■D1GPにタイヤウォーマーが普及
今年はD1GPにタイヤウォーマーを導入したチームが一気に増えました。1月に行われた第7戦、第8戦では、上位チームはたいてい使っていたといっても過言ではありません。
モータースポーツがお好きなかたならご存じでしょう。タイヤウォーマーというのは電気でタイヤを温める装置です。
タイヤ、特にスポーツ用、レース用のハイグリップタイヤというのはあるていど温度が上がらないと本来のグリップ力を発揮しないんです。走っていればタイヤの温度は上がるんですが、D1GPなどの場合、単走の1本めなどは事前に十分にタイヤを温めるのが難しい場合があります。
そこで、あらかじめタイヤウォーマーで温めておけば、わりとすぐにちょうどいい温度域まで上げられるというわけです。
ドリフトではリヤタイヤを空転させるので、リヤタイヤは比較的容易に温度を上げられます。問題はフロントタイヤです。
小橋選手によればウォームアップの際に「ウェービング、アンダーステア、ブレーキングなどでフロントタイヤを温めます」とのこと。
ただ、走行順を待っているあいだにもタイヤは冷めていくので、特に単走の本番1本めはなかなかシビアです。
藤野選手は「練習走行では、本番を想定してタイヤが温まっていない状態でも走ってみます。それで得点が足りなかった部分を、タイヤが冷えた状態でも直せるものかどうかを考えます。ムリだと判断したら、本番の1本めは修正しないで走ります。で、タイヤが温まった2本めで修正する」という戦略まで考えているそうです。
なので、タイヤウォーマーを使って特にフロントタイヤを温めると、本番前にはウォームアップが楽なのです。
それでは、タイヤウォーマーでタイヤはどれくらい温まるのでしょうか? 公式練習日の夕方、日が傾いて気温も下がってきた練習走行3本めで、日比野選手のタイヤを非接触温度計で計測してみました。
●最初は85度。でもどんどん冷める!
まずタイヤウォーマーを外したばかりのとき。表面温度は85度でした。アツアツです。このときタイヤウォーマーを使っていないリヤタイヤの表面温度は8度ちょっとでした。
ちなみに、タイヤウォーマーには通常温度表示機能がついていて、ほかのチームものぞいてみたのですが、たいてい70度台〜80度台まで温めていたようでした。
とはいえ、走行前にはクルマをジャッキから下ろして準備しなければいけません。ピットを出た時点で、タイヤウォーマーを外してから約7分が経過していて、タイヤ表面温度は55度くらいまで下がっていました。
さらに、ピットを出たあとはピットレーン出口でしばらく待ちます。そしていよいよコースイン。この時点でタイヤウォーマーを外してから約11分経過していました。タイヤの表面温度は45度前後でした。
ここからコースを3分の2周くらいしてタイヤを温めながらスタート地点に向かうわけです。ちなみにこのときの路面温度は日なたで10度前後でした。
そして走行終了後、ピットに戻ってきた日比野選手のマシンのフロントタイヤも計測してみました。トレッド面の場所によってちがうのですが、40〜50度といったところでした。
つまり、表面温度だけ見れば、コースインの時点でけっこういいセンまで上がっているわけです。
練習走行の1本め2本めはタイヤウォーマーなし、3本めに初めてタイヤウォーマーを使った日比野選手は、「いつもならハンドルを大きく切ってアンダーステアを出してフロントタイヤを温めながらコースインするんだよね。それが半周くらい走ってもまだズルズルなんだけど、今回はコースに出てハンドル切ったらもうノーズの向きが変わってくれる。タイヤウォーマーなしだと、スタート地点までには温まりきらない感じなんだけど、タイヤウォーマーを使ったら、最終コーナー手前できっちりブレーキが効いてくれる。コースインのときにフロントタイヤにあまり気を使わなくて、リヤタイヤを温めることだけに気を使えばいいからすごく楽だよ」とコメントしてくれました。
同様に、練習走行の途中からタイヤウォーマーを使った小橋選手も「タイヤウォーマーなしだとフロントタイヤを温めるのに1周かかりますけど、タイヤウォーマーを使えばヘアピンまでで温め終わりますね」とのこと。
やはり夏場はあまり気を使わなくていいタイヤの温度ですが、春先や秋口にはタイヤウォーマーが強い武器になるようです。
なお、第7戦は単走、追走ともに中村直樹選手が優勝しました。
第8戦は単走、追走ともに小橋正典選手が優勝しました。
シリーズチャンピオンは小橋正典選手、単走シリーズチャンピオンは横井昌志選手でした。
2021年のD1GPシリーズは、4月24日奥伊吹モーターパークで開幕予定です。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス・まめ蔵)
【関連リンク】
D1グランプリの詳しい情報は、D1公式サイト(www.d1gp.co.jp)で。