初代カローラの特徴といえば、ちょっと目立たないのですがトランクの開き方にあります。1950年代や60年代の車は、バンパーレベルから開く車と、ふたのように上だけが開くものが混在していました。
初代カローラのトランクは、リヤバンパーの高さから開きます。しかし、2代目からは上側しか開かなくなり、その後バンパーレベルから開くのは、1983年の5代目以降を待たなければなりませんでした。
現代では当たり前のことなのですが、この採用にはちょっとした裏話があったのです。
歴代カローラの開発にあたっては、現在の認識としてはバンパーレベルから開くことは重要だと言われます。
それはスイスのトヨタディーラーが関係していました。かつての開発者たちは、スイスのトヨタディーラーに呼ばれて現地に訪れました。そこには、ビールケースやら、水など重いものが並べられていたといいます。
それで車に乗せてみろ、と言われ乗せてみたところ、その重さに辟易したとのことです。欧州ではスーパーマーケットで1週間分の食料を週末にまとめて買うために、大きな荷物を乗せられなければならないということでした。そうした作業が大変な車であってはならない、といいうのが欧州の常識だったのです。
そうしたことから5代目以降のカローラは、バンパーレベルからトランクが開くようになったのです。これはよく聞かれる話でしたが、ではなぜそれまで日本のメーカーはバンパーレベルから開くことを軽視していたのか、ということが問題です。
実はそこには、極めて日本的な問題がありました。日本は、重いものを買いに行かなくて良い消費システムがあったのです。
かつての日本では酒屋が御用聞きと呼ばれ、酒類や塩、砂糖と言ったものは直接注文を受け、届けてくれていたのです。米屋も同様でした。古い家にあった勝手口とは、御用聞きの訪問販売のための窓口だったのです。重いお米も、この勝手口に届いたのです。
ですから、多くの開発者は、海外で重いものをまとめ買いする習慣など意識することすらなかったようです。
このような、極めて日本らしい習慣というのはまだまだありそうですね。ちょっと関連のないようなことが、開発に大きく関わってくることは非常に興味深いことだと思いませんか。
(文:10/24発売・歴代カローラのすべて/松永大演)
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