最新エコエンジンを読み解くキーワード その1「ハイコンプ」

エコカー、省燃費車というとハイブリッドやEVといった電動カーのイメージが強くなっていた昨今ですが、マツダがデミオのマイナーチェンジで載せてきたSKYACTIV 1.3エンジンは、純粋なガソリンエンジンとして10・15モード燃費30km/Lを実現。

 

まだまだガソリンエンジン、内燃機関のブラッシュアップにも大きな伸びシロがあることを示してくれました。

 

その最新エコエンジンのキーワードのひとつが「ハイコンプ(高圧縮比)」です。

 

 

デミオに搭載されたエンジンの圧縮比は14.0。『圧縮比を大幅に高め、低中速トルクを改善させるとともに、燃費は現行ディーゼルエンジン並みまで改善させた』といいます。

 

では、なぜ圧縮比を高くすると燃費が改善するのか。

 

「ハイコンプ」とキーワードと言いましたが、重要なのは圧縮比ではありません。

シリンダーに吸い込まれた混合気の仕事は、膨張比によって示されます。

そして膨張比が大きいほど熱効率にすぐれたエンジンということになります。

 

 

一般的なエンジンにおいてはピストンがもっとも下にある(下死点)状態から一番上になる(上死点)ときの容積変化率(=圧縮比)と、その逆に上死点から下死点にピストンが動くときの容積比である膨張比は、ほぼイコールの関係にあります。

長年にわたって「ハイコンプは熱効率にすぐれる」という言い方がされてきましたが、あらためてエコエンジンを読み解くならば「高膨張比は熱効率にすぐれる」と言い換えるべきかもしれません。

 

ところで、膨張比を大きくとれば熱効率が上がるのであれば、とにかく膨張比(圧縮比)を高くすればいいように思えますが、そう簡単な話ではありません。

 

こちらはマツダが、ハイコンプにしたときの問題点を示すために作成したグラフ。

縦軸が発生トルクで、横軸がエンジン回転数。

圧縮比11.2(点線)と15.0(緑線)という2つのエンジンを比較したものです。

マツダSKYACTIV-G技術解説より

 

これを見るとわかるように、なぜか圧縮比15.0のエンジンは全域で11.2のエンジンに発生トルクで負けています。

圧縮比を高くすれば熱効率にすぐれる(マツダによれば圧縮比11.2から15.0にすると約7%の熱効率改善が期待できる)のであれば、発生トルクも太くなっていなければなりませんが、実際にはそうは問屋が卸さないというわけ。

 

その理由は”ノッキング”にあり。

 

圧縮比をあげるほど、当然ながら上死点で混合気の温度と圧力が高くなります。

ガソリン混合気の場合、高圧・高温状態ではスパークプラグによる点火の前に部分的に異常燃焼(プレイグニッション)を起こしてしまうことがあります。これがノッキング。

 

現在のエンジン制御ではノッキングの発生に対して、点火タイミングを遅らせる(リタード)させますが、これはエンジン出力的にはマイナス。上の比較グラフで15.0というハイコンプ仕様の発生トルクが細いのは全域でリタードなどのノッキング対策制御が入ってしまったためと考えられます。

 

 

ノッキングを起こしてしまうのでは、ハイコンプにした成果が出ないということ。

 

そこで根本的なノッキング解決策として考えられたひとつの方法が、圧縮比は小さく、膨張比は大きくすること。

こうすれば圧縮された混合気の温度・圧力は抑えられるので異常燃焼は起きづらくなるし、高膨張比による熱効率の改善も狙えます。

 

そうした制御を示したのが、次のグラフ。

平たくなっているラインに「SKYACTIV-G eff.CR w/ preignition control」とあるのは、プレイグニッションが起きそうなときにSKYACTIV-Gで、こんな圧縮比制御をしていますよという意味。

 

縦軸は圧縮比でしが、つまりノッキングが起きそうなときには圧縮比を最大で10.0程度に抑えることで異常燃焼を防ぎ、それでいて膨張比は14.0のままとすることで熱効率の改善を実現するというわけ。

マツダSKYACTIV-1.3技術解説より


これはマイナーチェンジ前後におけるデミオのエコエンジンの有効圧縮比の制御を示したものですが、圧縮比7.6の点線はマイナー前デミオにあった13C-Vミラーサイクルエンジンの圧縮比。以前は固定圧縮比だったところを、可変圧縮比としているのがSKYACTIV-Gの特徴でもあります。

 

こうして圧縮比を可変させることで”ノッキングと無縁のハイコンプ”を実現したことがSKYACTIV-Gというわけですが、マツダに限らず、本質的には高膨張比を意味するハイコンプは、いまどきのエコエンジンの重要なキーとなっています。

 

マツダでは、この圧縮比の可変制御を「ミラーサイクル」と呼んでいますが、ほかにアトキンソンサイクルという言葉が使われたり、また可変吸気量制御という言葉が使われたりと、その程度によって用語は変わってきますが、いずれも有効圧縮比を下げることでノッキングを回避するという狙いは共通。

 

しかし、圧縮比よりも膨張比の大きいエンジンには、それだけではない狙いやメリットもあり。

 

それについては「高膨張比エンジン」と別のキーワードを掲げて考察する必要がありそうです。

 

 【画像がすべて見られない方は】https://clicccar.com/2011/07/23/44935

(山本晋也)

 

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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