目次
■センシスの新型オービスは12台を同時に追跡することも可能
●国産オービスとは明らかに次元の異なる高性能ぶり!
さいたま地裁のオービス裁判の、センシス社員に対する証人尋問の後編である。
前編を踏まえて後編へ突入する。
センシスのオービスの測定方法は、固定式も可搬式も「トラッキングレーダー式」という。トラッキング(tracking)とは追跡して記録するというふうな意味だ。
検察官は証人(センシスの社員)に対し、まずこう尋ねた。
検察官「レーダー式の測定は従来と同じ原理ですね。電波のドップラー効果を利用して…」
証人 「はい」
測定機のアンテナから発射されたレーダー電波は、接近する車両に反射してアンテナに戻るとき、ドップラー効果により波長が短くなる。その波長の差から速度を計算するのだ。
同じ原理のレーダー式の速度測定機は、いわゆるネズミ捕り用として1970年代から日本にある。三菱電機(すでにほぼ撤退)のオービスもレーダー式だ。
センシスのオービスも速度の測定自体は同じ方法でおこなう、そこを検察官は確認してさらにこう尋ねた。
検察官「従来と異なる機能は?」
証人 「はい、位相のずれを計測します、車までの距離、入射の方向を。それによりトラッキング機能が備わっています」
検察官「入射角…距離と角度が分かるので、位置が分かるのですね。最大何台を把握できますか?」
証人 「12の対象物を同時にトラッキング可能です」
はあ? である。私は20年以上、国産オービスの否認裁判を傍聴し続けてきたが、聞いたこともない話だ。荒唐無稽にも聞こえる。
だが、詳しく知って私は驚いたね!
センシスのトラッキングレーダー式は、レーダー電波の照射範囲内にある反射物について0.047秒ごとに距離と入射角を測定し続ける。かつ、反射物が0.047秒後にどの位置にいるかを予測し、次の測定でその予測位置にいるかを確認する。予測と実測が10回のうち6回まで一致するとその反射物に「トラッキングID」を付与し、さらに測定と予測と確認を続ける。
そして「レポートライン」(撮影地点)にきたところでフラッシュを発光させて撮影する。そのあとも電波の照射範囲内にいるうちは測定を続ける。それを12個の反射物に対して同時に行なうのだという。
なんだそれ! 映画の空戦シーンで、複数の敵機に電子的な印をつけると敵機の動きに合わせて印も動き、ミサイルが全弾命中、というシーンがある。あれをセンシスのオービスはおこなっているのだ。ミサイル攻撃はせず写真を撮影するという形で。
キトロンは「防衛産業用の高性能機械」もつくっていると出てきた。そんな軍事技術をオービスに持ち込んでいるのか、センシスは!
●測定した記録は保存・グラフ化して警察に提出
しかも! 何より私が腰を抜かしたのは、そうした測定をぜんぶ自動的に記録してグラフにし、警察に提出するという点だ。
検察官がそのグラフを男性(被告人)に見せた。裁判員裁判用の大きな法廷を使っており、壁の両側に大画面のモニターがある。そこにも映し出された。私はもう食い入るように見た。
グラフはゆるく山なりの線だった。男性自身、オービスの辺りまで加速し、先の信号が赤色になったので減速し始めたと供述している。なんと、供述どおりのグラフなのだった。
日本のオービスは、写真に焼き付けられた測定値があるのみ。ほかに何も残さない。測定値が正しいか、あとから検証できるものを一切残さないのである。もっと言えば…いやそのへんは長くなる。省略しよう。
しかしそれでも日本の裁判所は、国産オービスの否認事件をあっさり有罪にし続けてきた。そんな裁判を20年以上も傍聴してきた私からすれば「センシスのオービス、すごすぎる。ぶっ飛んでる!」と思えるのだった。
というか、世界の約70カ国を相手に商売するだけあって、信頼性の担保は万全なのだ。下手なことをやれば競合他社に負けてしまう。
一方、日本のオービスは、失礼ながらアホな裁判所により甘やかされて育った、いわばガラパゴスオービスといえる。世界進出などできるはずもない。私は傍聴席で呆れ、そしてちょっと悲しかった。
センシスのオービスは300キロまで測定できるという。これも日本のオービスでは考えられない高性能だ。
さらに、1年2カ月以内に1回の定期点検において、10キロ刻みで30個の疑似信号をアンテナに送り、信号通りの測定値を表示するかすべて確認するのだという。ガラパゴスオービスでは聞いたこともない点検だ。
2016年、2017年、2018年の検査データを検察官は証拠として提出していた。
検察官「(2016年と2018年の検査は)2年2カ月離れていますね。なぜこれほど(30個の検査結果が)一致しているのですか?」
証人 「レーダーの性能がいいというか、動くパーツがないので摩耗がないのです」
この部分、それだけでさらっと終わったが、私は傍聴席で「ちょっと待て!」と思った。
東京航空機(TKK)の新型オービスはスキャンレーザー式だ。ネットで調べると、そうした装置のメーカーのサイトがヒットする。高速回転する「ポリゴンミラー」にレーザー光を当て、扇形に広がらせてスキャンするようだ。
同じ方式なら(たぶん同じだろう)、TKKのオービスには、高速で動きまくるパーツがあるわけだ。摩耗の心配はないのか。耐久性、信頼性の面で大丈夫なのか?
●カラー撮影が可能で写真はUSBメモリーに保存
あと少し、今回の裁判でわかったことを。
センシスのオービスのフラッシュは無色だという。国産オービスはすべて赤色(濃赤色)だ。センシスはなぜ無色なのか。
国産オービスと違ってカラー写真を撮影するためだという。なるほど国産オービスの写真は白黒だ。
カラーだと、写真を見せられた運転者が「こんなの俺じゃねえ!」と否認するのは難しくなるだろう。警察からすれば、ゴネる運転者が減ることになる。
それから、撮影した画像の扱いについて。
昔のオービスは36枚撮りのフィルムを使っていた。警察官がオービスの設置場所へ行き、フィルムを交換していた。
その後、撮影画像を通信回線で警察の中央装置へ伝送するようになった。
ところがセンシスのオービスは、USBメモリーに画像等を保存し、警察官が出し入れするタイプなのだ。そのぶん手間がかかる。
しかし工事費が安くすむ。私が情報公開でゲットしてきた契約書によれば、国産の固定式オービスはだいたい4,000万円ぐらい。センシスの固定式は約1,500万円だ。財政が苦しい自治体にとってありがたいだろう。
弁護人は、オービスについてまったく無知なようだった。それは仕方がない。ほぼすべての弁護士はオービス裁判の機微など知らないのだ。反対尋問は手も足も出なかった。
ただ、だから被告人(若い男性)はうそをついて否認している、とは私は思わない。本件オービスに測定・撮影されてから警察に出頭するまでだいぶ月日があったようで、何か勘違いしているのかもしれない。あるいは、今回の裁判には出てこなかった“穴”が何かあってほんとうに無実なのかもれない。
そうはいっても日本の裁判的には、1人目の証人だけで、いやその5分の1の証言だけで、余裕で有罪のはず。本邦初の裁判だったため検察官は完璧立証を、ま、裁判的には無駄な立証をおこない、おかげで私はいろんなことが分かり大興奮した。その意味で私は被告人に深く感謝したい。
さあ、こうなってくるとだ、TKKの新型オービス、スキャンレーザー式の裁判を何がなんでも傍聴したいじゃないか!
北海道でも沖縄でも、どこへでも私は行く。行って、センシスとTKKオービスの検察立証を比較したい。わくわくしてたまらない。
TKKオービスの裁判情報をどうかお寄せいだきたい!
(今井亮一)
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https://clicccar.com/2019/11/12/929353/