不正車検の要因は国内自動車ディーラーの人手不足と高い目標設定か?トヨタモビリティ東京レクサス高輪で556台を再車検へ

■トヨタ自動車の子会社が経営するレクサス高輪で何が起きた?

謝罪会見に臨むトヨタモビリティ東京・関島誠一社長、板垣俊美常務執行役員、トヨタ自動車国内販売事業本部・佐藤康彦本部長
謝罪会見に臨むトヨタモビリティ東京・関島誠一社長、板垣俊美常務執行役員、トヨタ自動車国内販売事業本部・佐藤康彦本部長

トヨタモビリティ東京(港区芝浦)は2021年7月20日午前中、国土交通省自動車局に対して、同社販売店「レクサス高輪」(港区高輪)での継続車検不正について報告しました。

トヨタモビリティ東京は、トヨタ自動車の100%子会社。一連の経緯を説明するため、午後に開かれた記者会見には、社長の関島誠一氏ら同社経営陣に加えて、トヨタ自動車国内販売事業本部の佐藤康彦本部長も同席しました。

●556台を無償で再車検へ

車検不正は、今年6月17日の国土交通省東京運輸支局の監査で指摘されました。同社が継続車検の有効な期間が残る過去2年間にさかのぼって調査したところ、疑わしいものも含めて2年間で検査を行った車両総数の3分の1にあたる556台で、不適切な検査が実施されていることがわかりました。検査員への聞き取りと記録から、道路運送車両法の違反行為があると同社が認めているのは、次の項目です。

・基準を満たす値に、検査値を書き換えた行為

ヘッドライトの明るさ
フロントタイヤの角度
パーキングブレーキの効き

・必要な検査をしなかった行為

排気ガスの成分
スピードメーターの精度(誤差)

関島社長は会見で次のように謝罪しました。

トヨタモビリティ東京・関島社長
トヨタモビリティ東京・関島社長

「指定整備で一部の検査が行われていなかった。信頼を損なう結果となり、たいへんなご迷惑、ご心配をおかけしたことを心よりお詫びします」

不正検査が行われた車両は、有効な車検期間の範囲であると認められない可能性があります。「対象となるお客様には個別に連絡して、速やかに無償で再検査を行わせていただきたい」(関島社長)

●売れるクルマ、足りない人手

トヨタ自動車と共に調査をした関島社長は、不正検査が行われた最も大きな要因について、顧客車両にエンジニアをはじめとする人員と設備が追い付かなかったことを挙げます。

「増加する仕事量に対して、エンジニアを中心とする人員や設備の増強が追い付かず、慢性的に負荷が高かった」

トヨタモビリティ東京 車検不正
トヨタモビリティ東京「レクサス高輪店」

経営者として現場へのしわ寄せに気付くことができなかったことを関島社長は反省しますが、即座に解消できるほど簡単ではないようです。

「メカニックの採用は厳しい。思うように採用できていない中で、レクサスについては仕事が拡大してきている。サービス工場全体の仕事を整理してサポート要員的な、工場内の取り回し、車両の回送についてはエンジニアの資格がなくてもできるので、そこから増強して、エンジニアの負荷を下げることに取り組んでいる」

整備工場の設備増強についても、こう話します。

「今すぐストール(検査設備)を増やすことはできないので、工場全体を使いやすくする駐車場の確保、バックヤードの確保をまず優先して、取り回しのしやすい工場にしていくことを短期的に取り組む。その上で、本格的な設備をどう考えていくか。整理したい」

◎高い目標に応えるために
不正が起きた背景で、もう1つの大きな要因が、現場に設定された“目標”でした。

「決められた時間内に車検を終わらせることが目的となっていた。必要な作業時間がそれぞれの車両で異なるにも関わらず、予定された時間で仕上げることを最優先した」(前同)

レクサス高輪店の目標について、トヨタ自動車国内販売事業本部の佐藤康彦本部長は、こう振り返ります。

「高輪は短時間ではないが、通常2時間という時間をもらって行っていた。その時間の中で仕事を上げなければならないという時間達成が目的になっていた」

トヨタ車の販売店をめぐっては、ネッツトヨタ愛知(名古屋市)の愛知県豊橋市の店舗で2年間約5200台の不正車検が行われていました。車検45分という目標で、検査能力を上回る入庫が常態化していた、とされています。3月30日に行政処分を受けたことをきっかけに、トヨタモビリティ東京も自主調査を実施しましたが、この調査では今回の不正車検は見抜けませんでした。サービス担当の板垣俊美常務執行役員は「自主調査は愛知の件を受けて、4月以降の店舗内の完成検査ライン、主に検査がしっかりやれる状態かどうかを確認した」と説明。調査が不十分であったことを関島社長も認めています。

●運輸支局への通報と関島社長

関島社長は、運輸支局の監査がレクサス高輪に入ったことについて、次のように語りました。

「6月17日の通常監査の時に、追加項目の調査指示を受けた。追加調査の背景には何らかの通報があったのではないかと、私自身は考えている」

この関島社長の言葉は、愛知県の処分を受けても、現場へのしわ寄せを改善することのできなかった経営陣に対する追求を自覚している、という意思表示のようにも聞こえます。

不正車検が行われたトヨタモビリティ東京「レクサス高輪店 」
不正車検が行われたトヨタモビリティ東京「レクサス高輪店 」

冒頭で語られた不正車検の原因となった人手不足と脆弱な設備、スタッフに求められる顧客サービスの高い目標は、トヨタ自動車が主導する流通改革の名のもとに進められてきましたが、想像する以上に現場を追い詰めていた結果がにじみ出ているようです。

トヨタ自動車・佐藤本部長は自省を口にしました。

「メーカーと販売店との経営の向き合い方が営業成果、台数の数字を見つめてきた。本来であれば顧客の幸せのためにがんばっている現場の苦労、悩みを踏まえた上での変革であることを現場に伝えなければいけなかった。メーカーの責任であると痛感している」

「もう一度、トヨタの信頼をなんとか販売店といっしょに作っていきたい。現場とコミュニケーションして顧客の用命を聞けるトヨタにしていきたい。慢心があったかといえば、裏に隠されたものを追求していくことが最も大事。数字の裏の真実は何だと。もっとよくするために本当のことを言ってくださいというところから始めていきたい」

今、オールトヨタの経営手腕が問われています。

(文・写真 中島みなみ