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■日本発のドリフト競技、選手が使うパーツはドコの国製?
●アメリカ製パーツ、オーストラリア製パーツがシェア拡大
ドリフトは日本発祥の競技ですが、かつてクルマのチューニングでも日本は先進国でした。
2001年の初年度からD1GPに参戦しているベテラン・上野高広選手に聞いたところ、初年度に乗っていたD1GPマシン(トヨタ・ソアラ)に輸入パーツは「たぶん使っていなかった」そうです。
しかし、現在のD1GPマシンでは、輸入パーツのシェアが非常に増えています。それではどんな部位に輸入パーツが使われているのか、上野選手のレクサスRCをサンプルに見てみましょう。
●日本車のエンジンでもパーツは海外製多し
まずはエンジンルーム。エンジン本体はトヨタのアリストやスープラに使われていた2JZターボですが、エンジン内部パーツはアメリカのBC製です。それからターボチャージャーもギャレット製。これはアメリカのメーカーってことでいいのかな。
それからインテークに使われるサージタンクや、フューエルデリバリーパイプはオーストラリアのハイパーチューン製。クランクダンパープーリーはアメリカのタイタン製。そして電動スロットルはドイツのボッシュ製です。
ほかの車両を見ると、エンジン内部パーツはHKSや東名パワードといった国産メーカー品も使われますが、輸入パーツのシェアも高くなっています。ターボチャージャーはギャレット製が多く、それ以外のものも含めて海外メーカー製のものが圧倒的に主流です。
●駆動系パーツはアメリカ、オーストラリア多し
エンジン以降の駆動系に移りましょう。クラッチは国産メーカーですが、トランスミッションはオーストラリアのホリンジャー製。トランスミッションとデフをつなぐプロペラシャフトもアメリカにオーダーして製作してもらったものです。そしてデフはシッキーのクイックチェンジと呼ばれるモータースポーツ用のもの。アメリカ製です。
現在D1界で、トランスミッションに関してはホリンジャーのほか、TTIやサムソナスなど海外メーカーのものが圧倒的多数になっています。デフもこのシッキーまたはウィンタースの「クイックチェンジ」と呼ばれるものが主流。これらのトランスミッションやデフは汎用のモータースポーツ部品で、アメリカなどではいろいろな競技車両に使われるようです。
さらにパワーユニット関係の補器類でいえば、燃料タンクがアメリカのラディウム。それから電動ファンもアメリカ製のものを使っています。
なお、上野選手の使用タイヤは中国のサイルンですが、現在のD1ではサイルン以外にもリンロンやナンカンなど、海外製タイヤが多くなっています。
●フットワーク系は日本製も多いか
次は足まわり。上野選手はダンパーユニット、サスペンションアームともにアメリカのパーツショップMAXというところのものを使っています。
ただ、現在もほかのチームは国産のダンパーユニットを使っているチームが主流です。サスペンションアームに関してはワイズファブ(エストニア)のような海外製部品が増えてきていますが、シルビア系やツアラーV系など、昔からドリフトで人気がある車種はまだまだ国産品のシェアが高いですね。
それでは室内を見てみましょう。ペダルがチルトン製、それからサイドブレーキのレバーがASD製でマスタシリンダーがウィルウッド製、ブレーキバランサーがチルトン製(いずれもアメリカ製)となっています。またPDM(リレーとヒューズの代わりになるユニット)とキーパット(PDMとセットで使うスイッチパネルのようなもの)はオーストラリアのモーテック製。
メインのメーターはアメリカのAEM製です。上野選手のマシン以外を見ても、電子パーツやメーター類は海外メーカー製が増えています。
ちなみに上野選手はエアロパーツやモータースポーツパーツを販売する会社を経営していて、上に挙げた製品もかなり自社で取り扱っています。ほかのチームに供給しているものも多いようです。
また、上野選手自身がアメリカのフォーミュラDで走りたいという計画があって、現地のメーカー等とのつながりを深めていることもあって、D1参戦チームの中でも海外製パーツは比較的多く使っているほうだと思われます。
●軍事用素材も使用、特殊加工機械も普通にショップにある
海外製(おもにアメリカやオーストラリア)パーツの利点について上野選手は、「まず強度が高い。軍が使っている材料だったりして、日本では手には入らないような材料で作られていたりします」といいます。
またマシニングセンタのような金属切削加工用の機械は、日本では機械加工専門の会社でないとなかなか持っていないものですが、アメリカにいくとカーショップが普通に持ってたりするのだそうです。なので、売っていないものは自分で作っちゃうのです。また4WD系のショップのマネをして、ドリフト系のショップが同じようなものを作れてしまう…
そうやってパーツがどんどん生み出されて性能も底上げされているそうです。アメリカやオーストラリアでは日本にはない様々なモータースポーツが非常に身近で、そして盛んなので、モータースポーツ用の部品というものの需要も供給も豊富なんでしょうね。
日本では、2003年のエキシビションから数年間にわたってD1GPもアメリカで大会を行い、様々な文化的、人的交流が生まれました。
さらに2000年代後半からは、新しいものをバンバン採り入れてモンスターマシンを作り上げ、D1に新境地を開いた斎藤太吾選手が海外製パーツをよく使っていたことで、D1GPに広まったという背景もあるようです。
それにしても、輸入パーツがどんどん増えていくというのは、楽しみもあるいっぽうで寂しさもあります。すべてのジャンルでとはいいませんが、国産パーツにも踏ん張ってほしいですね。
なお、6月26日に行われたD1GP第3戦は、単走優勝は中村選手。ラウンド優勝は内海選手でした。また、第3戦の翌日である6月27日に行われたD1GP第4戦は、単走優勝は松井選手、ラウンド優勝は小橋選手でした。
次のラウンドは2021年8月21日〜22日の福島県・エビスサーキットで行われます。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス/まめ蔵)
【関連リンク】
D1グランプリの詳しい情報は、D1公式サイトで。
www.d1gp.co.jp