目次
■世界選手権のチャレンジでドライバーズファーストな大刷新!
2021年も終盤に差し掛かった12月6日(月)、東京お台場のメガウェッブでTOYOTA GAZOO Racingの2022年レース参戦体制発表が行われました。
トヨタ自動車株式会社の豊田章男社長の基調講演から始まった参戦発表。まず、豊田章男社長は「ドライバーファースト」と「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」という2つの言葉を強調します。
その豊田社長にとっては、祖父にあたる豊田喜一郎氏(故人、トヨタ自動車創業者)が残した「日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のためオートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみてその優劣を争うところに改良進歩が行われ、モーターファンの興味を沸かすのである、単なる興味本位のレースではなく、日本の乗用車製造事業の発展に必要欠くべからざるものである」という逸話を、これがトヨタのモータースポーツ活動の原点、として紹介します。
また、豊田社長の社長就任からこれまでの14年間の、モータースポーツとの関わりを通じて得た経験などを通じて、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を「ドライバーファースト」で行っていく体制として、2022年の体制発表を行う、ということになります。
●WRCはハイブリッドなGR YARIS Rally1で連覇を目指す
まず発表されたのは、WRC世界ラリー選手権の体制です。2021年はマニュファクチャラーズチャンピオン、ドライバーズチャンピオン(セバスチャン・オジエ選手)、コ・ドライバーズチャンピオン(ジュリアン・イングラシア選手)という3冠を獲得したTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team。
2022年はGR YARIS Rally1というハイブリッドの新型車両を投入する、全く新しいレギュレーションで連覇を目指すための体制となります。
No. | ドライバー/コ・ドライバー | |
---|---|---|
33 | ドライバー | エルフィン・エバンス(Elfyn Evans イギリス) |
コ・ドライバー | スコット・マーティン(Scott Martin イギリス) | |
69 | ドライバー | カッレ・ロバンペラ(Kalle Rovanperä フィンランド) |
コ・ドライバー | ヨンネ・ハルットゥネン(Jonne Halttunen フィンランド) | |
1 | ドライバー | セバスチャン・オジエ(Sébastien Ogier フランス) |
コ・ドライバー | ベンジャミン・ヴェイラ(Benjamin Veillas フランス) | |
4 | ドライバー | エサペッカ・ラッピ(Esapekka Lappi フィンランド) |
コ・ドライバー | ヤンネ・フェルム(Janne Ferm フィンランド) |
またTGR WRCチャレンジプログラムとして、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team Next Generationから勝田貴元選手がGR YARIS Rally1で全戦に出場します。
No. | ドライバー/コ・ドライバー | |
---|---|---|
18 | ドライバー | 勝田 貴元(Takamoto Katsuta 日本) |
コ・ドライバー | アーロン・ジョンストン(Aaron Johnston アイルランド) |
●WECはチーム代表に小林可夢偉が就任、中嶋一貴はレーサー引退を表明
体制に大きな変化があったのはWEC世界耐久選手権です。ル・マン24時間をはじめ、12時間や6時間といった耐久レースを世界中で繰り広げるカテゴリーですが、そのチーム代表に小林可夢偉選手が就任します。
ドライバーとチーム代表を兼務する小林可夢偉選手は、今年2021年のル・マン24時間レースで優勝した、カーナンバー7番のマシンに2022年も乗るようです。
参戦マシンは、発表によると今年と同じハイパーカークラスのGR010 HYBRIDとなるようです。
また11月3日にWECのドライバーを引退することを表明した中嶋一貴氏は、この体制発表でレーシングドライバーそのものを引退すると明言。
そして、TOYOTA GAZOO Racing ヨーロッパの副会長として世界選手権やヨーロッパで参戦するTOYOTA GAZOO Racingのチームをマネージメントしていくという発表を行いました。
チーム名 | 車両 | No. | ドライバー |
---|---|---|---|
TOYOTA GAZOO Racing | GR010 HYBRID | 7 | マイク・コンウェイ(Mike Conway イギリス) |
小林 可夢偉(Kamui Kobayashi 日本) | |||
ホセ・マリア・ロペス(José María López アルゼンチン) | |||
8 | セバスチャン・ブエミ(Sébastien Buemi スイス) | ||
ブレンドン・ハートレー(Brendon Hartley ニュージーランド) | |||
平川 亮(Ryo Hirakawa 日本) |
ここで注目は、中嶋選手の後継に平川亮選手が起用されているところです。小林可夢偉選手の話では、「2023シーズンでは数多くのチームがWECに戻ってくる、もしくは新たに参戦してくる。そこに合わせて若手を起用するというのであれば、2022年から乗せた方がいい」として、「チームメイトとして一緒に戦ったこともある平川選手は適任」と太鼓判を押しています。
TGR-E副会長、チーム代表、そして若手ドライバーの起用など、今回の人事は驚きの人事といえますが、ドライバー経験者がマネージメントとチーム作りに関わることで、ドライバーファーストを目指すということのようです。
●国内カテゴリーは大シャッフル!GT500チャンピオンコンビが別々のチームへ!
続いて行われた国内カテゴリー参戦体制の発表。全日本ラリー選手権については、GRヤリス導入初年度で全日本チャンピオンを獲得したことから、2連覇を目指す体制づくりとされました。
ドライバー/コ・ドライバー | 勝田 範彦/木村 裕介 | |
---|---|---|
眞貝 知志/安藤 裕一 |
サーキットレースでは、スーパーGTでGT500クラスでチャンピオンを獲得。またスーパーフォーミュラでもチームチャンピオンを獲得するなど、2021年はTOYOTA GAZOO Racingは大活躍。
しかし、スーパーGTのドライバーラインナップは少し意外ともいえる内容です。ヘイキ・コバライネン選手が2021年限りでスーパーGTを勇退しましたが、そのポジションになんと! 今年のGT500チャンピオンの一人である関口雄飛選手が入ったのです。
チャンピオンゼッケンの1番となるau TOM’S GR Supraではなく、39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supraに乗ることとなった関口選手は「TGR全体のチーム力の底上げのために移籍を了承した」と語ります。
そのことについて豊田社長は、「関口選手は優勝請負人」という言葉を使い、スーパーフォーミュラのチームチャンピオンでの貢献と、スーパーGTでのランキング5位、トップから16点差からの大逆転チャンピオンという成果を大きく評価しての移籍と説明しています。
また、GT300から阪口晴南選手とジュリアーノ・アレジ選手がGT500へステップアップしています。
ドライバーラインナップは、TGR TEAM ZENT CERUMOとTGR TEAM ENEOS ROOKIE以外のチームは、ドライバーが入れ替わっているという大シャッフルが行われています。
GT500クラスに参戦するチームは6チームで2021年とは変わりませんが、この大シャッフルでチームの勢力図は大幅に刷新されるかもしれません。
GT500のドライバーラインナップは以下の通りです。なお平川選手はWEC参戦のためにSUPER GTには参戦しないとのことです。
クラス | チーム名 | 車両名 | No. | ドライバー | タイヤ |
---|---|---|---|---|---|
GT500 | TGR チーム エネオス ルーキー(TGR TEAM ENEOS ROOKIE) | ENEOS X PRIME GR Supra | 14 | 大嶋 和也(Kazuya Oshima 日本) | BS |
山下 健太(Kenta Yamashita 日本) | |||||
TGRチーム ウェッズスポーツ バンドウ(TGR TEAM WedsSport BANDOH) | WedsSport ADVAN GR Supra | 19 | 国本 雄資(Yuji Kunimoto 日本) | YH | |
阪口 晴南(Sena Sakaguchi 日本) | |||||
TGR チーム エーユー トムス(TGR TEAM au TOM’S) | au TOM’S GR Supra | 36 | 坪井 翔(Sho Tsuboi 日本) | BS | |
ジュリアーノ・アレジ(Giuliano Alesi フランス) | |||||
TGR チーム キーパー トムス(TGR TEAM KeePer TOM’S) | KeePer TOM’S GR Supra | 37 | サッシャ・フェネストラズ(Sacha Fenestraz フランス) | BS | |
宮田 莉朋(Ritomo Miyata 日本) | |||||
TGR チーム ゼント セルモ(TGR TEAM ZENT CERUMO) | ZENT CERUMO GR Supra | 38 | 立川 祐路(Yuji Tachikawa 日本) | BS | |
石浦 宏明(Hiroaki Ishiura 日本) | |||||
TGR チーム サード(TGR TEAM SARD) | DENSO KOBELCO SARD GR Supra | 39 | 関口 雄飛(Yuhi Sekiguchi 日本) | BS | |
中山 雄一(Yuichi Nakayama 日本) |
スーパーフォーミュラでは新たにジュリアーノ・アレジ選手が参戦し、中嶋一貴選手の背負っていた36号車の番号を受け継ぐこととなります。
チーム名 | No. | ドライバー |
---|---|---|
コンドー レーシング(KONDO RACING) | 3 | 山下 健太(Kenta Yamashita 日本) |
4 | サッシャ・フェネストラズ(Sacha Fenestraz フランス) | |
ケーシーエムジー(KCMG) | 7 | 小林 可夢偉(Kamui Kobayashi 日本) |
18 | 国本 雄資(Yuji Kunimoto 日本) | |
ドコモ ビジネス ルーキー(docomo business ROOKIE) | 14 | 大嶋 和也(Kazuya Oshima 日本) |
カーエネクス チーム インパル(carenex TEAM IMPUL) | 19 | 関口 雄飛(Yuhi Sekiguchi 日本) |
20 | 平川 亮(Ryo Hirakawa 日本) | |
クオ バンテリン チーム トムス(Kuo VANTELIN TEAM TOM’S) | 36 | ジュリアーノ・アレジ(Giuliano Alesi フランス) |
37 | 宮田 莉朋(Ritomo Miyata 日本) | |
ピーエムユー セルモインギング(P.MU/CERUMO・INGING) | 38 | 坪井 翔(Sho Tsuboi 日本) |
39 | 阪口 晴南(Sena Sakaguchi 日本) |
●スーパー耐久はカーボンニュートラルの合成燃料GR86が参戦
スーパー耐久では、開発車両クラス、ST-QでROOKIE Racingとして水素エンジンカローラを走らせたことで注目を浴びていましたが、2022年ではそのほかにカーボンニュートラルの合成燃料を使用したGR86も登場します。
カーボンニュートラルの合成燃料を使ったマシンはROOKIE Racingの他に、SUBARUも新型BRZで参戦を発表していますので、互角のライバルの戦いを見ることが出来そうです。
またST-4クラスにもGR86が参戦します。こちらのチームはTOM’S SPIRITとなり、ゼッケンは86となります。ドライバーは松井孝允と山下健太選手に加えて、今年2021年のスーパーGT最終戦富士のGT300クラスで優勝をしたドライバーでもある河野駿佑選手が加入します。
チーム名 | クラス | 車両名 | No. | ドライバー |
---|---|---|---|---|
オーアールシー ルーキーレーシング(ORC ROOKIE Racing) | ST-Q | ORC ROOKIE Corolla H2 Concept | 28 | 蒲生 尚弥(Naoya Gamo) 豊田 大輔(Daisuke Toyoda) 大嶋 和也(Kazuya Oshima) 鵜飼龍太*1(Ryuta Ukai) *2 |
ORC ROOKIE GR86 CNF Concept | 32 | 佐々木 雅弘(Masahiro Sasaki) 石浦 宏明(Hiroaki Ishiura) モリゾウ(Morizo) 小倉 康宏(Yasuhiro Ogura) |
||
トムススピリット(TOM’S SPIRIT) | ST-4 | TOM’S SPIRIT GR86 | 86 | 松井 孝允(Takamitsu Matsui) 山下 健太(Kenta Yamashita) 河野 駿佑(Shunsuke Kohno) |
これまで、年明けのオートサロンなどで発表されていた参戦体制ですが、年を越す前に発表された背景にも「ドライバーズファースト」があると豊田社長は語ります。これまでのスケジュールでは12月中は様々なうわさや憶測が飛び交い、ドライバーなどにも負担になっていたといい、決まったからには早く発表することで負担を軽減することも「ドライバーファースト」なのだ、とのことです。
これらの参戦体制で2022年を戦うTOYOTA GAZOO Racing。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を期待して2022シーズンを楽しみに待ちましょう。
(写真・文:松永 和浩)