劇的進化はネーミングだけでない。格別の仕上がりのよさと、WRC効果で光る走り【トヨタ・ヤリス試乗】

●グローバルモデルの名称に恥じない基本性能の高さを実感

トヨタのヴィッツがフルモデルチェンジしヤリスに車名を変更。そのプロトタイプに試乗することができました。

ヴィッツは1997年に国内投入されたときから欧州ではヤリスの名称を採用していました。今回のフルモデルチェンジでは国内モデルも車名をヤリスに変更、よりグローバルモデルであることを強調するようになりました。

ヤリスプロト 前7/3スタイリング
リヤフェンダーを膨らませたようなデザインが力強いエクステリアを実現

今回プロトタイプの試乗会が開催されたのは千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイでした。市販モデルの発売前ということで、クローズドコースが選ばれたというわけです。

試乗車として用意されたのは1.5リットルハイブリッドのFF、1.5リットルハイブリッドの4WD、1.5リットルピュアエンジンのCVT、1.5リットルピュアエンジンの5MTの4タイプでした。

ヤリスプロト エンジン
絶対パワーはハイブリッドだが、ピュアエンジンのフィーリングもいい。
ヤリスプロト インパネ
奇をてらわないインパネデザイン

全タイプに共通して言えるのが、ボディの素晴らしさです。ヤリスのプラットフォームはTNGAのなかでもっとも小さなものですが、そのプラットフォームとボディ剛性の高さが走りの基本をよくしています。

サーキットのストレートでクルマを左右に振ってみてもボディのきしみ感はみじんもありません。また、左の高速コーナーでコーナリング中にラインを変更しても非常に安定感のある動きをします。

ヤリスプロト リヤ7/3スタイリング
国産ハッチバックとしてはかなり思い切った力強いリヤデザイン

サスペンションはフロントがストラット、リヤがトーションビームとFF車としてはコンベンショナルな設定です。4WDモデルはダブルウィッシュボーンを採用します。リヤをダブルウィッシュボーンにすると動きすぎで不安感を呼ぶことがありますが、セッティングのよさもあるようで、そうした不安感は皆無で、乗り心地面で功を奏していることも加えておきます。

ヤリスプロト 真横スタイリング
ヘッドライト、リヤコンビランプともにサイドに回り込んだデザインを採用

今回試乗車したモデルのパワーユニットに使われるエンジンは、M15Aと呼ばれる新型の1.5リットル3気筒です。従来のヴィッツでは1.5リットル系は4気筒でしたが、それが今回3気筒に変更になっています。

気筒数が減ると振動面などで不利になるような気がしますが、このエンジンに限ってはそうした印象は一切ありませんでした。アイドリングでの振動も上手に処理され、ドライバーには伝わってきません。ただし、サーキットのストレートで全開したときは、すこしノイジーではあります。4気筒でも同レベルでノイジーなクルマはありますので、これはよしとするべきでしょう。

ヤリスプロト フロントシート
フロントシートは小ぶりながらしっかりととしたホールド性を備える
ヤリスプロト リヤシート
前倒し時の拡張性を確保するため平板な形状となっているリヤシート

3気筒化なんてコストダウンじゃないか? という人もいるでしょう。確かに3気筒にすればコストを落とすことができますが、新設計で作るコストは大きなものです。そして、4気筒→3気筒化はユーザーメリットもあります。プラグの本数だって4分の3に減るのですから、メンテナンスコストも落ちます。

絶対的な動力性能はハイブリッドが勝りますが、ピュアエンジン仕様も十分な力強さです。

ヤリスプロト ラゲッジ
リヤシート前倒し時の拡張性はいい。シート背面にちょっとした手持ち部分があれば、復帰させやすいはず
ヤリスプロト 真後ろスタイリング
下側がグッと広がるプロポーションは力強さを感じる

ヤリスは世界ラリー選手権(WRC)に参戦しているモデルです。ラリー車の場合はスーパーGT車両などよりもより市販車に近い仕様となるため、ラリーで活躍できるマシンを作るためには市販車の性能を向上しなくてはなりません。そうした背景もヤリスの基本性能が高くなっている理由といえます。

ヤリスプロト 正面スタイリング
初代は可愛いイメージだったヴィッツだが、今はかなりキリリとした顔つきだ

わずかな時間での試乗&撮影でしたが、ちょっと気になったことがあります。

まずフロントシート用のUSBソケットが1つしかなかったこと。今の時代、最低でも定員数分は必要だと考えるべきでしょう。それとラゲッジスペースを拡大するためにリヤシートを前倒しにした後に復帰する際、リヤシート背面にはストラップもなにもないため、後席のドアまで移動しなければなりません。

ちょっとしたことなので、簡単にカイゼン願いたいと思いました。普段の使い勝手のよさこそ、ヤリスに求められていることなのですから。

(文/写真・諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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