一般国道で「2日連続、100キロ超えでオービス」を光らせ、警察ではなく検察が逮捕!求刑は罰金18万円、その内訳は!?

■2日連続でスピード違反をして検察に逮捕。罰金18万円の求刑!

2日連続でオービスに撮影された22歳の男性が、警察ではなく検察に逮捕され、罰金18万円を求刑されたと報じられた。
この報道は、運転者にとってなかなか興味深い部分を含んでいる。解説しよう。
まず、以下は1月26日付けYahoo!ニュースの冒頭部分だ。

2日連続、国道で100km/h以上飛ばしスピード違反で逮捕された男の言い訳 検察の出頭要請にも応じず…
福井県福井市内で2日連続でスピード違反し、検察の出頭要請に応じなかった男が道交法違反(速度超過)の疑いで福井区検に逮捕、起訴されていたことが1月24日分かった。福井簡裁で同日初公判が開かれ、検察側は罰金18万円を求刑した。福井県内で検察による逮捕は珍しい。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200126-00010000-fukui-l18

「福井新聞」の元記事(1月25日付け)のタイトルは「検察がスピード違反の男を逮捕 出頭要請に応じず、福井区検」(https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1016256)となっている。
Yahoo!ニュースのタイトルのほうが具体的だ。見ただけでクリックまたはタップしたくなる。ネットではタイトルが大事なのだ。

それはともかく、記事には「検察による逮捕は珍しい」とある。確かに珍しい。

●オービス取り締まりの手順はどうなってる?

通常、オービス(速度違反自動取り締まり装置)による取り締まりは次の手順でおこなわれる。

1、オービスが速度を測定し、設定速度(それ以上なら取り締まるという速度)を超えていたらフラッシュを光らせて写真を撮影する。
2、警察は、写真に映ったナンバーから違反車両の持ち主を特定する。
3、持ち主に対し「違反者は出頭せよ」という趣旨の郵便を出す。
4、違反者の出頭を得て取り締まり、事件を検察に送致する。

3の段階で、郵便(呼出状)を無視する者がときどきいる。「上申書を出せばチャラになる」といったデマを信じて出頭を拒む者もいる。そういう者を警察は逮捕することがある。実名報道することもある。

ところが今回の福井県の事件は、検察が逮捕した。つまり、上記4まで進んだあと、検察からの呼び出しを無視して逮捕されたのである。

検察庁からの呼出状
検察庁からの呼出状。文面は柔らかいが、検察庁、検察官になど縁がない人がほとんどだろう。普通は緊張するものだ。

検察は(警察も)普通、1回の呼び出しを無視したくらいでは逮捕しない。郵便や電話で何度も呼び出す。22歳の男性はすべて無視したか、または「その日は都合が悪いので来月」とかくり返してずるずる出頭しなかったのだろう。

ニュース報道は「福井簡裁で同日初公判が開かれ」となっている。「公判」とは公開の法廷での裁判、いわゆる正式な裁判だ。
罰金刑の裁判はほぼすべて略式でやる。しかし本件は、男性がまた逃げ回って裁判所へこないことをおそれ、勾留したまま正式な裁判をやった、そう読むことができる。

オービス
これは群馬県内のオービス。東京航空計器のオービスIII(スリー)、Lk型かLx型だ。ネットでは「Lh」と呼ばれる。
路面
オービスIIIの手前の路面。短い白線は「撮影ポイント」。測定した速度でちょうどのその白線にさしかかったところで撮影する、と東京航空計器は言う。もっと手前のアスファルトに掘り跡が見える。その下にループコイルが埋まっており、車両を感知する。

●罰金には違反に応じて金額の相場がある!

罰金18万円という金額について。
私は東京簡裁、東京地裁で主に傍聴している。東京のオービス裁判は、首都高速(自動車専用道路)でのスピード違反がほとんどだ。何百件も傍聴していると、鉄板の量刑相場が見えてくる。普通車の場合はこうだ。

超過50キロ台 = 罰金8万円
超過60キロ台 = 罰金9万円
超過70キロ台 = 罰金10万円
80キロ台以上 = 罰金では済まず懲役求刑

なぜ10万円止まり? スピード違反の罰金の上限は10万円だからだ。
スピード違反では、罰金額は求刑も判決も同じだ。求刑が罰金刑なのに判決が懲役刑になることはない。

では、一般道路ではどうなのか。
たまに正式裁判になったケース、また私が全国から聞いているところによれば、自動車専用道路および高速道路の場合よりワンランクアップらしい。つまりこうだ。

超過50キロ台 = 罰金9万円
超過60キロ台 = 罰金10万円
70キロ台以上 = 罰金では済まず懲役求刑

全国一律ではなく、地方によって違うことがある。超過50キロ台で懲役求刑の裁判を私は金沢地裁で傍聴したことがある。中央分離帯ありの片側2車線か、分離帯も歩道もなく狭い片側1車線か、制限速度は何キロか、そうしたことが罰金額に影響するようだ。

福井県の22歳の男性は、罰金18万円を求刑された。18万円という金額はどこからきているのか。
福井新聞はこう報じている。

起訴内容は、2019年8月11日午前5時50分ごろに福井市内の国道で規制速度を68キロ超えた時速118キロ、翌12日午前4時ごろには同市内の別の国道で法定速度を42キロ超えた時速102キロで車を運転したとされる。いずれも速度違反取り締まり装置で発覚した。

超過68キロと42キロ。一般道路での60キロ台は前述のように罰金10万円。量刑は超過10キロ刻みで、40キロ台は8万円。合計18万円。そういうことと解される。

●違反点数は18点、運転免許は取り消しか!?

福井新聞によれば、逮捕は12月16日、裁判は1月24日だ。判決は1~2週間後だろう。
ずっと勾留されたままなら、勾留日数の1日を5千円に換算して、5万円か10万円分か払い終えたことにするだろう。財産刑を自由刑で執行する「換刑処分」、それはよくあるのだ。
男性は22歳で若いし、犯行時のアルバイトはクビになったようで無職だし、もしかしたらこんな判決が言い渡されるかもしれない。

「主文。被告人を罰金18万円に処する。未決勾留日数中その1日を金5千円に換算してその罰金額に満つるまでの分をその刑に算入する」

罰金は全額払い終えたことにする、そういう判決だ。

運転免許の行政処分については、福井新聞は「違反点数は18点で、運転免許取り消しになるという」と報じている。
超過速度が一般道で30キロ以上50キロ未満は6点、50キロ以上は12点。合計18点。処分の前歴がなくても15点で欠格1年の取り消し処分の基準に達する。
しかし本件は、取り消しは免れるのではないか。そう思える理由は長くなる、またの機会に。

以上、新聞では絶対に読めない解説でした。

(今井亮一)

今井亮一【いまい・りょういち】
交通違反・取り締まりを取材、研究し続けて約40年、行政文書の開示請求に熱中して約20年。裁判傍聴マニアになって17年目。『なんでこれが交通違反なの!?』(草思社)など著書多数。雑誌やテレビ等々での肩書きは「交通ジャーナリスト」。2020年の目標は東京航空計器の新型オービス(レーザー式)の裁判を傍聴すること!

【関連リンク】
今井亮一の交通違反バカ一代!
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