●「あれ? このクルマFFだったっけ?」FFになった1シリーズが手に入れた走り
BMWのグループブランドであるミニはFFの駆動方式を採用していますが、BMWに初のFFモデルが追加されたのは2014年のこと。つまりBMWのFF車は非常に歴史が浅いことになります。
事実、2014年に登場した2シリーズアクティブツアラーにはあまりいい印象はありませんでした。
しかし、今回試乗した118iはものすごく刺激的で楽しいクルマでした。
その魅力を一言で言うなら「FFらしくない」というものでした。118iのエンジンは1.5リットルの3気筒ターボで、最高出力は140馬力、最大トルクは220Nmと力強いものです。
3気筒エンジンは振動が多いとか回転に雑味があるとかいう先入観がありますが、118iのエンジンにはそうしたフィーリングは薄いものでした。アイドリング中は細かい振動を感じますが許容範囲といっていいでしょう。また、ちょっと動き出せば振動は消えます。
そのままアクセルペダルを踏んでいくと、エンジンはスムーズに回転を上昇させ、シームレスに加速していきます。流すような走りでは、実用的でいいクルマだなと感じることができるタイプです。
クルマの動きはしっかりして正確で、ストレスを感じずに運転することができます。
アクセルを踏み込み、スピードを上昇させるとその姿は一変します。一言で「あれ? このクルマFFだったっけ?」という印象です。
アクセルワークに対するクルマの挙動がFFっぽい感じがないのです。コーナリング中にアクセルを踏み込んでいってもアンダーステア傾向はかなり抑えられています。限界速度のコーナリングではなく、上手にアクセルコントロールをすれば、クリップ手前からアクセルを開けていっても不安感がありません。
BMWのFF車には同社のキャッチフレーズである「駆け抜ける歓び」を感じることがありませんでしたが、新型の1シリーズには確実に「駆け抜ける歓び」があります。
ボディ全長は4335mm、全幅は1800mm、全高は1465mmと3ナンバーサイズとなりますが、乗ってみるとさほどの大きさは感じません。クルマのサイズ感とエンジンフィール、サスペンションをはじめとしたシャシーの正確さなど、日本のワインディングでのスポーティな走りでは、じつにマッチングがいいのです。ヒュンヒュンと軽快に走る感覚は久しぶりに味わう快適さです。
車両本体価格375万円とかなりリッチなクルマですが、自分の家の駐車場や周囲の道の関係で大きなクルマは買えないものの、経済的に余裕がある……という人にとっての魅力はかなり高いものとなることでしょう。
(文/写真・諸星陽一)