カーデザインの歴史的な流れのなかでも“人の感じかた”がデザインを左右していることはよく分かります。四角いカタチが流行った次には丸いカタチが流行ったりします。これは単に四角に飽きたから丸になるというのではなくて、四角いカタチのなかで徐々に変化して、きわめて長いスパンのなかで丸いカタチに近づいていくということなのです。先端を丸めたりすることが、互いのモデルでエスカレートして違う形に行きつくということも少なくありません。
たとえば、1992 年にデザイン部長となったクリス・バングルさんの指揮によるBMWのデザイン。特に2005年に登場した5代目3シリーズ(E90)はボディサイドに深いウェッジラインを持った象徴的な存在でした。
この造形は一躍流行を生み、ほとんどのメーカーがBMWシンドロームに陥ったといっていいでしょう。それほどに世界の多くのメーカーが、ウェッジした彫りの深いキャラクターラインを利用するようになったのです。
E90型3シリーズのキャラクターラインはこれまでに例をみないもので、造形する技術に非常に苦労したといわれます。BMWは3シリーズのために鉄板にキャラクターラインを入れてから、ボディ面をプレスしていくという手法を生み出したのだそうです。
これまでやれなかったことが実現されると、ひとつのトレンドとなる可能性が高くなります。他メーカーにとっては、そのデザインもさることながら生産技法も注目されたのです。
ウェッジするボディ形状自体は、大きな流行でもありました。そのなかにウェッジ状の深いキャラクターラインを表現することはBMWが先行することになりましたが、どのメーカーにとってもある程度必然性のあった造形だったといえます。そこでBMWが生産に一歩先んじたことは、大きなきっかけとなってなだれのようにウェッジラインのクルマが溢れるようになったのです。
そしてウェッジ状のキャラクターラインがひとつのトレンドとなっていったことで、既に出ているモデルよりも彫の深いことが新しさを表現することになったのです。これまで以上に深いものでなければ、人の目が慣れてしまっているために、同程度の折り方で新型として登場しても弱い印象にしかならないのです。今見てみると、最新のモデルに対して、3シリーズのウェッジラインはそれほど深いものではなかったことに気が付くはずです。
そこで最初の話です。四角いクルマが丸くなっていく話。最新のクルマのデザインと多くの人に感じてもらうには、いきなり異なるデザインをしてもあまりよい結果は得られないのかもしれません。ユーザーの評価は相対的なものであり、競合車と比較してどうかを判断します。そのときに現在注目されているトレンドをいかに特化させるか、そして不恰好に見せないかがポイントになってくるのでしょう。
“A車は前出する四角いクルマに対して前後をちょっと絞ることで、新しさを強調し人気を得ました。次ぐB車はそれ以上の人気を得るためには、もっと前後を絞ることが必要になります。”というような進化が繰り返され、ある時期に大きく変化するのです。
大きな流れは、こうしたトレンドに影響を受けながら進化していくのが一般的ではないでしょうか。長い目で見ていくと、それは動物の進化のようにも見えますね。
しかしその進化方法も徐々に変わりつつあります。各メーカーがそれぞれ独自の造形を見出す研究をしだすことによって、そのメーカーならではの造形がうまれてきつつあります。ウェッジのトレンドに乗らなかったアウディなどはその一例でしょう。また、レクサスやインフィニティなど、独自性を武器にこれから強化しなくてはならないブランドは、流行に流されていては独自性を主張できないという側面もあるのです。
(MATSUNAGA, Hironobu)
BMWのセダン系&SUV系 デザインが変化するのは自らが提案したカタチとそれに呼応する周囲のトレンドの影響も大きい。時代を追っていくと流れが見えるかも。
2001 7series ,E65
2003 5sries,E60
2003 6series,E63
2004 1series,E81
2004 X3,E83
2005 3series,E90
2006 X5,E70
2008 X6,E71
2008_8 7series,F01
2009_3 5series,F10
2009_9 X1,E84
2010_7 X3 F25
2010_9 6series,F12
2011_6 1series ,F20
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