり。かつてよく言われた「トヨタの80点主義」はすでに脱却したと言われますが、それをはるかに超える「徹底的なやる気」を感じさせます。
(文/塚田勝弘 写真/前田惠介)