ブレーキ操作を手でも可能に。ペダルの踏み違いが原因となる事故を予防するための「もう1つ」の選択肢

●視界に入る位置に手動でかけられるブレーキを設置

【いざという時への安心感が日頃の余裕に繋がる】

どうしたって、アクセルとブレーキが並んでいて、ひとつの足で踏み換えるという操作が必要である限り、踏み間違いが起こる可能性はゼロではありません。

また、体力的に踏みしめる力が弱くなってくると、信号待ちなどでもブレーキペダルを踏み続ける力が抜けてしまうかも……という心配も。今は元気でも、なんとなく想像ができるという人もいるのではないでしょうか。

今回紹介する71歳の松本さんもそんな1人です。

松本さんは、愛車のフリード+(プラス)のブレーキを、手動のブレーキレバーで操作できるようにカスタマイズしました。これによって、いざという時にブレーキペダルを強く踏む代わりに、手でブレーキがかけられます。

その安心感がもたらしたのは、よりアクティブな生活。旅行が好きな松本さん、今までなら躊躇していた長距離のドライブでも気兼ねなく運転して出かけられるようになりました。

写真では車いすに乗っていますが、これは以前事故にあってしまい胸椎と首を痛めたため、長距離の歩行などがツライということで使用しています。

ブレーキレバーの導入も、身体機能としてアクセルとブレーキのペダルの踏み換えに差し支えるような状況ではないのですが、装着した理由は、いつ来るかわからない、いざという時に備えるため。

不安なまま運転を続けるよりも、何かあっても操作できるよう装備を追加して、普段から少しでも安心して運転をしたい。そんな気持ちから、なにかできる方法はないかというコトで、今回カスタマイズを施工した運転補助装置などを扱うオフィス清水に相談したのが始まりでした。

相談を受けてオフィス清水の担当である西田さんが薦めたのは、イタリアの機器メーカー、Kivi製のブレーキレバーLF901。ブレーキレバーという名前ですが、いわゆる昔なじみのレバー式のサイドブレーキ(パーキングブレーキ)のことではなく、ステアリングホイールの横に配されたバーを押して、手動で通常の足踏式のブレーキペダルを押す装置です。

実際装着したものを見ると、ステアリングホイールを握っている手を真下に下ろすとブレーキレバーの頭の部分に拳が乗るような位置関係です。

位置関係は調整可能なので、拳の大きさや、腕の力などに合わせてセッティングしたそうです。指3本くらいのストロークで走行時の速度調整、拳ひとつ分くらいのストロークで強い減速を伴っての停止といったようなペダル操作と一致するような操作感でした。

【ブレーキペダルでも制動できるシステム】

通常のブレーキペダルもそのまま使えるので、松本さんも普段はペダルを使って運転しています。またちょっと疲れたなという時に、ペダルをサポートするようにレバーを押すことも。

どちらかというといざという時のために、このブレーキレバーはあります。

フリード+には、アクセルとブレーキを同時に踏むとブレーキが優先となるブレーキオーバーライドシステムが装備されています。このシステムにより、少しでもブレーキがかかればアクセル操作は解除となり減速できるため、万が一の時、手がレバーを下ろせば減速するというコトになります。

ステアリングの右脇に見えるのがブレーキレバー。いつでも見えるのが安心。と松本さん。

友人とのロングツーリングでは都内から、高知県まででかけたことも。運転を交代してくれたご友人からは、ブレーキレバーを試し「すぐ慣れるし、慣れると違和感なく使える」「コレは使いやすいね」との意見も聞かれたそうです。

オフィス清水で開けられたレバーがストロークするための穴。ダッシュボードのパネルへの加工ですが、まるで純正のように備え付けられています。

ブレーキレバーはペダルへとロッドを介して接続されるため、装置内は電子的なエラーとは無縁。Kiviの商圏は左ハンドル車が主なため、右ハンドル車はワンオフに近い作業となります。

ちなみにフリード+を選んだのは、スタイルが気に入ったというのはもちろんですが、スライドドアの開口長にゆとりがあり、セカンドシートの座面が前方へタンブルし、車いすを置きやすいスペースができるから、というコトでした。

現在利用している車いすが電動のため重量があり、車両への収納が辛くなってきたので、同じKivi製のピラーリフトを装着しています。

【安心して運転できる期間をもう少し増やしたい】

今回紹介したブレーキレバーは、下肢に障害があってペダル操作がしにくいドライバーのために使われることの多い装置です。

ですが、そうでなくても高齢者になって、手足の衰えに不安を抱えたまま運転を続けるよりは、なにかしらアシストしてくれる装置やデバイスを使うコトで、安心して運転できる期間を増やせるというのはメリットが大きいと思います。

西田さんは、ブレーキレバーであらかじめブレーキをかけることでブレーキペダルの位置が下がるので、そこから踏み換えるという方法もあります。とのこと。

同じ道具立てでも、使いやすい方法で各々が運転しているようです。ちなみに、ペダルでブレーキ操作している時はレバーは上下動しないそうです。

いま乗っているクルマの運転に自信がなくなったら免許返納、という流れは本人が納得した上ならば頷けるものです。けれど、クオリティ・オブ・ライフという視点から見た時、やっぱり自宅から目的地まで「自分の足」で移動できるクルマというのは、失うには惜しいモビリティであるコトは確か。

生活圏内の公共交通が充実していたとしても、天気が悪くて雨雲が行くのを待ってから出発したいとか、もう少しで家事がひと段落着くから終わらせてから出発したいとか、立ち寄った喫茶店がステキだったのでもう少し長居してから帰りたいとか……。

そんな「もう少し」の時間をコントロールできるのは、クルマならではの自由。タクシーを頻繁に使えるのでなければ、やはりクルマは自家用車というコトになります。

もう少しだけでも、自家用車を安心して運転できる時間を増やすにはどうしたらいいのか。

アクセルとブレーキのペダル踏み違いなどの事故は、もう少しだけ運転しやすいインターフェースがあれば、抑止できるケースがあるのかもしれません。

【長くカーライフを楽しめるように】

なお、障害のない高齢者が、この装置を取り付けたいとオフィス清水に訪れることが増えているそうです。こういった使用方法を紹介し始めてしばらくは、親を連れてくる子を想定していたそうですが、実際は本人が直接連絡してくるとのこと。

何故と問うと「子供に相談するとその場で免許を返納しなさい。という話になってしまうコトが怖いので話せないそうです」という西田さんの返事。
なるほど、一連の報道もあり、そういった会話ができない現状にも頷けます。

しかし、決して全員が全員、思惑通りになるとは思いませんが、できることなら相談することによって、家族と状況を共有しつつ、自分自身の運転で自由に動ける時間を過ごせるようになるなら、そんな未来が望ましいとも思えます。

今回のブレーキレバーはもちろん、新車装着のプリクラッシュセーフティシステムや、新車時やアフターパーツでのペダル踏み間違い時加速抑制装置の装着や各種警告装置など、クルマはまだまだドライバーの状況に寄り添えるものとなりそうです。

一人でも多くの人が長くカーライフを楽しめるコトを。

(古川教夫)

【関連リンク】

オフィス清水
https://officeshimizu.jp/

この記事の著者

古川教夫 近影

古川教夫

1972年4月23日生。千葉県出身。茨城大学理学部地球科学科卒。幼稚園の大きな積み木でジープを作って乗っていた車好き。幌ジムニーで野外調査、九州の噴火の火山灰を房総で探して卒論を書き大学卒業。
ネカフェ店長兼サーバー管理業を経て、WEB担当として編プロ入社。車関連部署に移籍し、RX-7やレガシィ、ハイエース・キャピングカーなどの車種別専門誌を約20年担当。家族の介護をきっかけに起業。福祉車輌取扱士の資格を取得。現在は自動車メディアで編集・執筆のほか、WEBサイトのアンカー業務を生業とする。
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