昨年の「人とくるまのテクノロジー展」では、安全、効率、自動運転という自動車業界の「メガトレンド」を見据え、先進運転支援システム(ADAS)と電動化に重点を置いた展示を行ったドイツの自動車部品メーカー、ゼット・エフ・フリードリヒスハーフェン社(ZF)。
今年も統合システムサプライヤーらしい包括的な展示を行っています。カメラ、レーダー、ライダーや、それらのセンサーから得られた情報を処理し機能を制御するAIユニット、そしてステアリングやブレーキ、サスペンションシステムなどのアクチュエーターなど、様々な製品やユニットを実際に見ることができます。その中でも、電動化技術・製品の一つが目を惹きました。
日本で初めてのお披露目となったのが「モジュラー・セミトレーリングアーム・リア・サスペンション」、略して「mSTARS」と呼ばれるモジュールです。
ZFブースに展示されているこのリア・サスペンションシステムには、モーターやパワー・エレクトロニクスを含む電動ユニットが組み込まれており、このモジュールを使用すれば量産車の電動化が比較的容易できるそうです。
さらに、同社の後輪操舵システム「AKC(アクティブ・キネマティック・コントロール)」も統合されています。ポルシェ、BMWやフェラーリなどの高性能車両に採用されているAKCとの組み合わせで、快適性、安定性、取り回しや運動性能の向上も期待できそうです。
サスペンションとしての基本性能にも自信があるようで、ZFによれば「ベーシックタイプの製品でも小型の高級車やRVに採用されているマルチリンク・リアサスペンションと同じレベルのパフォーマンスを発揮する」とのことです。
とてもメリットの多そうなこのモジュールですが、どうやら量産車への採用はまだ決まっていないようです。もともと「ザックス」ブランドのサスペンション関連製品と、9速オートマチックトランスミッションなど駆動系技術に定評のあるZF。そういった分野の最先端テクノロジーに電動モジュールをコンパクトに統合したmSTARSは、同社の先端技術のショーケースと言えるでしょう。
それだけに、性能の高さや「多様な市場要件に対応できるソリューション」という物理的な柔軟性はあるものの、量産車への採用においてはコスト面での課題が残されている様です。
世界各国における排ガス規制が今後ますます厳しくなる中、自動車業界には電動化を含めた新しいソリューションの開発が求められています。同時に、安全性能や運転の自動化に対する要望も高まるなど、自動車に求められる要件もどんどん高度なものになっています。
mSTARSは、そのような社会的要件を満たしながら、一方で操縦性や運動性能などクルマの伝統的な楽しさを提供してくれる可能性を感じました。このモジュールに限らず、同じような製品・技術が世界各国のサプライヤーから提案され、環境に優しく、かつ、運転して楽しいクルマが我々一般ユーザーの手の届く価格帯で供給されるよう、自動車メーカーやサプライヤーには期待したいですね。
(Toru ISHIKAWA)