■水素と酸素で発電するFCV『新型ミライ』は走行距離が従来比3割増し
●無音のハズのサウンドチューンにも未来を感じる
タンク貯蔵の水素と空気中の酸素を使って電気を作り、モーターで走る燃料電池EV・ミライ。その2代目モデルのプロトタイプがお披露目されました。
今回のミライは、トヨタの新プラットフォームで最大の「GA-L」を使った後輪駆動へとチェンジしています。全長は4975mm、全幅は1885mmで全高は1470mmです。
レクサスLSやトヨタクラウンなどが使うプラットフォームの上に構築されたボディは、ボンネットが長くルーフが低く抑えられた超かっちょいいもの。ホイールなんて20インチも設定されてたりするんですよ。
内装に関しても先進的ではあるけれども、未来感だけを売りにするのではなく、一般的な高級セダンと比較して遜色のない質感と、カラーチョイス&デザインの方向性となっているのが特徴です。
ホイールベースは2920mmもあるため前席はもちろん、後席の足元空間の広さも美点です。
またパワーユニット関連も完全に一新しました。従来はモーターをフロントに搭載し2本の水素タンクを後席とトランクの下にセットしていました。
今回はモーターを後輪付近に搭載し、3本に増やした水素タンクはフロアトンネルに縦に一本。後席下とトランク下に2本という構成にしました。この配置によって前後重量バランスは50対50に。またタンクを含めすべてを低い位置にセットしたため、重心は強烈に低くなっています。
航続距離は従来モデルから約3割増しの850kmとなりました。
モーターの出力も初代モデルの158psから大きくジャンプアップして182psを発生します。
走行機能以外のメカにも注目です。ミライは走行中に取り込んだ空気を、元々の状態よりも綺麗にして排出することが可能です。これには高性能のエアフィルターとケミカルフィルターが活躍してるのですが、今回は新たにモニター内に「外に排出した空気がどれだけきれいになったか」を表す空気清浄計とも呼ぶべきメーターを表示させることが可能になっています。
また、ミライからは1500WのAC100V電源を取り出すことが可能ですが、それ以外にも給電器を使うことで外部に電力を供給することが可能です。一般的な家庭であればなんと4日分の電力を賄うことができるそうですよ。
今回、クローズドサーキットで実際に試乗する機会に恵まれました。走り始めて50mもしないうちに笑ってしまいました。なぜかって? 運転が楽しすぎるからです。
車重は1900kg台と決して軽くはないのですけれども、アクセルに対する加速力の立ち上がり方が並ではありません。これはモーターの出力が上がったことよりも、その性能のピークに達する時間が初代モデルよりも圧倒的に早くなってることが影響しています。あっという間に、それもほぼ無音で3桁スピードまで加速させていく様はミライならではの世界観で楽しいものです。
またその加速以上に今回、一番衝撃を受けたのはそのハンドリングの良さ。シャシーがいいこと、サスペンションがいいことはもちろんなのですが、何と言っても効いているのは圧倒的な低重心と前後重量バランスの良さです。内燃機関ではこれほど自由に(運動性能を高める方向で)パワーユニット構成パーツを配置することはできないはず。EVならではの利点をフルに活用した配置と言えます。
いやあ昔から福野礼一郎さんが書いていましたが、やっぱり運動性能の鍵を握るのは適切な重量配分なんですね(しみじみ)。
もちろん重量バランスだけではいいクルマにはならないので、ここまで気持ちいいハンドリングに仕上げた開発陣はとんでもない能力者だと思いますよ。たぶん時間もすごくかかっているでしょう。
また今回のミライで第2の衝撃だったのが、ASCと呼ばれる人工走行音のシステムです。これは読んで字のごとく本来ほぼ無音であるFCVに対し、走行を実感できるサウンドを追加するというもの。ステアリングコラムの右下にあるスイッチを押すことで作動します。
こういう追加サウンドデバイスと聞くと眉をひそめる方もいるかもしれません。しかしこのASC、そうした方にこそ一度は聞いてもらいたい革命的なシステムでした。
というのもこれ、エンジン音を模したものではなく『未来のクルマが風を切って走るイメージとはこういうもの 』という想定で、ゼロから作った音だからなのです。
その音は『ヒュゴー』とか『シュワー』といった音が幾層にも重なり合った、スターウォーズにおけるスピーダーバイクやトロンのライトサイクルのようなもの。でも決してトイ感はなく、この車格に見合うリアリティあふれる音なのです。
なおこのASCのサウンドは走行モードをスポーツにすると、より重低音が増して音量もアップしたものになります。ミライにGRスポーツが設定されるならこんな感じかな?と思わせるような音でした。
試乗は短時間でしたが燃料電池車に対するイメージをひっくり返すのには十分なものでした。
端的に言うとこのクルマ欲しい(キッパリ)。パワーフィールやハンドリングに音まで加味して考えると、近年、これほどスポーティーなセダンもなかなかないと思いますよ。
(ウナ丼)