反則金を払わなければ「ほぼ100%不起訴」! その裏付けデータを公開する!!

■2018年の取り締まり件数は約599万件、反則金納付率は98.5%

 いわゆる青切符と赤切符。交通取り締まりで切られる(警察官から交付される)あれだ。
 警察庁のデータによれば、両方あわせた取り締まり件数は2018年は約599万件。うち95.9%が青切符だ。
 各違反の反則金額については警察のWebサイトで見ることができる。

反則金額
これは警視庁のサイト。都道府県によってデザインが異なっても、金額は同じだ。金額は法令で定められているので。

 この反則金、じつは納付は任意だ。義務だと思い込んで納付し、あとで「ひどい取り締まりだった。納得いかない!」とか新聞に投書する人もいる。
 納付は任意と知っていてもいなくても、
「ちっきしょう。危険も迷惑もない違反を待ち伏せやがって!」
 などと腹立たしく思いながら反則金を納付した方は少なくないだろう。私も若い頃は超ムカつきながらも納付し、警察を憎んだものだ。

 しかしその後、私は交通違反の処理手続きについて徹底的に調べ、かつ全国の読者諸氏から貴重な情報をたくさんいただき、国会図書館へも通い、本当のことを知った。
 それからもう30数年、こう言い続けてきた。
「反則金を払わなければ、ほぼ100%『不起訴』になる。納得いかない取り締まりを受けて反則金を払うのはドブに金を捨てるようなものだ!」
 根拠となるデータを、単行本や雑誌で書き続けてきた。
 今回、たぶん初めてネットで、最新のデータをもとに「真相」を明かそう。

 反則金とは、道路交通法(以下、道交法)の第9章「反則行為に関する処理手続の特例」に定められた特別なペナルティだ。
「交通違反といえども刑事犯罪に当たる。本来は刑事訴訟法に定められた刑事手続きで処理する。しかしこれを払えば刑事手続きへ進まずにすむ。さぁ、どうしますか?」
 というのが反則金なのである。
 反則金を納付すれば、金のペナルティについては処理が終わる。ただし違反点数はまた別だ。今回はそっちは省く。
 ちなみに反則金の納付率は、1967年に制度が誕生してから95%を下回ったことが1度もない。2018年は98.5%だ。

●「反則金を納付しなければ即裁判!」は間違い

 反則金を納付しなければ刑事手続きへ進む。
 運転免許の取得や更新のときのテキストには、「刑事手続き=裁判」と勘違いさせるように書かれている。取り締まりの警察官は「文句があれば裁判だ!」なんて言ったりする。

交通教本
右側が何十年も続いてきた『交通の教則』、2011年4月1日発行のもの。左側は、最近タイトルを変えた『わかる 身につく 交通教本』、2018年4月1日発行のもの。『教則』で長く使われてきた人気アニメのキャラクターのイラストが『教本』ではなくなった。どちらも発行者は全日本交通安全協会だ。

 だがそれは違う。すぐに裁判になるわけではない。裁判にかける(=起訴する)かどうかをまず検察官が決める。
 2018年の「検察統計年報」によれば、検察官による道交法違反の既済(きさい)人数はこうだ。

  公判請求     7,638人
  略式命令請求 13万8,956人
  不起訴    11万1,629人

 「公判請求」とは正式な裁判への起訴だ。
 「略式命令請求」とは略式の裁判手続きへの起訴。これは運転者本人の同意を必要とする。
 略式に同意した運転者は、ものすごく例外的なケースを除き、かならず罰金刑になる。略式は、簡単に罰金を徴収するための特別な裁判手続きといえる。有能な検察官は上手に同意させようとする。
 「不起訴」とは、起訴せずに一件落着とする処分だ。裁判へ進むことなく手続きは終了する。運転者の『勝利』といっていいだろう。

交通反則金
かつての『交通の教則』より。反則金を納付しなければ刑事裁判になるとはっきり書かれている。このウソを私は長年指摘してきたが、改まることはなかった。家庭裁判所うんぬんは少年(20歳未満)のこと。少年は家裁から呼ばれ、審判の前に反則金の納付を勧められるようだ。
交通反則通告制度
新しい『わかる 身につく 交通教本』より。『交通の教則』のようなあからさまなウソはなくなったが、反則金を納付しなければ刑事裁判になると誤解されそうな書きぶりになっている。

 それでだ、不起訴率はぶっちゃけ何%なのか。
 起訴(公判請求+略式命令請求)と不起訴を比べると、不起訴率は約43%となる。
 だがその比べ方は間違っている。上述のとおり、略式命令請求という起訴は運転者本人の同意が必要なのだ。取り締まりに納得いかなくて反則金を払わず刑事手続きへ進んだ人は同意しないはず。

 略式に同意しない運転者は、公判請求か不起訴かどちらかになる。
 公判請求と不起訴を比べると、不起訴率は約94%だ。
 しかしまだ「ほぼ100%」とはいえない。その先が大事なのだ。

 私は裁判傍聴マニアでもある。「窃盗」や「公然わいせつ」「名誉毀損」等々も含め、主に東京簡裁、地裁、高裁でこれまで8,500事件ほど傍聴してきた。もとは交通違反マニアなので、道交法違反の裁判もかなり傍聴してきた。
 そこからはっきり分かることがある。公判請求されて正式な裁判の法廷へ出てくる交通違反は、ほぼぜんぶ次の3種類だ。
1、無免許運転のなかでも悪質なケース
2、飲酒運転のなかでも悪質なケース
3、超過速度が80キロ以上のスピード違反

 これら3つは、もともと不起訴になりにくい重い事件、公判請求が決まりの事件といえる。
 反則金を納付せず刑事手続きへ進んで公判請求される、そんなのが刑事裁判の法廷へ出てくるのは極めて希(まれ)だ。
 ずばり裏付けとなるデータが、最高裁(最高裁判所)のサイトにある。昔は国会図書館へ出かけて調べたものだが、今どきは便利だ(笑)。

 データを見る前提として押さえておかねばならないことが2つある。
 1つめは、もとが反則金の事件が公判請求されて有罪になった場合、反則金と同額の罰金刑に処されるということだ。法令でそう決まっているわけではないが、全国的にそういう運用だ。
 2つめは、反則金の最高額は4万円だということ。大型車の高速道路での超過35キロ以上40キロ未満のスピード違反と、大型車の5割以上10割未満の過積載違反の反則金が4万円だ。

●反則金の人の不起訴率は99.9%!

 さぁ、以上2つを押さえたうえで最高裁の2018年のデータを見てみよう。
 全国の地裁(地方裁判所)と簡裁(簡易裁判所)で道交法違反により公判請求され4万円以下の罰金刑とされた人、その人数はこうだ。

  地裁 3万円以上~5万円未満  1人
     2万円以上~3万円未満  0人
     1万円以上~2万円未満  0人
           1万円未満  1人

  簡裁 3万円以上~5万円未満  1人
     2万円以上~3万円未満  2人
     1万円以上~2万円未満  2人
           1万円未満  1人

 なんと合計8人ぽっち!
 法務省と最高裁のデータは集計時期とか若干違うようだが、公判請求の7,638人と比べると、もとが反則金の人の不起訴率は99.9%なのである!
 一時不停止のほか信号無視など普通車の違反のほとんどは反則金が1万円未満だ。1万円未満の罰金刑となったのは全国で合計2人。
 もとが反則金の人が公判請求される可能性は100%に近い=反則金を納付しなければほぼ100パーセント不起訴、とはそういうことなのである。
「捕まったらオシマイ。反則金を払わなかったら裁判だ!」
 という思い込みがいかにあほらしい迷信か、よく分かるでしょ。

 ただし、反則金を納付しなければ自動的に不起訴になるってもんじゃない。スマホの画面で「不納付」をタップすればソク「不起訴」と出るようなものじゃない。
 検察庁から怖ろしげな呼出状が届くかもしれない。法律上は「刑事手続きへ進む」のだから、そこは覚悟しておこう。

 ところで、もしも今回のこの記事がネットで拡散され、反則金を納付しない人がどっと増えれば、反則金の納付額(2018年は約508億円)ががくんと減って大打撃?
 警察も検察も、反則金が納付されれば不要だったはずの書類作成を強いられ、悲鳴をあげる?

 いや、そんなことにはならないだろうと私は想像する。
 そもそもこの記事は漢字が多い。普段見慣れない熟語が多い。しかも長い。ネット向きじゃない。
 刑事手続きなんて聞いたこともない道へ進むのは、やっぱり怖い。もしも検察庁から呼出状がくれば、普通はびびる。
 納付率が98.5%とあるのを見て「みんな納付してるんなら俺も納付しとこう」となる、皮肉とかじゃなしにそれが普通だろうと私は思う。
 けれど、「反則金を納付しなければ刑事裁判だ」といった迷信、ウソに騙されたままでいるのはよくないと思い、この記事を書いた次第だ。

 ま、とにかく安全運転で。クルマは一瞬で人の命や健康を奪いかねない、じつは恐ろしい道具なのだ。恐ろしい裁判を私はたくさん傍聴してきた。一瞬の不注意、甘い考えが惨事を招く。気を抜かずにいこう。

取り締まり
※写真はイメージです。

(今井亮一)