限りなく自動運転に近づいた運転支援システム「アドバンスド・ドライブ」搭載車をトヨタが発売開始

■トヨタがハンズオフ可能な運転支援システムを搭載した燃料電池車MIRAIは845万円~860万円、レクサスLSは1632万円~1794万円

LS and MIRAI
アドバンスド・ドライブを搭載したLS500h「EXECUTIVE Advanced Drive」(1794万円)と「version L Advanced Drive」(1632万円)。MIRAIは「Z Executive Package Advanced Drive」(860万円)、「Z Advanced Drive」(845万円)2グレードを設定する

自動車100年に一度の大変革期において、トヨタは「幸せの量産」を使命として再定義しています。

モビリティカンパニーとしての幸せが何を示すのかは、ユーザーの一人一人に異なる印象があるかもしれませんが、自動車メーカーとして最大の不幸といえるのは、交通事故が起きてしまうことなのは間違いないでしょう。

ですからトヨタも交通事故ゼロを目指して、様々な安全技術を開発しています。そのフィロソフィーとして「普及してこそ」を掲げ、先進技術と普及技術を両輪に開発を進めているのも特徴です。

そのためトヨタは先進運転支援システムや先進安全装備の採用には慎重な印象も受けますが、着々と粛々と進めるというのがトヨタのスタンスともいえるのです。

さて、そんなトヨタから新しい高度運転支援技術を搭載した新グレードの市販が発表されました。新グレードが設定されるのは、レクサスのフラッグシップ「LS500h」と、トヨタ・ブランドの燃料電池専用車「MIRAI」です。

グレード名とメーカー希望小売価格を整理すると、2021年4月8日に発売されたLS500h(AWDのみ)が「EXECUTIVE Advanced Drive」(1794万円)と「version L Advanced Drive」(1632万円)。4月12日に発売されるMIRAIは「Z Executive Package Advanced Drive」(860万円)、「Z Advanced Drive」(845万円)となっています。

グレード名からもわかるように、新しい高度運転支援は「Advanced Drive(アドバンスド・ドライブ)」と名付けられています。

●コンセプトは「モビリティ チームメイト 」

アドバンスド・ドライブのセンサー類
アドバンスド・ドライブを実現するためい多くのセンサーが使われている。ミリ波レーダー/ステレオカメラ/望遠カメラ/LiDARのうち、望遠カメラとフロント用LiDARは専用装備だ

トヨタの考える、人に寄り添った運転支援システムのコンセプトは「モビリティ チームメイト コンセプト」となっています。その思想を体現した最新の先進運転支援技術の名称は「Toyota Teammate/Lexus Teammate」といいます。その中で、高速道路や自動車専用道での運転支援を担うのが「アドバンスド・ドライブ」と理解するとわかりやすいでしょう。

さて、アドバンスド・ドライブの機能を簡単にいえば、ナビゲーションシステムによりルート設定しているときに、高速道路の本線などを走っているときに機能するもので、ハンズオフ(手放し)運転が可能となりますが、いわゆる自動運転のレベル分けでいうとレベル2に相当する技術となっています。

具体的には次の3点が主な運転支援機能となります。

まずは、車間の最適化に加えて、左右間隔の最適化です。例えば全幅が広い大型車を追い越す際、車線の中央から右に寄りながら走行するなどして、ドライバーの不安を取り除くような挙動を見せるといいます。

Advanced Drive MIRAI
システム側が周辺の車両状況と道路環境を考慮したうえで車線変更可能と判断した場合、ドライバーがステアリングを保持した上で、自動的に車線変更を行なう

また、高速道路ではインターチェンジやパーキングエリアなどから本線に合流してくるクルマも存在します。アドバンスド・ドライブでは合流してくるクルマを検知すると、早めに減速して車間距離を確保し、相手車両のスムーズな合流を支援することができます。こうした譲り合いや割り込み時における阿吽の呼吸を、自動運転技術ではネゴシエーションといい難易度が高いのですが、今回は譲る方向でスマートな運転を示そうというわけです。

そして車線変更/追い越しも半自動で行うことができます。各種センサーによって周辺状況を把握したシステムが車線変更が可能と判断した場合、ドライバーがステアリングを保持し車線変更先を確認・承認操作をすることに対応して、自動的に車線変更を行います。車線変更においてはハンズオフではないのですが、これは人と機械の協調を考えた結論ということです。また、ドライバーがターンレバー操作をすることで、システムに車線変更動作を要求することもできるようになっています。

従来のADAS(先進運転支援システム)に対して、これだけの機能を追加したのがアドバンスド・ドライブというわけです。

ハンズオフするための条件がナビでルート設定しているときであったり、また地図情報として高精度マップを用いている点などからすると、日産「プロパイロット2.0」に近い機能といえるでしょう。

とはいえ、トヨタのアドバンスド・ドライブを支えるセンサーとしては、最新の自動運転技術に欠かせないとされるLiDARが複数個使われていますし、光学系でもステレオカメラにプラスして望遠カメラを搭載する凝ったシステムです。これは自動運転レベル3も可能と思えるほど余裕を感じさせるもので、将来的なソフトウェアアップデートでの大幅進化に期待が高まるハードウェア構成ということができるでしょう。

lexus LS and Toyota MIRAI
レクサスLS500h、トヨタMIRAIの「アドバンスド・ドライブ」機能に差はない。センサー類も同等となっている

なにしろ、トヨタの発表によると、この2モデルにはコネクティッド技術も搭載されています。日々の走行データは個人情報保護法に基づいた範囲でサーバに蓄積され、そのフィードバックによるソフトウェアアップデートはOTA(無線)によって実施されるといいます。

OTAによって自動運転レベル3までアップデートできるかどうかは、今後の議論も必要となるでしょうが、そうした可能性を期待したくなるメカニズムを持っているのは間違いありません。

なお、レクサスLSとMIRAIのアドバンスド・ドライブについては機能差はないとアナウンスされています。それでいて、ベース車とアドバンスド・ドライブ装着車の価格差は、MIRAIのほうが税込み55万円、LSでの価格差は税込み66万円~98万円となっています。

このあたりの値付けについては戦略もあるのでしょうが、アドバンスド・ドライブを含めて考えるとMIRAIのコストパフォーマンスが際立つ設定となっているようです。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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