ヘッドライトは“機能”それとも“装飾”? 前編【CAR STYLING VIEWS 02】

プリウスVのヘッドライト。かなり大きなサイズに見えます。

大型化しているといわれるヘッドライトですが、それは本当にヘッドライトの大型化を意味するものでしょうか? 実はヘッドライトはプロジェクター式になって、奥行きこそ増えていますが、正面視では小型化しているのです。

これまでヘッドライトは、光源である電球に対して周辺にある反射板(リフレクター)の造形や、ライトカバーのカットによって配光特性を制御していました。

最初は光源に対して背後にリフレクターを設置するだけのものだったのが、前面のガラスの部分にレンズカットと呼ばれる、無数のレンズ構造を付けることによって光の進む方向をコントロールしていたのです。それにより対向車線のクルマに眩しくないようにしながら、歩道と接する側は低く広く照射できるようにして歩行者をよく見えるようにしていたのです。

1912年、T型フォード。当時はアセチレンガスや石油を燃やして、光源を得で、反射させるだけの構造でした。途中から電気式になりました。

1967年、ポンテアックGTO。透明なガラス面にレンズカットを持つヘッドライトを採用。ながらくこの時代が続きました。また北米では、1984年まで、統一規格のヘッドライトしか採用できませんでした。

1983シボレー・カマロ。統一規格の角形4灯式を採用。当時はタマが切れた場合はレンズごと交換する必要があったので、種類を絞り込むことで、どんな地方のガソリンスタンドでも簡単に交換できることが狙い。1984年よりバルブ交換式とすることで異型ヘッドライトが認可されました。

技術として固まったかに思えたヘッドライトですが、大きな変化が起きたのは1989年の日本車からです。4代目となるホンダ・アコードが、スタンレーのマルチリフレクター式を採用しました。この新技術は、レンズカットの機能をリフレクター部分の造形で行えるようにしたもの。レンズカット部分の透過で発生する光量の減衰を抑えるなど明るいヘッドランプに貢献しました。そればかりでなく、レンズ効果をもたらす厚みが必須でしたが、それを排することで軽量化にも貢献し、レンズカバーのデザインの自由度も高めたのです。

1989年の4代目アコード世界で初めてマルチリフレクター式が採用されました。全面のライトカバーが透き通って見えるのが特徴です。

 

これでヘッドライトの機能は、光源→リフレクターによる照射範囲拡大→レンズカットによる配光。というものから、光源→マルチリフレクターによる配光というシンプルなものに移ってきたのです。ただし実際には、少しのレンズカットによる補正を加えているものも少なくありませんでした。

ところがリフレクター式ヘッドライトの進化と並行して、さらに大きな、そして決定的な技術の変化が起こっていました。実はマルチリフレクター登場の少し前の1986年にBMW7シリーズに採用され、同年スカイラインGTS-Rにも採用されたのがプロジェクター式です。現在の主流ともいえるプロジェクター式は、外見では小さなレンズのみで構成されています。(その奥には光源とリフレクターを内蔵。)基本的にはこのレンズと内部のリフレクターによって、正確な配光特性が実現されています。

プロジエクター式ヘッドライトを初採用したのは1986年。BMW2代目7シリーズ(上)と7代目スカイラインGTS-R(下)。ともに外側のロービームに採用しています。

この小さなプロジェクターは異なる構造であることから、従来のヘッドライトにとって代わるということはなかなかすぐにはできませんでした。それが後から追ってきた、マルチリフレクターが広まった原因ともなりました。しかし、徐々に、そして確実にプロジェクターヘッドランプが広まっていったのは、ご存じのとおりです。

メルセデス・ベンツ、ミディアムクラスのヘッドライトの変遷。左から3、4台目は北米仕様の統一規格を採用したモデル。右端はプロジェクター式ヘッドライト採用の先代Eクラスですが、ヘッドライトの造形には関係なく、真ん中だけが点灯しています。

これがヘッドライトのデザインに、新しい風をもたらして早25年なのですが、果たしてどうでしょう? デザインは変わりましたか? じつはそうではないかもしれません。これまではヘッドライトの機能として大きなリフレクターがあり、それが個々のクルマの個性を表現していたのです。それは、機能としての必然でした。しかし現在のヘッドライトはどうでしょうか? ……後編に続く。

最新のBMW7シリーズ。小さな主光源に対して、スモールライトやウィンカーなどを詰め込むことで、ヘッドライトの造形を成立させています。

三菱パジェロ。大きな円弧が見えますが、これはヘッドライトではありません。下の小さな丸がヘッドライト。機能で必要な面積と、印象上のヘッドライトの大きさには大きな開きがあります。

(MATSUNAGA, Hironobu)