“LEXUS LF-Gh”走るだけでメーカーの宣伝になるフロントデザイン【CAR STYLING VIEWS】


LF-Ghコンセプト

●レクサスらしい顔づくりの苦難がLF-Ghの造形に現れています

レクサスの新しいコンセプトカーの顔を見ると、けっこう堂々としています。でもここにはかなりの苦労が感じられますね。

プレミアムカーにとっては、遠くから見てもそのクルマだとハッキリわかる何かが必要です。先行するクルマのバックミラー越しでも、たとえば「あ、ベンツだ」と感じさせたいのです。ひとつには自分がどんなクルマに乗っているのかを即座に主張したい=個性のあるクルマに乗っていることを実感したいという面もありますが、もうひとつにはメーカーの戦略もあります。

たとえ先行するドライバーのクルマがアウディであっても、「ベンツか、かっこいいなぁ」と思ってもらえれば、次にはベンツのお客さんになることもあるわけです。街を走っているクルマのデザインは、街行く人たちによいイメージを抱いてもらう広告の役割もはたしているのです。

メーカーの個性を明確にするために、遥かむかしのいわゆるクラシックカー時代から行われているのは、独自のラジエターグリル・デザインを用いる方法です。現在でも歴史のあるクルマのラジエター・グリルのイメージは変わりません。

特にプレミアム系のブランド、ロールス‐ロイス、メルセデス・ベンツ、キャディラック、BMW、ボルボ、サーブなどは独特のグリル・イメージをずっと継承しています。アウディはもともとグリル・デザインを意識せず“フォーリングス”のエンブレムを大きく配置するにとどまっていましたが、大きなモデルを積極的に投入するにあたってナンバーまでも囲い込む大きなシングルフレームグリルを採用するようになったようです。

シングルフレームグリルは2004年発表のアウディA6(日本導入は2005年)に初採用されました。このアイデアをはじめて提案したのは、このA6 のデザイナーで知られる和田智さんだったということです。

 

●空力などの要件でノーズは低く

グリルはどうなる?

 

グリルが個性を主張するというのは非常にわかりやすい方法なのですが、ところが最近では少しずつ変化が見られはじめています。

ベンツのノーズが後傾し、だんだん低くなっていると思いませんか? ベンツの特徴は個性的なグリルとともに、ボンネット上にあるスリーポインテッドスターのオーナメントです。オーナーにとってはクルマに乗り込んだときに、このオーナメント越しに外界を見渡すというのが、ひとつの誇りとなります。それが10年くらい前からでしょうか、そのオーナメントがボンネットに遮られて運転席からだんだん見えなくなっています。ノーズが下がってきたのです。また、加えて熱管理技術に進化と空力的見地から、ラジエター・グリルのサイズは小さくなってきました。エンジンルーム内の空気流をできるだけ制限するようになってきたのです。最新型のメルセデス・ベンツEクラスに至っては、自動制御のラジエター・ブラインドを採用して、必要ないときにはエンジンルーム内への空気流を制限しています。


メルセデス・ベンツの珍しい歴代プルマン(ストレッチド・リムジン)です。グリル・イメージは一緒ですが小さくなってきているのがわかります。

このようになってきますと、これまでのように堂々としたグリルを誇示することができなくなる傾向に進みそうです。また、形だけを誇示しても機能と反するものになることもあり、クルマの個性は異なる方法で表現されるようになってきそうです。


先代モデルのSクラス。このクルマでもスリーポインテッドスターのオーナメントは、運転席からは見えにくくなっています。

そこで試験的に行われているのでしょうか、Cクラスではエレガンス系とアバンギャルド系で異なるグリルを採用しています。アバンギャルド系は以前のスポーツタイプに採用されていた、グリル内にエンブレムを埋め込んでしまう方法です。もはやオーナメントはありません。しかしこの造形は、Sクラス、Eクラス以外のすべてのベンツで採用されるようになってしまっているのも事実です。


現行Cクラス。左がアバンギャルド系、右がエレガンス系。エレガンス系の伝統的なグリルはいまでは少数派になりつつあります。

このように、いかに低いノーズのなかで個性的な顔を表現できるかがひとつのテーマになってきているようなのです。

ところで、やっとレクサスに話が戻ります。最新のコンセプトカーLF-Ghは堂々とした大きなグリルを持っています。それを、現行のGSとグリルの高さを比較してみてください。グリルの位置がLF-Ghのほうがかなり低いように見えませんか? レクサスもやはり、ベンツと同じような空力的狙いを持っていたのではないでしょうか? しかもレクサスにとっては、共通した造形を採用することでのフロント・イメージには固執していませんでしたから、特定のグリルを持つということはベンツよりも重大な問題となっていたのかもしれません。


LF-Gh(左)と現行型GS(右)のノーズ比較。グリル高さは、LF-Ghのほうが低く、より傾斜しているように見えます。

きっとグリルレスの検討もされたでしょう。いずれにしても、低いノーズにこれまでのグリル・イメージでは、どうしても上質なブランドとしてのレクサスらしい顔の表現は難しい。そこでグリルを下に広げて、大きさを表現できる方向に進んだのではないでしょうか? ただしこの造形では、グリルがバンパー機能も持ってなくてはなりません。アウディの場合は大前提としてグリル内のバンパーの高さにナンバープレートを設置する黒いガーニッシュがあり、そこがバンパーとして機能していました。


アウディA4(上)、フロントナンバーのいらない地域では、下のガーニッシュが露出します。アウディA7スポーツバック(下)。最近のモデルではナンバーを外しても、ガーニッシュが露出しないようにグリルの造形が生かされています。

しかしこの場合の問題は、北米仕様です。フロントナンバープレートの装着義務のない州の多い北米では、ここがただのガーニッシュになってしまうのです。そう見えないようにいくつかの工夫がなされていますが、やはりバンパーありきのデザインである印象はぬぐえません。

そしてレクサスはどう対処したのか? グリルをアップにした写真を見ていただくとわかるかと思いますが、グリル上部と下部で桟と空間部分が逆転した造形となっているのです。それによって、グラフィックとしては同一イメージに見えますが、グリル上部はバンパーの剛体部分を隠しやすい造形にしたようです。これでナンバープレートを外しても、グリル・イメージに違和感が少ないものとなっています。レクサスのLマークがこれまでよりも低く設置されたのも、ナンバーのない北米モデルでもバランスよく見えるように配慮されたものでしょう。個別のモデルに対するイメージを世界中で均一にしたいという意向は絶対にあることなので、普遍的なデザインとするためにLバッヂはグリルの中心的位置に移動されたのでしょう。むしろ写真のナンバーの位置こそが、急場合わせに見えます。


レクサスのグリルのアップ。巧みな造形で、グリル上部は内側が見えにくい構造になっていますから、バンパー構造も入れやすくいなっているようです。そしてLバッジが、これまでのモデルよりもちょっと低く設置されているのがわかりますか?

とはいえ、まだ粗削りなイメージではあります。レクサスのコンセプトカーは、LFAが変遷を重ねたように、“劇場型”で進化の模様を見せてくれているように思います。このコンセプトカーも量産に移るまでは、かなりのデザイン的進化があるかもしれません。どう進化するのか、じっくり見ていたいですね。


CT200hにはすでに大きなグリルの片鱗が巧妙にデザインされていました。

(MATSUNAGA, Hironobu )